35親が殴り込んでくるのはおかしい
ファルト、アリス、リュドミラ、ゲルトラウドが到着するとそこには大穴が空いた校舎の壁が有った。
そして瞳孔が開いたまま倒れているエルシアと腰を抜かしている2人と、小便を漏らしながら気絶しているアーノルドが居た。
ファルトは直様腰を抜かしている1人の生徒に何が有ったか問いただした。
「おい! お前エルシアに何しやがった!」
「お、俺たちは悪くない! こいつがいきなり魔法をぶっ放してきたんだ!」
「嘘をつけ! そこで気絶してる奴の取り巻きだろうが! どうせエルシアに言いがかりでもつけたんだろ!」
そう言われると顔を伏せ、黙り込んでしまった。
アリスとリュドミラがエルシアに声を掛けるが、全くの無反応だった。
ゲルトラウドが主犯と思われるアーノルドを起こそうと、顔を往復ビンタを食らわせている。
しかし起きるより早く教員がやって来た。
「この騒ぎは何事ですか! !! 誰ですか! 壁にこんな穴を開けたのは!」
アリスが教員に理由を話す。
周りからの証言からも有りエルシアが一方的に責められる事は無かったものの、エルシアとアーノルドは保健室送り、腰を抜かしていた生徒2人は生徒指導室へ、証言した生徒は職員室に連れて行かれた。
保健室では2人の処置が施されていた。
アーノルドは直ぐに回復魔法が施されダガーナイフで刺された足は治った。
だがエルシアは未だ意識を取り戻さなかった。
「我の威を示せ、ボディーカルテ」
「どうですか先生」
「体に異常は特にないけど……多分精神的な事だと思いますね」
「精神的な事……」
黙っていたファルトが3人に声を掛け校舎の影に呼び出した。
突然のことにリュドミラもゲルトラウドも何事かとファルトに問い詰めた。
「アリス、話していいよな? と言うか話すのは初めてのことだ」
「わかりました。リュドミラさん、ゲルトラウドさん。今から聞くことは国家機密です。他人に漏らしたりすれば炭鉱送りです」
「ふぇええ」
「そ、そんなにおっかない話なのか?」
アリスは無言で首を縦に振った。
そしてファルトはエルシアの不機嫌な理由と自分たちの過去を話し始めた。
「エルシアはなぁ。人間と天使との間に生まれたハーフなんだよ。もちろんそれは禁忌にふれる行為だ。小さな時から1人隔離され見る顔は親の顔だけで16歳まで生活してたんだよ」
「ハーフってお前片翼と同じじゃないか! 今まで聞いたことないぞ」
「それはもちろん王が情報を隠蔽していましたからね。知っているのは私の家系のような国家に忠誠を誓う者だけです」
「それじゃ、ファルトさんも?」
“あぁ”と答え首を縦に振る。
「俺は人間と悪魔とのハーフだ」
ゴクリと唾を飲み込む2人。
「ところが俺たちの幸せは都合よく行かなかったんだ。俺もエルシアも誰かに情報をリークされ家が襲われた。エルシアは父親を殺され、おそらく母親も死んでる。俺だってオフクロとオヤジを殺されてる」
ファルトは呆れたように話を続ける。
「その後どうなったと思う? 俺たちは人界に追放され、魔獣が居る森の中に落された。笑えるだろ。存在自体が許されないんだ」
「それは……」
「俺は戦えるだけマシだった。エルシアは攻撃魔法が使えない。アリスは見たことあるだろ? エルシアの肌の傷跡」
「見たことありますね」
「俺が見つけたときには魔獣に食われかけてたんだ」
リュドミラは思わず小さな悲鳴が漏れてしまった。
その後もファルトの話が続き、エルシアの不機嫌の理由にたどり着いた。
「俺も言いなりになってやってしまったが、エルシアはもう1人になることが嫌なんだと思うんだ。友達の作り方がわからないエルシアにとって俺たちは依存対象なんだ」
「依存対象……オカルト部の一件でエルシアさんの依存体質に異常をきたしてしまったんですね」
「えるえる……」
「かーっ。めんどくさいことになったな」
エルシアの不機嫌の理由を話したファルトは自分にも非が有った事を認め、ファルトだけが保健室に戻り、3人は教室に戻った。
2人で一緒に出席しなければ為らないため、アリスに後でノートを見せてもらうことにした。
「なぁ、エルシア。お前の気持ちを考えずにあんな行動をして悪かった。すまん」
眠っているエルシアに語りかける。
ファルトが思っていることすべてをエルシアにぶつける。
「会ったときはお父さん、お母さんばっかりだったよな。お前の全ては両親だけだった。でも俺たちと出会って変わったな」
エルシアの手を取る。
その時のファルトの表情は今までにないほど笑顔だった。
「俺やネルガンの爺さん、アンソニー、カレン、アレス、ルル、アリス、そしてリュドミラとゲルトラウド。……オカルト研究部の3人も居たな。リンネ、ミルキー、トラヴィス」
強く手を握りしめる。
ファルトの瞳から涙が流れる。
「だからさ。エルシアは1人じゃない。目を覚ましてくれ……」
唐突に保健室の扉が開かれた。
入ってきたのは太った男性だった。
「アーノルド! 無事か!」
「ちょっと! ユードさん! 駄目です!」
「何事ですか! 保健室では静かに――きゃ!」
「どけ! 私のアーノルドはどこだ!」
ファルトは目を丸くした。
そして嫌な予感が頭をよぎったのだ。
親の背中を見て子は育つと言う。
(親もアレなら子も子だな……)
「あぁ! アーノルド! 制服の痛みからこれは刃物だな! おい! ちゃんと治療したんだよな!」
「治療はしました。他にも寝ている人がいるんです! 出ていってください!」
その言葉使いに切れたアーノルドの親は保健室の教員を掴むと壁に叩きつけたのだ。
更に電撃系の攻撃魔法を使い痛めつける。
やめさせようと事務のスタッフが止めようとするが同じ電撃系の攻撃魔法でひれ伏しさせる。
「おい! オッサン! 何してんだ!」
「あん? 俺を侮辱した者に制裁を加えているだけだ! ガキは黙ってろ!」
ファルトは2人の教員を助ける為にあえて挑発することにした。
「親がこうならアーノルドも底が知れてるな!」
「なんだと……もう一度言ってみろ」
「何度だって言ってやる。底が知れてんだよ!」
「っ~!!」
ファルトの思ったとおりに2人から離れるとファルトの方へ振り向いた。
顔を真赤にし、怒りが有頂天に達しているようだ。
「ぶっ殺してやる。我の威を示せ、マナエクスプロージョン!」
「我の威を示せ、キャストブレイク!」
ファルトは攻撃魔法を発動した瞬間に即座に対抗魔法を発動させた。
キャストジャミングとキャストブレイクの違いは詠唱中にキャンセルさせるか否かである。
ファルトの場合は詠唱が完了した状態の魔法を定義破綻させるタイプだ。
その場合初唱後の終唱を破綻させる。
キャストジャミングの場合は詠唱中に魔法書庫を破綻させるのである。
「なっ! 私の魔法が! ならば切り捨ててやる」
懐に備えていたナイフを取り出すと、ファルトに斬りかかる。
もちろん後ろにエルシアが居るため避けると言う事は出来ない。
「我の威を示せ、ウォーターキューブ」
アーノルドの親中心に水のキューブが発現し、その中に捉えた。
突然のことに両手を両足をばたつかせながら必死に逃れようとしている。
ファルトはナイフを拾うと窓の外に投げ捨て、魔法を解除した。
「ゲホ、ゲホ! お、おのれ!」
「少しは頭冷えたか?」
「こいつ!」
魔法を再び発現させようとした時だった。
保健室の入り口から聞いたことがある声が聞こえてきた。
「そこまでです!」
そこに居たのはソフィアだった。
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