34ハーフ、因縁をつけられるって
オカルト部の一件から数日。
エルシアの機嫌は崖の様に低下していた。
「なぁ、機嫌直してくれよ~」
「エルシアさん、あれは流石にすみませんでした」
「怒ってないって言ってるでしょ。ほらさっさと学園いくよ」
「絶対怒ってる」
「ですね……」
学園に行く途中いつもなら他愛もない話をしているのだが、終始無言で非常に気まずい雰囲気である。
学園に到着すると小走りになり1人で教室に向かっていく。
教室に入ると鞄を下ろし、教科書を用意し机に突っ伏した。
「あの~。えるえる? お、おはよ~」
「……おはよう」
「まだ怒ってる?」
「怒ってない。眠いから授業始まるまで話しかけないで」
「ふぇええ~」
リュドミラはアリスの方へ歩いていく。
ゲルトラウドもファルトの元へと近づく。
「なぁ? あれやっぱり怒ってるよな?」
「あぁ。絶対怒ってる」
「女って難しいんだな」
「そうだな」
リュドミラもふわふわしつつ焦っているが、やはり天然のオーラが漏れているため焦っているようには見えない。
「アリスさん、どうしよ~」
「どうしましょう。何かエルシアさんの癇に障ってしまったのでしょうか。最近は愛でられないですし」
「癇に障った内容がわかればいいんだけど~」
「それがわかれば苦労しませんね……」
なぜエルシアが怒り続けているのかをファルトは何となく気がついていた。
だが言い出せない理由が有った。
チャイムが鳴り、ホームルームが始まる。
担任のグルルト教員が教室に入ってきた。
「お前らー! 今日も元気してるかー! って今日も委員長ぐったりグッナイかー? 元気だしていこうぜぇーい!」
「……」
「あ、はい。明日休みだからってはっちゃけ過ぎるなヨ! ホームルーム終わり! 以上!」
ホームルームが終わり、入れ替わりに1限の教員が入ってきた。
今日の1限は魔法基礎応用である。
エルシアはムクリと顔を上げるとノートを広げ教科書を開いた
「それでは中学で習った範囲から問題です。魔法の発動に関して分かる人は居ますか?」
アリスが真っ先に手を上げた。
「シルヒハッセさんどうぞ」
「はい。魔法を発現させるにあたって初唱が必要になります。初唱は必ず”我の威を示せ”に限定され魔法の始動キーです」
「続けて」
「初唱を唱えると魔法書庫にアクセスできるようになり魔法名が思い浮かべます。そして魔法名を持って終唱し、魔法を発現させます」
「よろしい。応用編に行きます。再接続は使える人は居るでしょう、再接続とは初唱から始まり、魔法書庫に接続されます」
魔法基礎応用の教員が黒板に流れを書いていく。
全体の流れが黒板に書かれると、教員は端に退き話し始めた。
「魔法書庫を参照し1つの魔法をストックします。これを並唱と呼びます。ちなみに人が使える再接続は二段階までと言われていますね。そうですね、この間の魔法演習場でシルヒハッセさんとニールさんが行った事です」
再接続から再接続はとても精神的負荷が高く、魔力の消費量も2倍や3倍どころではない程に膨れ上がるのだ。
三段階を唱えようとするとその時点で魔力切れや発狂をしてしまう。
これが人の限界とされている。
「これにも名前がありますが、分かる人は挙手を」
エルシアが手を上げた。
「シフォーニさんどうぞ」
「再並唱と呼びます」
「そうです。これが人の限界です」
その後も授業は続き、2限が終わると昼休みとなった。
エルシアは1人黙々とルルが作った弁当を1人で食べていた。
表情は無く、機械的に口を動かしている。
「え、えるえる~? お弁当たべよ~?」
「いいよ」
「やった~。今日の授業アリスさんとファルトさんの話題がでましたね~」
「何? 片翼の私がファルトに出来て出来ないのをいいたいの?」
「そ、そんな事無いよ~」
雰囲気がピリピリし始め非常に気まずい食事になっていた。
リュドミラは目線をファルトに送ると首を横に振られた。
(そんな~)
「ごちそうさま。お手洗い行ってくる」
そう言うと教室から出ていってしまった。
「ああああ~アリスさ~ん。怖かったよ~」
「リュドミラさんは悪く有りませんよ。今のはエルシアさんが悪かったと思います」
「すまんな。あの状況で干渉するのは更に怒らせる事になると思って助けに行けなかった」
「いえいえ~。大丈夫ですよ~」
「女って怖いんだなぁ。俺もシルヒハッセとエリンフォースを怒らせないようにしないとな」
4人でどう機嫌を取るか作戦会議をしていると廊下から怒声が聞こえてきた。
クラスメイトも野次馬になりに廊下へ出ていく。
アリスは即時に魔力探知を発動する。
「これは……!」
「なんだ?」
「私達も行ってみましょう! 大変なことが――」
大きな爆発音と学園が揺れるほどの衝撃波が発せられ、悲鳴が聞こえてきた。
流石のことに4人もクラスから出ると悲鳴がする方へと走っていった。
★
エルシアはお手洗いに行くと言って教室からでた。
「……悪いこと言っちゃったな……」
1人廊下を俯きながら歩いていく。
だがエルシアの脳内にはあの時に染み付いた記憶が離れない。
考えるだけで気がおかしくなりそうだった。
その時肩に何かが当たった。
「おい、ヒトモドキ! どこ見て歩いてやがる!」
「……あなたはあの時の」
「お前のせいで制服が汚れた! 責任を取れ!」
「どこも汚れてないじゃん! ただぶつかっただけじゃん!」
「口を開くなヒトモドキ! さっさと責任を取ればいいんだよ!」
そう言うと髪の毛を鷲掴みにすると、引っ張り上げる。
髪の毛を引っ張られる痛みに声が漏れる。
「痛い! 痛い!」
「この!」
そのまま壁に押し当てると空いている片手で鳩尾を殴りつけたのだ。
「ごほっ!」
「やっちゃってください! アーノルドさん!」
「もう一回! もう一回!」
取り巻きがアーノルドを煽てる。
それに高揚したのか暴力が徐々に過激になっていく。
そして最後は両手で首を締め付けてきた。
「あ……か、は……」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
涙が溢れ、口から涎が垂れる。
両手で首を絞めている手を解こうとするが男性の力に敵わない。
次第に抵抗する気力も尽き、体の力が抜けてきた。
だが、ただ1つの思いだけが込み上げてきた。
理不尽だ。
エルシアの心に黒くドス黒い思いが染め上げていく。
唯一の黒い染みが真っ白い心を黒く染め上げるのは十分だった。
「いぎゃあああああああああ!!!」
「はぁ! はぁ! はぁ! 殺してやる! はぁ!」
エルシアの片手にはスカートの中から取り出したダガーナイフが握られていた。
刃先は真っ赤に染まり返り血で制服を汚していた。
「ひ、ひぃ! お、俺を誰だと思ってる! ユード商会の長男だぞ! 俺を傷つけたからには親が黙ってないぞ!」
「殺す! 殺す! 殺すウゥゥゥ!」
今まで抱えていた悩み、不満、理不尽、恐怖に心が完全に飲まれている。
アーノルドは取り巻きをエルシアに向かわせた。
「やっちまえ!」
「我の威を示せ! サンダーレイン!」「我の威を示せ! ボルトキャノン!」
「我の威を示せ、アテナ=リコネクト、我の威を示せ、エレクトロン=リコネクト、我の威を示せ、ハデス=リコネクト! 我の威を示せ!」
「ま、まさか再接続の三段階!? こいつバケも――」
「ダージス=エモートレールガン!」
その瞬間光りに包まれ気を失った。
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