33オカルト研究部
陸上部の部員が1年C組に流れ込んだ。
あっという間に退路を塞ぎ教壇に立った。
「C組制圧完了! 陸上部へようこそ!」
「え? え? 私水泳部に……」
「これは強制である! 陸上部へようこそ!」
「そんなぁ」
その頃にはB組にも流れ込んでいた。
だがここで1つの問題が発生する。
このクラスにはアーノルドが居たのだ。
当然のごとく自分に命令、押し付けをしてくる部員達に激怒し登校2日目にして取り巻き10人を従え暴れ始めたのである。
「貴様らこのユード商会のアーノルドに楯突くつもりか!」
「これはこの学園の伝統だ、従ってもらうぞ。まあ先輩に楯突くならどうなっても知らないけどな」
「だとコラァ! アーノルドさんにどういう口の聞き方だボケが!」
「なめてんじゃねーぞおい!」
先手を切ったのはアーノルド側の取り巻きだった。
教室内で魔法を発動させ教壇に立っている人物を狙ったのだ。
当然相手も対抗して魔法を放つ。
切っ掛けはそれだけで十分である。
「彼奴等を教室から追い出せ!」
「わかりましたアーノルドさん! 一緒にやっちまいましょう」
「テニス部応戦しろ! あのアーノルドを押さえれば我々の勝ちだ!」
一方的な流れにボケっとしていた生徒たちも攻撃魔法が飛び交う教室内で混乱していた。
どちらの味方をしても碌な事にならないことをわかっていたからだ。
1人、2人、3人と考えていることが広まっていく、その答えは。
「我の威を示せ! ファイアーランス!」
「ソリッドキャノン!」
「サンダーレイン!」
教室からの脱出だった。
扉を塞いでいる部員に総攻撃を仕掛けて廊下に逃げ出した。
だが、彼らを待っていたのは獲物を狙う他の部活部員の刃。
「ひゃっはああああ! 新鮮な人材だァ! ようこそ囲碁将棋部へ!」
「いや、吹奏楽部だね!」
「違う! 我々サッカーテニス部だ!」
抜け出したBクラスの8割が飲まれ残り2割が学校中に散り始めたのだった。
★
「なぁ? 廊下こんなに長かったか?」
ファルトの一言にアリスは気がついた。
リュドミラとゲルトラウドはまだ何も気がついていないようだ。
アリスはすぐ近くにある扉を開けようとしたが、まるで壁の縁を引っ張っているかの様な感触が腕に伝わってきた。
「これは……エルシアさんやりましたね」
「えるえるが何をしたの~?」
「皆さん、これは結界にとらわれているようです」
「結界だぁ? そんなもんぶっ壊せばいいだろ!」
「おい、ここは校内だ。下手に壊したら生徒指導室送りだぞ」
アリスは少し考え込むとファルトに意見を聞いた。
「ファルトさん、エルシアさんはこういう時どうしますか?」
「そうだな……。(エルシアも大分常識をわきまえて来たからな。結界の出口も外にはつながっていないはず。だとすると校内の人気がない部屋か?)おそらく人気がない部屋だな」
「人気がない部屋……資料保管室?」
「どこだそれ?」
「2階の端の部屋だったとパンフレットには書いてありましたが」
「よっしゃ! そこ行こうぜ!」
「えるえるより早く脱出して隠れちゃおう~」
4人は急いで階段へ向かうと2階端の部屋を目指して走っていく。
目的の部屋の前に到着すると扉がなく、黒い四角い空間が広がっていた。
アリスは臆せずにその空間に足を踏み入れる。
続いてファルト、ゲルトラウド、リュドミラが入っていった。
結界を抜けると薄暗い部屋に出た。
カーテンが閉まっているようだ。
「さて、ここまでくれば大丈夫ですね。あとは目的の部活へと向かうだけですね」
アリスがそこまで言うと扉に手を掛けた。
「……?」
扉がまるで霧のように手をすり抜け消えてしまったのだ。
それにはすぐ結界に囚われている事を察した。
アリスは振り向くと今まで何もなかった窓際に机と3人の人影が居た。
★
「よーし! 目的地はわかってるし、追いかけるぞー! ファルトめ、説教してやる!」
エルシアは迷うことなく2階に上がり、端の部屋まで一直線で走り抜いた。
そして結界の出口に足を踏み入れた。
「ファ~ル~ト~お縄につきなさ……い……?」
そこにはしゃがみ込んでいる1人の生徒が居た。
エルシアは誰も居なさそうな場所を指定したのだが、予測が外れたかと思い声を掛けた。
「あの~。こんな所で何をして――」
肩に手をかけた瞬間、生徒が振り向いた。
それは立ち上がりエルシアを捉える。
焦点が合わない目、腐り落ちた頬、ありえない方向に曲がっている腕。
それはエルシアにぎこちない動きで迫ってきた。
「ひっ!?」
急いで部屋から出ようとするが扉が無い。
先程までは結界の出口になっていたはずだった。
「な、なんで!」
資料保管棚を1つ移動するとそこには4体の血まみれの生徒が倒れていた。
どこか見覚えのある顔にエルシアの顔が恐怖に染まる。
「う、嘘……でしょ? アリスちゃん? ファルト? みらみら? あと一人誰ぇ」
足がガクガクとし始め、呼吸が荒くなっていく。
そこにそれは追いついてきた。
「あ、ああ、こ、こないでぇ……」
逃げたくてもあまりの恐怖に足が竦んで動くことが出来ない。
「や、やめ……ひゃあああああ!!!」
エルシアが叫んだ途端カーテンが開かれ3人の生徒が出てきた。
「はいお疲れ様―。魔法染料は魔力を通せば蒸発するから流しておいてねー」
「はぁ。なんでこんな事に……」
「クックック。もう君たちは我がオカルト部の部員なのだよ! 芝居に協力する必要がある」
「あー。ゾンビ君人形はあっちに片付けておいて」
「わかったよ。おい、エルシアいつまで固まってるんだ? おーい?」
「……」
「こいつ! 気絶してやがる……」
時間は少し前まで遡る。
「誰!?」
アリスが叫ぶ。
それに答えたのは椅子に座っていた生徒だった。
机の上の蝋燭に火が灯り、置いてあった頭蓋骨の置物を照らす。
「私はオカルト部、部長。リンネ・シルヒード。ようこそ、オカルト研究部へ」
口角が上がり怪しくメガネが照らされる。
アリスはあまりの出来事に膝をついた。
「お、おい、アリス?」
「私の格闘魔法部への夢は潰えました……」
「だったら逃げればいいだろ」
「そこの君~。知らないの? オカルト研究部からは逃げられないのよ」
「まぁただ単にこの部屋に結界が張られていて出ることは出来ないだけだけど」
続けて3人目の人物が喋りだす。
「逃げ隠れるのには最適なこの部屋。ロケーションもオッケー。誰かは知らないけどこの部屋に結界の出口を設定してくれてありがたいことね」
「エルシアめ、こんな所に繋げやがって……」
それを聞いたリンネは再び口角を上げた。
「おやおや? まだ人が来るので? それもここへ来たことへの復讐心もお有りで。どうですか? これから始めるショーに協力はしない?」
「ショーですか~?」
「このゾンビ君を使った少し過激なショーだけどね。2人ともアレを」
「はい、この血糊を制服に掛けてね~落ちるから大丈夫だよ」
4人は血糊を体に掛けると、部長の言う通り棚の影に横になった。
それからしばらくしてエルシアの声が聞こえてきた。
先程のゾンビ君に驚いている。
更に棚を移動し4人の元へ来ると更に怯えだす。
そして悲鳴と共にショーは終了したのだった。
「リンネ、これやりすぎたんじゃね?」
「いやいや、ゾンビ君を操っていたトラヴィス君がやりすぎたんだよ」
「たぶん新入部員の死んだふりに衝撃的だったんじゃない?」
「ミルキーまでそういうのかい?」
あーだこーだと言いつつ徐々に話の方向性がオカルトへズレていく3人。
ファルトはエルシアを介護するのであった。
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