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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
2人間の街と学園
31/113

31委員長決定





 床に降ろされたエルシアはそそくさと後方に下がっていた。


「ふえぇ……アリスちゃんがビリビリ人間になっちゃった」


 轟音と共に雷がファルトに放たれた。

 そこでふと気がつく。


「あれ? 私忘れられてない? よ、よーし! やっちゃうぞ!」


 アリスがスパークし、ファルトが距離をとった。

 その瞬間に早口で詠唱をすませる。


「我の威を示せ! アイギス=エモートハンマー!」

「これからは私のありったけをぶつけ」

「えい!」

「痛い。エルシアさん!?」

「やったー! 勝ったー!」

「おいおい、まじかよ」


 エルシアはファルトに向かってブイサインを送っていた。

 一方2階リタイア組は2人の白熱した戦いに見入っていたが突然の横やりに口が空いた。


「えぇ……それはないだろ……」

「エルシアさ~ん。おめでと~」


 1人だけ違う思考をしていたが突っ込むものは誰1人いない。


「模擬戦終了だ! 委員長はエルシア君とファルト君に決定だ!」

「え? まだ2人余って……」

「話していなかったか! 二人の成績などの評価点は2人で1つなんだ! もちろんあの機械式魔道具は2人でダメージを共有する仕様になってるぞ!」

「は、はぁ……。でもそれってずるくないですか? 2人で結託してたら模擬戦の意味がないのでは?」

「これが俗に言うブーメランか! いやー先生見てたよ! 3人で1人襲う所」

「ぐぅ」


 教員とクラスメイトが2階から演習場へ降りてくる。

 グルルトは演習場の床や壁を見て苦笑いをしていた。


「あちゃー。これは減給ものかな~ハハハ!」

「この素材高いんですよね。先生」

「ハハハ……。と、とにかく委員長おめでとう! エルシア君ファルト君!」

「ありがとうございます! ファルトー、いいんちょーって何すればいいの?」

「俺も知らん」

「詳しいことはこの後話すぞ! ではクラスへと戻るんだ!」


 グルルトが帰ろうとした時B組の教員から声がかかった。


「グルルト先生この始末はどうするんですか?」

「ギクぅ!」

「それに思いましたが使用許可取りました?」

「……後は任せました!」

「あ! ちょっと!」


 グルルトは生徒を置いて逃げていった。

 取り残された生徒はとりあえず教室に帰ることにした。

 教室に帰ると黒板に文字が書かれている。


「なになに? 委員長は学級日誌を提出し、クラスの点呼をすること。点呼が終わり次第下校してよし。何だこれ?」

「エルシアさんとファルトさんがやるんですよ?」

「そういえばそうだったな……めんどくせー」

「はーい! みんな席に座ってー! 点呼とるよー!」

「やる気満々だなおい」


 続々と自分の席に座っていく。

 全員が座った事を確認したエルシアは点呼を始めたのだった。


 エルシア、ファルト、アリスが教室に残った放課後、エルシアは頭を悩ませていた。


「がっきゅうにっしって何書けばいいかわからないよー!」

「適当でよくね?」

「ファルトさん。それは駄目です。作文を書くように書けばいいですよ。例えば今日のふざけた模擬戦とか」


 ファルトはアリスが2度も負けた事を根に持っている事を悟った。

 ここは余計なことを言わずに同意しておく事にするのである。

 

「えーっと……」


 学級日誌を書いている途中のことだった。


『1年A組担任グルルト教員はすぐに職員室に来ること。繰り返します1年A組担任グルルト教員はすぐに職員室に来ること』

「あいつ演習場壊して報告せずトンズラしたのか」

「でも、壊したのは私とファルトさんですし……代わりに行きますか?」

「……そうだな。エルシア、ちっと職員室行ってくるから教室で待っててくれな。まだ書き終わりそうにないだろ?」

「うん! 帰ってくる前に終わらせておくね」


 アリス、ファルトは教室を出ていった。

 1人残ったエルシアは学級日誌をせっせと書く。

 

 10分ほど経ち、エルシアは両手を上げ背伸びをした。

 思わず口から声が漏れる。


「にゅふ~。書き終わった~! 学級日誌ってどこに出せばいいんだろ? 職員室に先生居ないみたいだし……教卓においておけばいいかな?」


 教卓の上に学級日誌を置くと、窓際まで歩いていく。

 外で部活をやっている生徒達を見つめていた。

 静かな教室で1人っきり。

 ふっと母親の事が頭をよぎった。


「お母さん今頃何してるんだろ。酷いことされてないといいけど」





「失礼しました」


 ファルトとアリスが職員室から出ると、ため息をついた。


「まさか代わりに謝りに行った俺たちが怒られるとかありえねーだろ」

「これが大人の社会です。誰かが責任を取らなければなりません」

「って言われてもなぁ」


 悪態をつきながら歩いていた。

 説教が30分も続きエルシアを待たせてしまっているため少し急ぎ足でA組の教室に戻っていく。

 ファルトが教室のドアに手をかけた時、アリスに手を掴まれた。


「ちょっと覗いてみましょう」

「いきなり何なんだ?」

「いいからちょっとだけ開けて中を見るのです」


 ドアを少し開けると、窓際に立っているエルシアの姿があった。

 そして何かの歌声が聞こえてくる。

 ファルトは気が付かなかったが、アリスにはそれは子守唄だと気がついた。

 暫くその姿を見ていた2人は何事もなかったかのように教室へ入っていく。


「悪いまたせたな。叱られるとは思ってなかった」

「あ、おかえりー! 大変だったね、学級日誌書いといたよ!」

「それでは帰りますか」

「さんせーい!」


 3人で教室を出る。

 ここからが本題である護衛依頼である。

 アリスを無事に家にたどり着くことが依頼内容である。

 それもバレずに。


「今日は早く帰れたが、明日からは授業か」

「そうですね。私は部活動に興味があります」

「外で走り回るの楽しそうだよねー!」

「アリスはどの部活に入るんだ?」

「格闘魔法部ですね」


 格闘魔法と言う物は無いが、主に身体強化や体の一部に魔法を纏い戦う者を指す攻撃魔法の分類である。

 アリスの場合は強力な身体強化に雷を纏い戦う格闘魔法師だ。


「格闘魔法部ねぇ……。俺には合わないな」

「あら? あんなに格闘で挑んでくるのに?」

「あれはアリス用だ」

「そうなんですね。エルシアさんは何か入りたい部活とかありますか?」

「ん~。部活って何があるのかな?」

「おいおい、入学案内書類の中に学校紹介で書いてあっただろ」


 てへぺろと言った表情を浮かべ、わすれちゃったと言う。

 なんとなしに部活の話をしながら帰宅したのであった。

 しかしこの時3人は知らなかった。

 部活動の勧誘と言う戦争を。





3人が帰ってくる少し前、アンソニーの書斎にて。


「私だ」

『調査部からの連絡です。2ヶ月の滞在で森に凶悪な魔物の痕跡はありませんでした』

「そうか。安心したよ、結界の方はどうなっている?」

『結界は確認出来ず。結界は無効化されています』

「ネルガン氏はどうしていますか?」

『結論から言いますと既に死亡しています』

「なっ!? では、結界がネルガン氏の死亡により解除され片翼(ハーフ)の2人が出てきたと」


 アンソニーが1つの仮設を立てた。

 しかし、調査部からの報告により否定される。


『いいえ。遺体は人工的に焼かれ葬られており、遺書らしきメモを発見しました』

「読み上げて」

『はい。”儂は最後の最後であの子らに大いなる力と大いなる代償を背負わせてしまった。これを発見した国の人間はあの子らを守って欲しい”とのことです。それと一緒に書記が見つかりました。何かの魔法陣のようです』

「力と代償か……。魔法陣については何かわかりましたか?」

『いいえ。只今解読中です……今続報が入りました。初唱(ファーストワード)がわかりました。”我らの威を世界の(くびき)から解き放て”だそうです』

「私達が使うのとは違うな。何か特別な魔法なのか?」

『解析が終わり次第お伝えします』

「わかった。ありがとう」


 そう言うと受話器を置いた。

 アンソニーは椅子から立つとまでの外を見ながら呟いていた。


「大いなる力と大いなる代償……我らの威を世界の(くびき)から解き放て……か。何か奥がありそうだ」


窓の外には帰ってきた3人の姿があった。




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