30逆襲のアリス?
リュドミラの退場を見送った2人は魔法演習場を見渡した。
残っている人数は残り10人ほどだ。
その中でも抜きん出ている存在はアリスである。
高速の蹴り、高速の拳、それぞれが繰り出され相手になったクラスメイトは魔法の発動も、回避も出来ず吹き飛んでいく。
「なぁ、あのアリスだっけ? あいつやばくね?」
「俺に言うなよ。噂すると厄が来るぞ」
「そうだな……。俺たちは他のやつ狙う――え?」
「ん? どうした?」
一緒に居たクラスメイトが視線を横に向けると、先程居た人物ではなかった。
それは今まで見ていた女性だった。
「おま、ア――」
「ごめんなさいね」
衝撃波が発生するほどの高速の拳でクラスメイトは一瞬にして魔法演習場の壁に叩きつけられブザーが鳴り響いた。
エルシアがそれを見て”ダメージの肩代わりの許容量超えてるんだよね~”と言いつつ見ているとファルトは1つ気がついた。
「ん? アリスのやつなんで俺たちを狙わないんだ?」
「なんでだろうね。あ! わかった! ご飯でも美味しいデザートは最後に残しておくでしょ? それと一緒なんだよ!」
「つまり最後、デザートは俺たちってことか……。前より速度上がってないか?」
そう言っている間にもクラスメイトが吹き飛んでいく。
そして最後の3人になった。
アリスが目の前にやって来る。
「メインディッシュの時間です。これで誰も私達の邪魔は出来ませんからね」
「おいおい、この間の続きか?」
「えぇ。それもあります。私負けず嫌いなのですよ?」
「ああそうかい。我の威を示せ、フィフスフィジカルブースト」
ファルトは身体強化をかけるとアリスへと殴りかかった。
だが殴りかかる拳をパリングされ、大人が子供をあやすかのようになっている。
「我の威を示せ! トワイライトレクイエム! 我の威を示せ! ボディーシールド!」
「これは……結界の一種ですね」
魔法演習場が黄昏に包まれファルトとエルシアの姿が消える。
だがアリスは余裕の笑みを崩さない。
「以前。ファルトさんとエルシアさんを見つけたときがありましたよね? あれ、如何にやったかわかりますか?」
アリスは1人で喋り続ける。
「あの時何らかの魔法を発動しようとしていましたね? 何を発動しようとしていたのかは聞きませんが」
唐突にアリスがしゃがむ。
その瞬間アリスの頭部があった場所に風がきる。
「さて、魔法の中級程度の問題です。自身の魔力を周囲に流したらどうなるでしょうか? ファルトさんお答えを」
そう言うと一歩後ろに下がると片足を前に出した。
何かが引っかかり倒れる音がする。
ファルトが喋りそうにないのを察するに、アリスは更に語り続ける。
「自身の魔力の中に異物が混在します。要は魔力探知と言いますね。この様な限られた空間や少ない反応にはうってつけなのです」
アリスはそこまで言い終わると拳を強く握り腕を引いた。
足に力を込め、一瞬にして誰も居ない空間にめがけて飛び込むと拳を振り抜いた。
「がふっ!」
「なのでこの様に当たるのです。ね? エルシアさん?」
「エルシア!」
身を隠していたエルシアは腹部に拳を受け吹き飛び結界が解除され、保険に張っていた防御魔法が砕けた。
防御魔法のおかげでダメージの許容量オーバーにならず、ブザーはならなかったのだ。
「ファルトさん、エルシアさんを助けに来ないんですか? 可愛いエルシアさんを愛でて何処までがダメージに入るのか確認しないとですね」
「っ!」
「さぁエルシアさん。覚悟はいいですね?」
「や、やぁ……」
身を捩って逃げ出そうとするが、アリスの力が強く逃げられない。
ファルトはどうするべきか考えていた。
「ええい! 考えてる暇があったら動け! 我の威を示せ! アルティメットフィジカルブースト」
ファルトが一気に加速し、間合いを詰める。
しかし、アリスはなんとエルシアを拘束した状態でファルトの加速に反応した。
止められた瞬間踵落としが来ると思い、頭の上に腕を回したが来たのは足払いだった。
「なっ!」
「ファルトさんも一つ覚えですね。エルシアさんの方がうまかったですよ」
「バカの一つ覚えって言いたいか? 俺にだって腹案ぐらいあるんだよ! 我の威を示せ、アブソリュートゼロ!」
「これは……」
ファルトを中心に床が凍りつき始め、アリスの足首まで凍らせ動きを止めることに成功した。
“これは一本取られましたね”と笑顔で立ち上がるファルトにアリスが言う。
遠くから攻撃しても避けられ、近くで攻撃しようにも反撃される状態ではまともに勝つことは出来ない。
だが一度距離を詰め、相手が油断していれば話は別である。
「これで動きは封じた。行かせてもらうぜ! オラァ!」
「足の動きは封じましたね。ではこれはどうです?」
「なっ!」
拳が迫る中エルシアを盾として利用したのだ。
それだけでファルトの拳を止めるには容易だった。
無様に突き出した腕をアリスに引っ張られ、そのまま後ろへと投げられる。
氷の上を滑り、範囲外まで滑っていたファルトは立ち上がると魔法を発動する。
「我の威を示せ、イノセンスアビリティ=リコネクト。我の威を示せ、アントニムビースト=リコネクト。我の威を示せ! ビーストフォームアクティベート!」
「それは……仕方ありませんね。私の練習結果をお見せしましょう。我の威を示せ、アルティメットフィジカルブースト。我の威を示せ、ライトニングバーストエレメント=リコネクト 我の威を示せ、エレクトロン=リコネクト。 我の威を示せ! カドルエレメントフォーム!」
ファルトは四つん這いになり、魔力の粒子が視覚でも見えるほど溢れ出し形をなしていく。
それは獣の様に魔力の牙、魔力の爪、魔力の毛並み、魔力の尻尾を形作る。
膨大な純粋な魔力は質量を持ち実体化する。
「おい、見ろよあれ……。魔力が可視化してるぞ」
「あいつ……たしかファルトって言ってたか。再接続の重ねがけとかありえねーだろ……」
「もう1人も見てみろよ! とんでもないことになってるぜ!」
リタイア組はアリスの方を見ると徐々に変化が始まっていた。
雷が絶えず溢れ出し体を覆っていく。
白く体が見えなくなるまで覆われるとエルシアをそっと床におろした。
そして足を拘束していた氷にヒビが入る。
それと同時に光が弾けた、背に雷輪を纏い髪の毛は床につくほどに長くなっており、瞳は金色に変わっていた。
雷が魔法演習場全体に迸り過剰な魔力が対魔法構造の床や壁をえぐり始めた。
「1年A組のリタイア生徒はすぐに2階に避難! 巻き込まれるぞ!」
「うっそだろおい! 俺は逃げるぞ!」
「うわあ! 巻き込まれる!」
「逃げろおお!」
リタイア組が全員避難を終えたことを確認したアリスは更に魔力を上げた。
床に含まれていた砂鉄類が雷により耐魔法コンクリートから瓦礫として浮かび上がる。
「行くぞオラァ!」
「今回は負けませんよ」
ファルトが魔力の爪でかき切ろうと一直線に最大速度で飛び込んでいく。
アリスは目の前に手を開くと雷が何千と迸り互いにぶつかり合う。
「そんなもんかァ!?」
腕を強引に振り下ろすと雷が5つの束に裂け、床に衝撃波を放った。
爪痕の傷がアリスまで迫るが雷のガードで相殺される。
相殺した瞬間、雷のガードに牙が突き刺さった。
魔力の牙でガードに隙間を開け、更にそこへ魔力の爪を差し込みこじ開けようとしているのだ。
「うおおおおお!」
「流石に魔力と精神力を使いますね……!」
「アリス! 歯、食いしばれ!」
「っ!」
足に力を込め雷のガードをこじ開けたファルトはその勢いでアリスの目の前まで肉薄した。
あと少しで魔力の爪が届きそうな所でアリスがスパークしたのだ。
「何!?」
「危なかったです……まさか私の練習量より強いなんて流石ファルトさんですね。しかし距離を取ったのは悪い考えでしたね。これからは私のありったけをぶつけ――」
「えい」
「痛い。あ、エルシアさん!?」
アリスのブザーが鳴り響いたのだった。
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