3生活
「えっと、ファルトは何で天界にいるの?」
エルシアが疑問に思い、ファルトに聞く。
しかしファルトはエルシアが自分の置かれた状況をわかっていない事に驚いた。
「何を言ってるんだ? ここは人界だぞ? エルシアもハーフだからって追放されたんだろ?」
「人界? 追放? え?」
エルシアは全く自分の置かれた状況を把握しておらず、ファルトに言われ初めてここが天界ではなく人界だと理解した。
「そ、それじゃ、私のお母さんとお父さんは?」
「エルシアの最後の記憶はなんなんだ?」
「お父さんが天界騎士団と戦って、お母さんは追撃に来た天使に落されて……」
「はっきり言おう。天界の規則は知らないがエルシアのオヤジは死んでるな。オフクロは多分幽閉されているんじゃないか?」
父親が死んでいると聞かされエルシアは顔が青ざめ、軽い目眩を起こしてしまった。
「とりあえず、飯だな。今のエルシアには血が足りない。ちょっと取ってくるから待ってろ」
「うん……ありがと」
そう言うとファルトは何処かに行ってしまった。
エルシアはここが人界と聞いて少し不安になっていた。
もしファルトが戻ってこなかったら人界でひとりぼっちになってしまうと。
今になって両親の事や自分の状況に不安が積み上がってきた。
「どうしよう戻ってこなかったらひとりぼっち……。とりあえず起きて――」
起きようとしたその時今まで痛みが引いていた腕や脇腹、太ももが焼けるように痛くなったのだ。
涙目になりつつも体を起こし、木に寄り掛かる。
「痛い……はぁはぁ、はぁはぁ! 我の威を示せ、ヒールっ!」
動く腕で患部に回復魔法を掛ける。
掛けている間にも他の患部が痛みだし、額から汗が地面に落ちる。
「はぁはぁ……痛い、痛いよぉ……」
3箇所を念入りに回復魔法を掛けること30分。
ようやく痛みが引いてきた。
更に10分体全体に回復魔法を掛ける。
「はふー。私の回復魔法じゃ一回じゃなおらないかぁ……。練習しないとな~」
一方その頃ファルトは魔獣を追いかけていた。
「おらあぁ! 朝飯待ちやがれ!」
「キュイン!」
「くそ、足はえーなおい! 我の威を示せ! ライトニングアロー!」
雷の矢が魔獣に当たり、体を硬直させながら地面を滑っていった。
ファルトはやっと追いつくと木の枝を加工して作った杭でとどめを刺した。
「これぐらいの大きさならエルシアも食べやすいだろ」
そう言うが、兎を2倍の大きさにしたサイズの魔獣である。
どう考えても大きい。
「さて、俺の分だな。血の匂いに釣られて来るだろうし」
血抜きをしつつ、エルシアの事を考えていた。
体つきの事や、怪我のこと。
更には犯してみたらどんな声で鳴くのか。
そこまで考えて頭を振るった。
「ええい! 何で俺の思考はそんな方向に行くんだ! オヤジとオフクロの性だな! 2人とも遊び人だったからな……」
頭を冷静に戻し、1番気にかかっている事を考えた。
それはエルシアが天使のことだ。
この世界には2つのフラグメントがある。
カオスとコスモスである。
悪魔は基本的にカオスに分類され、天使はコスモスになる。
人間はカオスとコスモスが混ざっており、少年期の行動によってフラグメントが決まるのだ。
だいたい異なるフラグメントの場合仲が悪く、相容れない関係にある。
「だがなぁ……。エルシアを見てると初対面なのに嫌というか、一緒にいたいって気持ちのほうが大きいんだよな。ハーフ仲間だからか?」
そこまで考えていると、背後から木の枝を折る音が聞こえてきた。
立ち上がると魔法を発動させ、先手必勝で攻撃を仕掛ける。
「ガオゥ!?」
「あ゛!? 逃げんなコラ!」
突然の攻撃に驚き魔獣が逃げ出してしまいファルトはまた追いかける羽目になった。
木々の間をうまく避けて逃げる魔獣にファルトは苦戦しつつも魔法を発動させる。
「我の威を示せ! アースブレイク!」
地面から土の円柱が飛び出し魔獣に迫る。
初手は回避されたが、追撃が当たりファルトが追いつく。
そして勢いよく飛びかかり、ゼロ距離で魔法を放った。
「我の威を示せ、アクアスラッシュ」
水の刃でズルリと首が落ち、血しぶきが舞う。
もともと頭は食べないため簡単に血抜きが出来るように落としたのだ。
「よし。帰るか。生活魔法ぐらいならエルシアでも使えるだろ」
ひたすらと森の中を歩き、エルシアの元に戻る。
途中に微かに臭っていた血の匂いに惹かれ魔獣が襲ってきたが、獲物を振り周り撃退していた。
焚き火がまだ生きているのか森のなかに煙が一本上がっている。
「お、良い目印だ。まだ火が灯っていたのか。今日の飯はそれで焼くか」
ファルトが戻ると、エルシアは木に寄りかかり居眠りをしていた。
「な、なかなか根性あるな、こいつ……」
魔獣が居る森のなかで居眠りをするということは危険である。
ましてや着るものがないため血で染まった服をそのまま来ているのだ。
かすかな匂いに誘われて魔獣が来てもおかしくはない。
「むにゃ……ごはん、おかわり……」
「子供か! 俺も子供だけどよ。まぁ、飯焼くか」
ファルトが肉を焼いていると、匂いにつられてエルシアが目を覚ました。
若干寝ぼけているが肉を見るなり目を見開いた。
「お肉! これファルトが取ってきたの?」
「あぁ、そうだ。生活魔法使えるか? 余った肉を冷凍してほしいんだが」
「一応使えるけど、長持ちしないよ?」
「掛け直せばいいだろ。さあ食え。肉食って流した血を補えよ」
「うん!」
パクパクと肉を食べ始める。
その勢いは凄まじく、ファルトが用意した肉を食べきってしまった。
当の本人は自覚していないが、何処に兎の2倍サイズの肉を入れたのか。
ファルトはあまりの勢いに口が空いたままになり、おかわりと言われ自分の肉を差し出したのであった。
「ふ~美味しかった。昨日から何も食べてないからお腹減ってた」
「そ、そうか。傷は痛むか?」
ファルトにそう言われて一瞬戸惑ったが言うことにした。
「傷は動くと焼けるように痛い。回復魔法で痛みを消してるけどね」
「そうか……もしかして俺が傷口を焼いたからか? 肌を傷物にしてすまんかった」
ファルトは頭を下げた。
それを見たエルシアは咄嗟に手を振り、頭を上げるように言う。
「そんな事ありません! 私を助けてくれた恩人です! 頭を上げてください。もし、傷を手当してくれなかったら今頃死んでました」
「やさしいな。やっぱりフラグメントが違くても仲良くやれそうだ」
「私もファルトの事嫌いでは無いです。これからお互い天界、魔界に帰れるまでよろしくおねがいします!」
「あぁ、よろしくな」
しばらくの無言。
お互い声をかけ辛い。
「あ、あの――」
「エルシア」
今度は声が重なり無言になる。
男は度胸とファルトが声をかけた。
「エルシアは何歳なんだ?」
「えっ? 16歳です」
「なんだ年下か。俺は17だ」
「お兄ちゃんですね! ファルトお兄ちゃん!」
ファルトは胸を射抜かれたかのような感覚に襲われた。
心臓がドキドキと鼓動を早める。
なぜ自分がこれまでにないほど上がっている事に困惑する。
(落ち着け、落ちるくんだファルト! エルシアはただの常識がない16歳だ! それに俺はお兄ちゃんでもなんでもない! 落ち着け……7の段を数えるんだ。 7、14、22、35……おかしい! なぜこんなになってるんだ!)
「ファルト大丈夫? 顔赤いよ? 熱でもある?」
「なな、なんでもないぞ! 赤く見えるのは火のせいだ! そう火!」
などとファルトは言っているが、エルシアは頭の上に疑問符を浮かべているのであった。
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