29いきなりの模擬戦!?
「ここが1年A組ね!」
「エルシア?」
「あ、なんでもないよ!」
中に入ると30人は居るだろうか。
既に大半のA組生徒が集まっているようだ。
黒板には席順が書かれていた。
「名前の順みたいだな」
「そうですね。私は一番右上みたいです」
「3人並んで座りたかったな~」
それぞれの席に座ると周りのざわめきに耳を澄ます。
新しいクラスメイトに挨拶をしている者もいればどっちが強いか言い争っていたりと。
様々な言葉が入り乱れる中、アリスの声も聞こえてきた。
どうやら社交界で出会ったことがある人物のようだ。
エルシアはこんな時何をしたらいいか分からず椅子に座って固まっていた。
するとチャイムが鳴り響き、教員が入ってきた。
「おーい。席につけ~。朝礼だぞー」
そう言って入ってきた教員は名簿を広げ名前と顔を確認していく。
「よし、全員居るな! まずは自己紹介からだ! 私の名前はグルルト・ビアラスて
言うんだ! ちなみに彼女募集中だ」
その言葉に誰も反応せず教室が静まった。
流石に焦ったのか手で誤魔化し始めた。
「いや! 違うんだ! 悪気はなかった。うん。ごめんな? じゃ! 出席番号1番から自己紹介ヨロシク!」
「……ごほん。私はアリス・シルヒハッセと申します。趣味は可愛いものを愛でる事です。家柄関係なく話しかけてもらうと嬉しいですね」
「流石アリス君! 次、どんどん言っちゃって!」
その後クラス全員の自己紹介が続いた。
ハイテンションな教員は次にクラスの委員長を決めようといい出した。
「次は委員長決めだ! 推薦したい人が居れば推しちゃっていいぞ!」
「…………」
まだ会ったばかりで誰かを推薦できる仲でも無い。
誰も言い出さず手も挙げない。
ファルトはアリスを見たが、委員長にはさほど興味がなさそうだった。
「え? 誰も居ないの? 推しも? 先生がっかりだぜ!」
(えぇ……)
「よし、こうしよう! 模擬戦で一番強いやつが委員長な!」
「……は?」
「それじゃ早速魔法演習場に行くぞ! 案内するから着いてこい!」
A組は初日から模擬戦と言う無茶難題を言い渡されたのだった。
魔法演習場に到着すると、グルルトがルールを言い出した。
「まず、この機械式魔道具を身に着けてもらう。これはダメージを肩代わりしてくれる物だ! 既定値に達するとブザーが鳴る。それで模擬戦終了だ! 乱闘形式だぞ」
「メンドクセー。委員長なんてやりたくないからさっさと負け――」
「わざと負けた奴は1年間教室の床掃除な」
「チクショー!」
男子生徒が釘を刺された。
それを聞いていたファルトも”わざと負けられないな”と気合を入れ直した。
「これアリスちゃんの家で使ったのと似てる!」
「そうだ。エルシア君とファルト君は違う物をつけてくれよな!」
「違う物?」
「そうだ。ダメージが同期されるようになってるぞ」
エルシアとファルトは手渡された機会式魔道具を身に着けた。
パット見見た目は変わっていない。
「よし! さっさと戦い始めろ!」
「えぇ……」
A組生徒たちの大半が呆れていると何処からか攻撃魔法が飛んできたのだ。
「うわ! 誰だ、今攻撃したやつ! お前だな!」
「ち、違う! うわ!」
それを切っ掛けに模擬戦という名の乱戦が始まった。
エルシアとファルトは2人でシールド内に留まっている。
「どうしよう……」
「まあ、適当にやればいいんじゃね? 奥の手は隠しで」
「わかった!」
「いくぞ! 我の威を示せ、ライトニングランス」
1人の同級生に向かって放たれた魔法は直撃の直前で防御魔法に防がれた。
ファルトは認識を改め、再度攻撃魔法を行使する。
「我の威を示せ、バスターシュート」
「我の威を示せ! プロテクション! ……なっ!? 俺の防御魔法を突破するだと!」
「悪いが脱落してもらうぞ。我の威を示せ、インサニティ」
「ぐが、ぎっ、きょええええええええええええええ!!」
クラスメイトは頭を抑えながらその場に倒れ込みぐるぐると奇声を発して動き始める。
この魔法は一時的に精神を抑圧し、発狂させる。
ダメージではないので機械式魔道具の肩代わりにはならない。ただし効果時間は短いのが欠点だ。
「よし。1人脱落だ」
「ふぁると~! いつもの使えないと攻撃できないよ~!」
「はいよ。我の威を示せ、クラインバスター」
エルシアが積極的に周りからのヘイトを取り、ファルトがそれを狩る。
何人かはエルシアを無視し、ファルトへ向かうが既に術中に嵌っていた。
侵入可脱出不可の結界をファルト中心に発動させていたのだ。
「ハメられた! こうなったら自棄糞だ! 我の威を示せ! ウォータースクリュー!」
「広域じゃなければ見て避けれるな。よっと」
「掛かったな! 2人ともやれ!」
「我の威を示せ、ライトニングジャベリン!」
「我の威を示せ、サンダーレイン!」
ファルトの着地硬直を狙い、後ろに居た2人が魔法を発動させた。
だが、無視されたエルシアが黙っていない。
「我の威を示せ! スフィアシールド!」
消費魔力の低い防御魔法でファルトをカバーする。
雷の雨と槍が突き刺さるが、防御魔法は難なく受け止めたのだ。
襲いかかってきた同級生3人は1つの魔法を維持しながら、もう1つの魔法を行使して見せたエルシアに驚愕した。
結界魔法を維持しつつ2人分の攻撃魔法を防ぐとなると相当な魔力コントロールが必要だからだ。
「お返しだ! 我の威を示せ、スーパーノヴァ」
結界内部が大爆発を起こし、ファルト以外の同級生は一発にして戦闘不能に陥った。
広範囲攻撃魔法であるこの魔法は結界と言う小さな空間で圧縮され威力を増したのだ。
「ファルト~! ぐっじょぶ~!」
「おう! ……て、後ろ見ろ! 来てるぞ」
「あっ!」
「我の威を示せ、アロイスア――ぐぇ」
エルシアは咄嗟に魔法を発動させようとしたが相手の方が早く、ダメージを覚悟した。
しかし相手は魔法の発動途中で足を縺れさせ顔から転んでいたのだ。
あまりの可哀そうでエルシアは手を差し出した。
「だ、大丈夫?」
「ん~。ダメージを肩代わりしてもらったから大丈夫~」
「そっか! なら安心だね!」
「うん。安心~」
ここに天然と天然が揃い不可思議な空間が生まれていた。
「お名前はたしか……え、エリシアさんでしたか~」
「エルシアだよ! あなたの名前はリュドミラさんだっけ?」
「そうです~。リュドミラ・エリンフォースと言います」
模擬戦中なのにほんわかとした雰囲気が流れていた。
そこにファルトが同級生を攻撃魔法で攻撃しつつエルシアに危害が及ばないようにしながらやってきた。
「あら~、あなたは確かフォルトさんでしたか~」
「ファルトだ! エルシア模擬戦中だぞ」
「あ! そうだった!」
「あ~。そうでしたね~」
2人は立ち上がるとお互いに握手をした。
「お互い頑張ろうね!」
「頑張りましょ~」
そう言うとリュドミラは走っていったっと思った矢先攻撃魔法が真横から直撃し吹き飛んでいったのであった。
これにはエルシアも困惑する。
急いで駆け寄り、抱きかかえる。
「リュドミラさん! 大丈夫!?」
「……私はもう駄目……。エルシアさんだけでも生き……のび、て」
「リュドミラさあああん!」
「いや、死んでる様にしてるけど死んでないからな?」
ファルトに突っ込まれるとエルシアとリュドミラが起き上がった。
攻撃魔法を直撃したせいで機械式魔道具のブザーが鳴っていた。
「このブザーで心肺停止みたいな~感じで演出できてたけどなぁ~」
「それに駆け寄る私もいい感じ出てたのに」
「はいはい。リュドミラは外に出てろよ」
★
「いやぁ~。みんな頑張ってるな! 誰が委員長になるか楽しみだ!」
「おや、グルルト先生じゃないですか。着任してまだ早いのに新入生に乱闘させて大丈夫?」
「ああ! B組の先生! 子供は体を動かしてこそ健康になる! 戦いの中で生まれる友情もあるから!」
「は、はぁ……」
「だいぶリタイアしている生徒が出てるな! 注目はアリス君! 身体強化だけでもう10人は落としてるぞ!」
「アリスと言うとシルヒハッセさんのお子さんですね。確か3年間中学格闘魔法大会でトップの座に居続けたのもありますね」
2人の教員は魔法演習場の2階から生徒たちを眺めてつぶやいていたのだった。
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