26表彰式と住民への周知
憲兵本部へ到着した2人は裏口に案内され会議室まで通された。
そこにはテレビ局で見たテレビカメラやテレビ局から出たときに向けられら眩しいカメラ。
そして偉そうな人が立っていた。
「えー記者の皆様。本日の主役が到着しました。悲惨な交通事故で死者を出さずに治療し、マンションでは子供を助け出したエルシア・エル・シフォーニさんとファルト・ニールさんです!」
カメラが一斉に2人に向けられた。
フラッシュが焚かれエルシアは少し目を細めた。
「2人はサンディーズの街でシルヒハッセ家に保護されこの街にやってきたばかりだそうです。更に今年のアークホワイト学園への入学も目指しているとのこと。さて、表彰式に移りましょう」
そう言うとエルシアとファルトを前に立たせた。
そして表彰状が2人に手渡される。
その様子はエデルガーデン全体のテレビに中継され多くの人の目に写った。
ある者は地方新聞を読んでいたことから2人が片翼と呼ばれる存在だと周りに広め、ある者は事故に居合わせ2人が凄腕の魔法の使い手だと広める。
こうして2人の存在はあっという間に広がり、尾ひれをつけ国中へと広がっていく。
「さぁ、カメラに表彰状を向けて」
2人に小声で話しかけてきた。
エルシアはカメラに振り向き大きく表彰状を掲げた。
その瞬間カメラのフラッシュとテレビカメラが向く。
ファルトも嫌そうに胸の高さで表彰状を構えた。
次にファルトめがけてフラッシュの嵐が降り注ぐ。
「質問いいですか」
「どうぞ」
「2人はどうして咄嗟に動けたのでしょうか?」
記者は2人に尋ねる。
先に答えたのはエルシアだった。
「だって人が大怪我して倒れていたら助けなきゃ! それこそ人だから」
「俺は慣れてるからな。生まれが違う」
「なるほど。2人はこのような場面に多々遭遇していると思われます。これから学園に入学し、教育課程でギルドに入られると思いますが、その際もそういった場面が多くなると思います。それでも進みますか?」
「はい!」
「当然だな」
「ありがとうございました」
その後も記者の質問が続き、1時間程経った後解散になった。
憲兵は2人を車に乗せるとシルヒハッセ家へと車を走らす。
「いや~長い表彰式だったね。その年で堂々としてられるのは凄いと思うよ」
「すごいでしょ~。2回目だからちょっとは慣れてた!」
「1回目はひどい目にあったな……」
サンディーズの街で記者に囲まれた時のことを思い出していた。
あの時はもみくちゃにされ質問の嵐だった。
車は一般住宅街に入り、夕方の街並みが広がっていた。
この通りは路面電車が走っている様だ。
エルシアが赤信号で停車中に眺めていたのだった。
「ん? あれが気になるのかい?」
「うん!」
「あれはね、通称ちんちん電車と言うものだよ」
「おい、お前わざと言ってるだろ」
「はっはっは! その年でこれくらいなら大丈夫だろ!」
「ちん……」
エルシアは顔を赤くして俯いた。
信号が変わり車が動き出す。
一般市街地を抜け、高級住宅街に入る。
「毎回ながらこの辺は俺には合わないエリアだな」
「憲兵なのに一般人なのか?」
「給料が低いんだ。たったの50ビルだぞ」
「低いのか高いのか分からね」
「一応公務員だが給料はその中でも最低、支給される装備も払い下げ品。やんになっちまうぜ」
「まぁ……苦労してるんだな」
身の上話をしていると見たことある通りにでた。
それは先日車で通った場所だ。
「よし、あとは真っ直ぐ行くだけで到着だ」
「今日は疲れたぁ。迷子からの人助け、更には憲兵さんとの追いかけっこ……もしかして森より大変だったかも」
屋敷が見えてくると門の前に多数のカメラを持った人が集っていた。
車に気がついた一人が声を上げると、カメラが一斉に車の方へ向けられ車が包囲された。
「おいおい、こりゃどうなってんだ?」
「いわゆるパパラッチってやつだな。ニュースで一気に有名になって更にシルヒハッセさんの家にいると来たもんだ。駆けつけて来ないわけ無いなぁ」
「ぱぱらっちぃ?」
エルシアは初めて聞く言葉に顔を傾けた。
憲兵はマイクを手に取ると外にいるパパラッチに警告を促す。
「お前ら人の家の前で何やってる! 車を包囲するのをやめろ! 退かないならば強硬手段に出るぞ」
「うるせえ! こっちは命がけでやってんだ! やれるものならやってみろ!」
そう言い返すとボンネットの上に乗って中にいるエルシアとファルトを撮影しようとしてきた。
憲兵はしょうが無いかという表情で車に搭載されていた魔道具を起動させた。
その瞬間ボンネットに乗っていたパパラッチは悲鳴を上げながら転げ落ちていく。
周りに集っていたパパラッチ達にも悲鳴が上がり包囲が崩れた。
「よし。門に横付けするからそっちから降りてくれ。絶対車に触ってはいけないよ」
これだけ大騒ぎをしていたのだ。中からルルとアリスが出てきていた。
ルルが門を開け、2人を敷地内に引っ張り込み素早く門を閉める。
パパラッチ達が悔しそうにこちらを見ていたが、流石に敷地内に入ってくる事はなかった。
「やっと帰れたぁ! 最後のぱぱらっちぃ?には驚いたね!」
「ああいうのは構わないほうがいいぞ」
「そうなの?」
「ファルトさんの言う通りです。付き合ってたら幾ら時間があっても足りません」
「なるほど……」
家の中に入るとリビングのある方向からいい匂いが漂ってきた。
ルルが夕飯の支度をしていたのだろう。
「あと少しで夕飯できるからリビングのテーブルで待っててね」
「はーい!」
「了解」
「私はお祖父様におはなしがあるので先にリビングへ行っててください」
「おはなしって?」
「それは……秘密ですよ」
アリスの笑顔に思うところがありエルシアは思わず体が硬直した。
★
アリスはロナウドが居る書斎まで来ていた。
扉をノックし中へ入る。
険しい顔をしていたロナウドだがアリスを見た瞬間別人になったのだった。
「ああ! アリス! どうしたんだい? 先程はうるさかったな。おじいちゃんがクレームを入れてあげよう」
「お祖父様。エルシアさんとファルトさんが人命救助で表彰されました。ラジオを聞きましたか?」
アリスが2人の事を話すと笑顔にシワが寄った。
どう見てもいい機嫌ではないようだ。
「まったく! 余計なことをしてくれた! これではシルヒハッセ家は片翼保護派と決まってしまうではないか! この際――」
「お祖父様。まさかこの際追い出してしまおうなどと考えてはいないでしょうね?」
「うっ! いやいや、アリスの友達を追い出したりするものか」
「その割には表情が硬いですね。お祖父様どうかしましたか?」
「なんでもないぞ!(クソぅ、アリスを誘惑するあの片翼め。悪評でも流して居られなくしてやろうか!)」
アリスは笑顔でもう一言呟いた。
「今や市民からも人気を人徳を得たエルシアさんとファルトさんにいきなり悪い噂が流れるはずがないですよね。もし流れるような事があれば原因は……ね?」
「あ、アリス! おじいちゃんはそんな事しないよ! 本当だよ! おじいちゃん悲しい!」
「それはそうですよね。流石お祖父様です。片翼の事も考えられる様になってきたのですね」
ロナウドは心が読まれているかのような錯覚を覚えた。
そしていつにもましてアリスの凍えきった笑顔が怖い。
「それでは夕飯が出来上がる頃なのでリビングへ行きましょう」
「そ、そうだな」
部屋から無理やり連れ出しリビングへ夕飯を誘うことにし、2人と会わせ親睦?を深めるのであった。
★
「片翼の墓守のネルガン氏に森の管理状態を聞いてきてくれ。後何が起こるかわからない為自動小銃の携帯を許可する」
「わかりました。状況の変化が有り次第連絡を入れます」
「そうしてくれると助かるよ」
「では行ってまいります」
そう言うと調査部がアンソニーの執務室から出ていった。
何故2人が森から出れたのかが調査が始まったのである。
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