23ギルド登録 ~迷子になっちゃった~
シルヒハッセ家から出たエルシアとファルトは地図を確認する。
「左か。んで次は赤レンガの家の前を右と」
「ふむふむ」
道を歩いているとすれ違う人々から目線が集まる。
地方の街でテレビに出演し、新聞でも報道されたが、この街ではまだまだ2人の存在はあまり認知されていないようだ。
「あー。なんかムズ痒いな」
「しょうがないよ~。そのうちこの街の人も慣れてくれるでしょ!」
「まぁ、そうなんだがよ」
「あ、そこ右だよ」
右に曲がると次の目印に向けてあるき出す。
しかし、いつになっても目印は見えてこない。
ファルトはおかしいと思い道を引き返すことにした。
道を引き返していくとY字路に出た。
「ん? これどっちだ?」
「多分右! 私の直感が訴えてる……!」
「それ大丈夫か?」
右に進んだ2人は大通りに出る。
人が賑わい、車が行き交っている。
地図を確認すると、全く違う所に来ていることが分かった。
「おい、エルシア。さっきの道左だったんじゃないか?」
「うーん。右だと思ったんだけどなぁ?」
「しゃーない。戻るか」
ファルトが踵を返そうとした途端、車が行き交っている車道から急ブレーキ音が聞こえてきた。
それと同時に何かがぶつかる音と車がコントロールを失い車道から歩道に乗り上げてきたのだ。
悲鳴が上がり辺り一帯が騒然とした。
「な、なんだ!?」
「ファルト事故だよ!」
「うわ、大惨事じゃねーか」
「助けなきゃ!」
「おい、エルシア!」
エルシアは車に跳ねられた人へと駆け寄ると生活魔法を行使する。
「我の威を示せ、ボディーカルテ」
エルシアの頭の中に人体の損傷状況が流れ込んでくる。
この魔法はどれだけ回復魔法に精通しているかで左右される難しい魔法である。
「骨盤損傷……打撲……我の威を示せ、ハイフリートヒール! 我の威を示せ、アンチブラッド!」
骨盤の損傷を回復魔法で出来るだけ早く治し、内部出血していた血液を消滅させた。
残りの詳しい情報は入ってこなかったためこれ以上の治療は出来ないが外傷は回復魔法で綺麗に治っている。
「我の威を示せ、ボディーカルテ」
もう一度生活魔法をかけ、状態を確認する。
先程のように頭に流れ込んでくる情報は減り、致命傷になる傷は治せたと判断したエルシアは次の負傷者へと駆け寄る。
ここに来て周りの人々も状況が読み取れたようであちらこちらから救急車を呼ぶ声が上がった。
ファルトは車へと向かい中にいる運転手に話しかけた。
「おい! って、こっちもか! 誰か手伝ってくれ!」
「お、俺が行く!」
「俺もだ!」
2人の男性が名乗りを上げファルトの元へと駆け寄った。
「俺が歪んだドアを開けるから中から気絶してる運転手を出してくれ」
「分かった」
「じゃ、行くぞ。 我の威を示せ! フィフスフィジカルブースト」
ファルトは窓ガラスを割ると、窓枠を掴み力を入れていれる。
徐々に金属がひしゃげる音とともにドアが開いていく。
そして車のドアが外れた。
「しっかりしろ!」
「今引っ張り出してやるからな」
ドアを下ろし、エルシアを呼ぶ。
歩道に乗り上げて跳ねられた人数は少なくはなかったが、軽症の者が多く魔力消費量の低いヒールで傷を治していた。
呼ばれたエルシアは運転手の状態を見るために魔法を行使する。
「我の威を示せ、 ボディーカルテ」
「どうだ?」
「頭を打って脳震盪を起こしてるみたい。頭を揺らさずに安静にしてれば大丈夫かな」
「ふぅ。一件落着か?」
ファルトが身体強化を解こうとした時、後ろから声が上がった。
「おい! 車の下に誰か押しつぶされてるぞ!」
「誰か手伝ってくれ!」
「エルシア、持ち上げるから引きずり出してくれ!」
「了解!」
周りに居た大人達と協力し重さ約2トンの車を持ち上げる。
持ち上がっている間にエルシアは素早く押しつぶされていた女性を助け出した。
「我の威を示せ、ボディーカルテ」
「どうだ?」
「肋骨の骨折と肺が損傷してるみたい。出来るだけやってみるね。我の威を示せ、ハイフリートヒール! 我の威を示せ、アンチブラッド! 我の威を示せ、ハイフリートヒール!」
「……エルシア?」
「息をしてない。どうしよう!」
その言葉に手伝っていた大人や周りに群がっていた民衆もどよめいた。
いくら傷を治そうが息をしていなければ死んだと同然。
エルシアが回復魔法をかけ続けていると1人の男性が現れた。
革製の鎧を着て腰に剣を携えている。
「焦るな。まだ方法はある」
「え?」
「ちょっとどいてな」
そう言うと車に押しつぶされた際に破れた服を両手で思いっきり破くと胸部を露出させた。
これには2人も戸惑い、手伝っていた大人達も声をかけた。
「おい、こんな観衆の中で脱がすことなんて――」
「経験が無い者は黙ってろ!」
「っ!」
男は女性の胸の真ん中付近に両手を重ねておくと勢いよく押し出した。
その際先程治した肋骨が折れる音がエルシアには聞こえた。
「ほ、骨が!」
「丁度いい、ここで学んでいけ」
「私?」
「そうだ。まずは思いっきり心臓がある辺りを何度も押すんだ。そのときに肋骨が折れるが死ぬよりかはマシだ。次に顎を持ち上げ、酸素を送る」
「ど、どうやって?」
「こうだ」
そう言うと男は女性の唇に唇をあわせ肺が膨らんでいることを確認すると3回ほど繰り返した。
その後は再び胸に手を置き上下に動かす。
3分ほど続けていると女性が咳き込み、息を吹き返したのだ。
「後は回復魔法を掛けることで折れた骨と体を治せる。後はお前に任せるぞ」
「え? は、はい! 我の威を示せ! ハイフリートヒール!」
エルシアが治療をしている間に男は姿を消していた。
女性の服は近くの服屋に安い上着が寄付され、晒されていた胸が隠されった。
しばらくして何かのサイレンが聞こえてきた。
周りに居た観衆は“救急車だわ”と言い始めたのだ。
「うーん。できるのはここまでかな? そのきゅうきゅうしゃって言うのに任せたほうが良さそう」
「そうだな。俺たちもギルドへ向かおう」
「お、おい! あんたら名前はなんていうんだ?」
「私達? エルシアだよ!」
「ファルトだ」
エルシア達は先程出てきた脇道に戻る。
Y字路に到着し正面に二手の道をみる。
「今度は左だね!」
「これで元来た道に戻れるぜ」
数時間後。
「おいぃ! また道に迷ったぞ! エルシアは迷子の天才なのか!?」
「だってファルトの言った通りに言ってただけだもん!」
2人は再び道に迷っていた。
目印であった赤レンガの家を右に曲がったが良いが、次の目印である服屋のある交差点を目指していたが途中エルシアがスイーツ点に目が行ってしまい目印を逃してしまったのだった。
「しょうがねーな。また戻るか」
「キャー! 誰か助けて!」
「またか!?」
ファルトの目にはマンションの手すりから落ちたのか、外壁に捕まっている子供が居た
子供は今にも落ちそうになっていた。
「ファルト! 足場を作るから助けてきて!」
「はいはい」
「我の威を示せ! プロテクション=エモート床!」
「本当にそれでいいのか……」
エルシアのセンスに再び疑いつつ、防御魔法の床を飛び上がっていく。
「ほらもう大丈夫だぞ」
「びえええええ!」
再び防御魔法の床を飛び地面まで降りる。
そこへ母親が駆けつけ子供も駆け寄っていったのであった。
その後やっとの思いでギルドに到着したのは午後を回った時間だった。
「☆☆☆☆☆」を押して応援していただけると嬉しいです!




