22ごくひ?いらい!
ルルの説教が長時間続き、足が痺れきった頃アンソニーが夕食の準備が出来たと呼びに来た。
「あら、アンソニーもうそんな時間?」
「そうだよ。ルルはいつも熱気が入ると時間を忘れるからな」
「あらあら、やだね~」
こうしてアンソニーとルルが喋っている間にもファルトとアリスの足の痺れは限界を超えていく。
「さあ、2人ともお説教はおしまい! 夕食にしましょう!」
「お、お母さん……その……」
「どうしたの?」
「足が痺れて動けません……」
「大丈夫! 今は感覚が麻痺してるだけだから痺れが来ないうちにリビングに行きましょ」
大丈夫大丈夫と言ってアリスを立ち上がらせるが、感覚が麻痺しているため立つことも出来ない。
まるで生まれたての子鹿のようだ。
「もう! アリスったらだらしない! ファルトくんは大丈夫だよね?」
「は? いやいや無理無理! ……あっ! 足を動かすな!」
2人は感覚の麻痺が回復すると、足にとんでもない痺れが襲ってきた。
そこにエルシアが部屋にやってきた。
「ファルト! アリスちゃん! ご飯食べようよ!」
「くっ……え、エルシア、今行くからちょっとまってくれ」
「なんで~?」
迫りくるエルシア。
その小柄な体の歩く振動さえ足に響く。
「くっ……ふっ……!」
「あう……あっ……」
「? どうしたの? 2人とも変だよ?」
「ま、待て! 今は体にさわるな!」
「そ、そうですね! 今はちょっと困ります!」
頭にクエッションマークを3つ程浮かべると、2秒ほど考え込んだ。
結果。
「それは触ってほしいってことだね!」
ファルトとアリスは脳内で“それは違う”と否定した。
だが時既に遅し、エルシアはファルトとアリスに抱きついたのだ。
2人の目が今までにないほど開かれ悲鳴が上がる。
「いっ! あぎゃああ! 足がアアア」
「あっ、あっ、痺れちゃうのぉ!」
「ぎゅー!」
2人の体制が更に崩れ足の痺れが加速する。
言葉にならない痺れが押し寄せファルトは歯を食いしばっている
アリスは体をビクつかせ声が漏れていた。
「あらあら、やっぱり2人とも大丈夫じゃない」
「大丈夫そうに見えないのは私だけか?」
「大丈夫よ!」
しばらくして足の痺れが消えていきエルシアのハグから逃げ出す。
「え、エルシア……お前なぁ……。こっちは足が痺れてたんだぞ!」
「そうです! ファルトさんの言う通りです!」
「えー。だったら先に言ってほしかったなぁ~。てっきりハグしてほしいのかと思っちゃった!」
「さあさあ、3人とも夕食だ! 早くしないと冷めてしまうぞ!」
そう言われながら家族がリビングに集まった。
当然そこにはロナルドが居るわけで、ここでも一波乱有ったのだった。
夕食後エルシアとファルトはアンソニーに用事があると呼び出された。
「さて、呼び出したのは他でもない。君たち2人にはアリスの護衛をしてもらいたい」
「え? なんで?」
「私の立場上2つの派閥がある。片翼保護派と片翼迫害派だ。そもそも保護派のトップは私だからな。迫害派に狙われてもおかしくはない。私が潰れれば保護派は一気に追いやられることになる」
「つまり目の届かなくなる学園での迫害派から守れってことか」
「そうだね。それもアリスにバレることなく、ね」
なぜ“バレることなく”なのかと疑問に思った2人。
まだ会って一日と経っていない為理由がわからない。
「なんでだ? 堂々と護衛ついてますって見せてやれば大丈夫なんじゃないのか?」
「アリスが受け付けないんだよ。小さい頃からつけてたんだが、その度に護衛を伸してしまってな」
「アリスちゃんすごい!」
「まぁ……あれだけやれれば伸すな」
ファルトの脳内に護衛の大人を雷で纏った蹴りで伸ばす光景が思い浮かんだ。
「依頼はギルド経由でだしてるんだ。この際ギルドにも登録するといい」
「ぎるどってお父さんが言ってた!」
「オフクロも言ってたな」
「まぁ、わかりやすく言うと国の下請け機関だな。使う側にもメリットもある」
エルシアとファルトはギルドの説明をアンソニーから受けた。
ギルドは国からの依頼と国民からの依頼の2つがある。
成果を出すことが出来れば報酬が貰えるが、成果を出せなかった場合は罰則金を払うことになる。
ギルドでの活動には国、国民からは保険が降りない。
怪我または死亡しても自己責任の世界である。
「なるほどな。一攫千金を狙ってリスクの高い依頼を受ければ死に損になるわけだ」
「小さいことからコツコツ積み上げていくんだね」
「そういう事。学園側もセキュリティがあるから比較的安全な依頼だ。ただ……」
「ただ?」
アンソニーはため息を漏らしながらその続きを話した。
「アリスは運動が好きでな。社交界以外は車に乗らないんだ。下手すると車より早い」
「あれか……一瞬で移動してきたからなぁ」
「何が起きたかわからなかったよー」
「行きと帰りは徒歩になる。そこだけ注意してほしい」
「分かった」
エルシアとファルトが部屋から出ようとした時、アンソニーが思い出したかのように声をかけた。
「そうそう、フラグメントでエラー出ると思うから適当に誤魔化しておいて」
「は?」
「え?」
その後風呂に入り眠りにつく。
翌朝。
アンソニーが公共生活省に通勤するためルルは早く起きていた。
朝食、昼食を作っている真っ最中だ。
しばらくしてアンソニーとロナルドがリビングにやってきた。
ロナルドはアリスが居ないことを良いことにアンソニーにエルシアとファルトの事を問いただしていた。
「どこで片翼を拾ってきた!」
「どこってお父さんも知ってるでしょう?」
「あそこには片翼の墓守が居たはずだ! 普通なら出れるわけがない!」
「そういえばそうですね。今度調査でもしてみるか……」
アンソニーは”そう言えばそうだった”と思い出した。
謎の現象が関係あるのかも調べつつ片翼の墓守の聞き取りを行おうと手帳に書き記した。
「アンソニー、ロナルドお祖父様朝食です」
「ああ、いただくよ」
「ふん……」
朝食を手早く摂るとアンソニーは昼食を受け取り、家から出た。
既に車庫から車が出されており、カレンとアレスが立っている。
「ごくろう。出してくれ」
「わかりました」
カレンはアクセルを踏むとゆっくり庭を出て行ったのだった。
時間は進み子供3人も起きてきた。
「おはようございます、ファルトさん、エルシアさん」
「おはようさん」
「ん~アリスちゃんおはよー」
「家庭教師は明日から着くのですね」
アリスは予定表を見ながら呟いた。
ファルトが一瞬嫌な顔をしていたのは内緒だ。
ルルの作った朝食を食べ終わると、アリスは魔法の練習に入った。
先日ファルトに押し負け挙句の果てには守られてしまうと言う失態を返上するためだ。
エルシアとファルトはルルから一枚の紙を渡されていた。
「依頼書? ああ、例のか」
「ギルドは大通りを出て真っ直ぐよ。今地図描いてあげるわね」
「頼む」
ルルは紙に線を引き、目立った建物を目安に地図を作成していく。
1分ほどで完成し、それをファルトへ手渡した。
「これで大丈夫! お昼までには帰ってくるのよ」
「はい! 行ってきまーす!」
エルシアとファルトは家から出ると地図に書かれた目印を元にギルドへ向かったのであった。
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