21勝利の行方
エルシアのエモート防御魔法がアリスの腹部を捉えた。
「くぅう!」
「やった! 入った!」
そこに追撃の攻撃魔法が飛んでくる。
エルシアは急いで後ろに下がると、攻撃魔法が着弾した。
「やったね、ファルト!」
「まだ油断するんじゃないぞ」
耳を澄まし、目を凝らす。
爆炎の煙が晴れて来ると何かが一瞬横切った。
「――え」
声を出そうとした瞬間、エルシアの体が空を回った。
あまりの速さにファルトも声が出なかった。
空に回ったエルシアは何が起き方わからず、地面に叩きつけられて意識を手放したのだった。
「ふふ。初見殺しは驚きました。ファルトさんは何か無いですか?」
全身に雷を纏い、高速でファルトの目の前まで来ていた。
急いで後ろに飛ぶと攻撃魔法を再接続する。
「我の威を示せ! エレメンタルハンマー=リコネクト 我の威を示せ! トールハンマー!」
巨大な雷のハンマーが振り下ろされる。
相手の動きは早い、ならば範囲で攻撃してしまえばいいとファルトは考えたのだ。
しかし1つミスが有った。
その攻撃範囲内中心にエルシアが倒れているのだ。
いくら身代わりの腕輪がダメージを肩代わりしてくれるとはいえ、腕輪がきちんと動作するかはわからない。
「しまっ――」
「仕方がないですね。我の威を示せ! ライトニングエレメント=リコネクト 我の威を示せ、スパークフィジカルブースト!」
雷のハンマーが振り下ろされるタイミングに合わせ、 回し蹴りを繰り出した。
それは光の尾をなびかせながらファルトの攻撃魔法を打ち消したのだ。
「な、ななぁ!?」
「ふふ、驚きました? 私実は結構肉体派なのです。なので――」
「っ!?」
「よそ見するとあっという間に落ちますよ」
ありえないスピードの拳の打拳。
防御に回るしか手がない。
徐々に身代わりの腕輪の数値が溜まっていく。
「こ、の! 我の威を示せ! フィフスフィジカルブースト!」
身体強化を掛け、アリスの攻撃速度に追いつこうとしたが、多少防御がマシになった程度だった。
(くっ! 一体どれだけ強い身体強化を掛けてるんだ。何か、何か無いか?)
「あら? 考え事してそうですね。ならもっとスピード上げていきましょうか」
「まだ、上がる、のかよ!」
★
「あらま、アリスたら本気になっちゃって」
「こうなると止まらないからな。ファルトとエルシアにはいい経験になるだろうね」
「誰に似たんでしょうね?」
「ん? それはル――」
「アンソニー?」
「いや、なんでもない」
ルルの威圧にアンソニーは気圧され黙り込んだ。
その時施設の扉が勢いよく開いた。
2人が視線をやると、そこにはソフィアに止められつつ入り込もうとしているロナルドの姿があった。
「アリス! 片翼などその体術でコテンパンにしてしまえ!」
その声にアリスの体が一瞬だが硬直した。
それを見逃さなかったファルトは全身全霊の力で腹部を殴りつけた。
「おい! 片翼風情が可愛いアリスに手を出すなど言語道断! 私刑にしてくれるわ!!」
相変わらず怒鳴り散らしているロナルド。
するとロナルドの近くにあったゴミ箱が粉々に吹き飛んだのだ。
腰を抜かしていると、アリスが真剣な顔をして言葉を言い放った。
「お祖父様! 今私とファルトさん、エルシアさんは真剣勝負をしているのです! うるさい野次はやめていただきたいですね!!」
「あ、ありしゅ……」
「ロナルド様、こちらへ」
ソフィアに本館へ連れ戻されたロナルドであった。
★
「すみません。邪魔が入りました。最後はせめて一撃で意識を刈り取ってあげましょう」
「へっ。アリスの本性が見れて嬉しいな。だが……」
「? あぁ、そうやってエルシアさんが起きているように見せかけて私の注意をそらそうとしているんですね。ですが騙されませんよ」
アリスはそれをハッたりとして受け流した。
ファルトは笑顔を崩さずハッキリと言う。
「本当にそうかな? 我の威を示せ! マテリアライズ=リコネクト! 我の威を示せ! マルチバーストエレメント=リコネクト!」
「!? ファルトさん! それはいけません、再接続の再接続は体、精神への負荷が高すぎます!」
「忘れたか! 俺は片翼! 人間では耐えられずとも悪魔の血肉があれば! 我の威を示せ! マナ・マテリアライズ・ルシファー! エルシアアァァァ起きろおおおぉぉ!」
規格外の魔力が形をなし1つの人形を作り上げる。
それは神々しくあり、禍々しい翼を6つ広げあげる。
開かれた翼から魔法陣が点滅し魔力が収束していく。
この施設が魔力の箱代わりをしていたため環境魔力が高く、それすら食い尽くす勢いだ。
「っ! これほどの魔力を操るなんて! 我の威を示せ! アルティメットフィジカルブースト!」
「喰らえええええ!」
「はぁぁぁあああ!」
収束していた魔力が解き放たれた。
それに対抗するのは先程発動したリコネクトの身体強化と通常の身体強化のあわせ技。
魔力と雷の宿った拳が衝突する。
「はああぁぁぁあ!」
アリスは6つの魔力の暴虐に耐えつつ、足に力を込める。
そして2つの魔力をパリングする。
パリングされた魔力は特別製の施設の地面を魔力だけで抉りながら壁を伝い天井の強化ガラスを突き破り空へと流れた。
「まだ、ですよ! はあああぁぁ!」
更に3つをパリングする。
だが、徐々にアリスの拳に宿った雷が弱く、魔力が飛散していく。
「うぐ……まだです!(あと1つ! 私の魔力もうちょっとだけもって!)」
再び両足に力を込め、最後の力で魔力をパリングした
そして前へと一歩踏み出した時見た光景は絶望だった。
そこには極大の魔力を収束しているファルトの姿があったのだ。
「撃ち抜け! ラストシュート!」
「そ、んな!」
それを見ていたアンソニーも流石に声を上げた
ルルに至っては顔を両手で覆っていた。
「よせ! 身代わりの腕輪が持たないぞ!」
「……我の威を示せ! アイギス!」
光の盾が出現し、極大な魔力の砲撃を受け止める。
アリスが振り返ると、倒れながらもこちらに手を伸ばしているエルシアの姿があった。
ファルトの全力を受け止めきった防御魔法は静かに消えていき、エルシアは再び沈黙した。
残りの2人も魔力、精神的に疲労しその場に倒れ伏す。
アンソニーとルルが駆け寄ると3人の無事を確認する。
ルルは回復魔法を掛け、アンソニーはルルが処置をした3人を順番に本館に運び入れた。
「流石にあれは私も焦った」
「あれはやりすぎよ! 起きたらファルトとアリスに注意しなくちゃね!」
この後起きた2人に説教が待っていたのは言うまでもない。
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