20祖父は意外と娘に弱く、娘もまた強い
4人が話していると応接間の外から大声が響いてきた。
それはこちらに迫って来ているようだ。
「この声は……」
「誰か怒鳴ってるね?」
エルシアとファルトはそう思っていたが、ルルとアリスの表情を伺うと、なんとも言えない呆れた表情を浮かべていた。
「またお祖父様ですか……」
「お祖父ちゃん?」
エルシアが聞き返すと部屋の扉が乱暴に開けられた。
「おい! バカ息子は居ないのか! ルル! なぜ片翼が家の中にいる! さっさと追い出さんか!」
「お祖父様! まだそんな事を言いなさるんですか!」
「うるさい! 俺に指図するな! いいから追い出せ!」
「これは私達の方針です! お祖父様は見ていてください!」
「何を言っている、代々シルヒハッセに課されたものだ!」
ルルとアンソニーの祖父が言い争ってる中、エルシアはオロオロしていた。
「ねぇねぇ、ファルト、私達出ていったほうがいいのかな?」
「そんなことはない。あいつが勝手に言ってるだけだろ」
「ファルトさんの言う通りです。エルシアさん」
「そうなの?」
「そうです。ちょっと私がガツンっと言ってくるわ。待っててください」
そう言うとアリスも立ち上がりルルの横へと歩いていく。
「ん? おお、アリスじゃないか! 学園の入学準備はもう大丈夫なのか? 片翼に構ってないで自分の好きなことを――」
「お祖父様! エルシアさんとファルトさんは私のお友達です! それを悪く言うことは許しません!」
「あ、アリス? おじいちゃんはそんな事……」
「言ってるではありませんか。先程からグチグチとお母さんにも言っていてどの口が言うんです?」
「うっ……アリスわかっておくれ。代々シルヒハッセ家は……」
「それが嫌なの! 古臭い考えなんて捨てるべき! 新しい風を受け入れるべきです」
アリスに気圧され狼狽する。
実はアリスの事が目に入れても痛くない程のアリス大好き祖父なのだ。
頭にレンガをぶつけられたような衝撃を受けトボトボと部屋を去るのだった。
「ね? ガツンっと言ったら大丈夫でしょう?」
「アリスちゃんすごい!」
「やるわね、アリス」
「お母さんもあれくらい言わなきゃ駄目だよ」
★
自室から出て1階にある応接間に向かっていたアンソニーは廊下でソワソワしていた秘書を見つけた。
「ソフィア、どうしたんだ?」
「あ、アンソニー官僚。すみません、片翼が家にいることをロナルド様に報告より早く知られてしまいました」
「そうか……。分かった、すぐに向かう」
アンソニーが秘書のソフィアから話を聞いた限りではロナルドはかなり激怒していることだろうと思っていた。
しかし応接間に向かう途中トボトボと歩いているロナルドの姿を見つけた。
「父さんまたですか!」
「またとはなんだ。アリスに嫌われてしまった……」
「……毎回そうなりますよね」
「おじいちゃん泣きそう」
そういいつつ自室へと戻っていくロナルド。
それを見送ったアンソニーは応接間へと足を運ぶ。
★
「ルル、大丈夫だったか? アリス偉いぞ」
「アンソニー、アリスが助けてくれたわ」
「お祖父様は古臭いです。いつまでも家系の呪縛に取り憑かれていて」
「お父さんにもわかってもらえれば楽なのだが……」
今だに分かってもらえない新しい方針に家はギスギス状態だ。
アリスがストッパーになっている今は良いが、アリスに何かがあったら大事になる。
アンソニーはエルシアとファルトに学園の事を伝えようとし、全員ソファーに座るように促した。
「話があるよ。アリスにもきっといい話だ」
「? お父さんいい話って何ですか?」
「それは……エルシアとファルトがアリスと同じアークホワイト学園へ通うことが決定だ! 試験はあるが、多分大丈夫だろう」
「え? 私に御学友が?」
「いつも寂しいと言っていただろ? これが私にできる最大限のプレゼントさ」
聞いていたエルシアのテンションが上がり、机に乗り出してアリスの手を取った。
「アリスちゃん! あーくほわいとがくえん? がどんなところか分からないけどよろしくね!」
「よ、よろしくね」
「そうと決まれば試験に向けて勉強あるのみだな」
「……げっ」
ファルトは魔法の練習、体を動かすことしか習っていないため文学や数学の知識が乏しい。
エルシアに関しては本当の基本的な範囲を教わっているため、ファルトよりかはできる。
「今日から家庭教師を付けよう。期待しているよ」
「お父さん、私が魔法の技量を見てあげます。あの機械式魔道具を貸してください」
「ん。いいぞ、着けてるからと言って油断は禁物だぞ? こう見えても2人は意外と強いからな」
それだけ言うとアンソニーは4人を引き連れて自宅にある特別製魔法トレーニング施設に移動した。
この施設は科学技術と魔法技術を応用して作られた特別な場所だ。
対魔法強度がとても高く、魔力を含んだ事象は最低限の威力になる。
そしてさらに身代わりの腕輪と言う機械化魔道具もあり、腕輪を着けている相手に与えられる打撃、魔法を一定量肩代わりしてくれるものだ。
3人は身代わりの腕輪をはめると距離を取る。
アンソニーとルルは強化ガラスの囲いの中に入り観戦することにした。
「2人とも準備は大丈夫?」
「俺はいつでも大丈夫だがそっちは大丈夫なのか?」
「そうだよ!こっちは2人がかりだよ!」
「ふふ。心配は要りませんよ、ファルトさん、エルシアさん」
「ならやらせてもらうぜ」
「ファルトまで!」
エルシアが心配をしている間に2人は戦闘態勢に入っていた。
あとは自分だけだと察したエルシアは乗り気ではないが戦闘に備える。
先手はアリスからだった。
「我の威を示せ、ファイアーボール」
「そんなのか? 我の威を示せ、ウォーターボール」
「ふふ」
「?」
エルシアはアリスが微笑んだのを見逃さなかった。
理由がわからないが何か嫌な予感がする。
アリスとファルトの魔法が接触した途端ファルトの魔法は一瞬でかき消され真っ直ぐと直進してきたのだ。
「なっ!?」
「我の威を示せ、サードプロテクション! …………きゃわあ!」
「うぉ!?」
3枚のシールドがあっけなく破られファイアーボールの衝撃で2人が蹌踉めく。
更に追い打ち掛けるかのようにアリスは素早く魔法を発動する。
「我の威を示せ! ファイアーカノン!」
「エルシア!」
「わかった! 我の威を示せ! ディバインシールド!」
エルシアは防御魔法の種類を変え、より強固なシールドを展開した。
アリスの攻撃魔法が直撃した瞬間轟音と供に防御魔法が砕け散ったのだ。
「この! 我の威を示せ! エアーディザスター!」
「我の威を示せ、サードプロテクション」
岩をも切り刻む風の中アリスは防御魔法を展開し、攻撃魔法の有効時間が切れるのを待っていた。
すると何やらファルトとエルシアが始めているのが荒れ狂う風の中から見えた。
「いくぞ!」
「いいよ!」
「せーの」
「おらあ」
攻撃魔法が切れる瞬間にファルトを土台にしたエルシアが大ジャンプをし、アリスに迫った。
空中なら避ける場所がなく、どうやらファルトは防御魔法が苦手でエルシアは一切攻撃を仕掛けてこないことから攻撃魔法が苦手と推理していたアリスは攻撃魔法を選択してた。
「我の威を示せ、ファイアーランス」
「我の威を示せ! ディバインシールド=エモートセイバー!」
「? ……!!」
エルシアが手を振るうとファイアーランスが切り裂かれ、そのまま着地するとアリスの腹部に横薙ぎで手を振るった。
アリスは何が起こったのかわからず不可視の刃で斬られ、身代わりの腕輪にダメージが蓄積してしまった。
そこに考える暇も与えず攻撃魔法が飛んできたのだった。
「☆☆☆☆☆」を押して応援していただけると嬉しいです!




