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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
1出会い
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2出会い





「ん? ここはどこだ? 人界……か?」


 青年は辺りを見渡し状況を把握しにかかる。

 時間は太陽の位置からすでに午後だという事がわかった。


「とりあえずここが崖と言うことはわかるな。降りるか。我の威を示せ、フィジカルブースト」


 身体強化の攻撃魔法を付与し、崖を慎重に降りていく。

 急いで降りて落ちても困るからだ。

 別に急いで降りる必要もない。


「よっと。このくらい楽勝だな。それにしてもあのクソババアムカつくなあぁ! クソ!」


 悪態を付きながら歩き始める。

 3時間ほど歩いたが一向に森を抜ける気配がない。

 試しに戻ってみると1時間ほどで元の崖まで戻って来てしまった。


「なんだ? 魔法でも森にかかってるのか? 今は飯を探すか……。腹も減ったしな」


 暫く歩くと小さな魔獣が現れた。

 群れから逸れたのか一匹だけだ。


「これは良い飯になりそうだな。我の威を示せ、ファイアボルト」


 火の玉が飛んでいき魔獣を燃やす。

 肉の焼ける匂いがあたりに漂い、香ばしい香りになったとき炎を鎮火させた。


「魔獣の丸焼きってな。さて食うか」


 この青年にはテーブルマナーなどという物はない。

 ただ食べられればそれでいいと育ったのだ。


「所々焦げてるな。まぁいいいか」


 ガツガツと食べ勧めていき丸々1匹を平らげた。

 魔法で手を洗い流すとまた森の中を探索していく。

 森を覆っている魔法が気になるのだ。

 実際この魔法のせいで森から出ることができない。


「さて、どこから行くか。虱潰しは流石に骨が折れるな」


 どうしようかと悩みながら歩いていると日が暮れ始めた。


「そろそろ夜を超す準備始めないとな。森の探索は昨日でいいか」


 木の上に登ろうとしたとき悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ? 女の悲鳴? ちょっと行ってみるか」


 悲鳴が聞こえてきた位置は意外と近かった。

 自分が降りてきた場所のすぐ近くだったからだ。

 だが降りるときは真下を見つつ降りたため見えていなかったのである。


 近づくに連れて何かを叫んでいる声が鮮明になってきた。

 崖の手前に到着すると、そっと木に身を隠した。


「あれは……天使か。それと魔獣が3体。殺れないことはないが天使を助ける事はないな」


 そう言って立去ろうとするが、ある特徴と捉えてしまう。

 彼女もまた自分と同じ片翼(ハーフ)なのだ。

 それを見てしまった瞬間、自然と自分と被ってしまった。


「くそ、見るんじゃなかった。少し気が引けるが、俺は見なかった聞かなかった事にして――」

「うっうっ。誰かぁ……誰かぁ……。あっ、そこの人! 助けてください! お願いしま――」


 立去ろうとした瞬間助けを求められ振り返ってしまった。

 そこには今にも魔獣がその女性の綺麗な肌に牙を立てる所だった。

 そして、牙が女性の腕と太もも脇腹に突き刺さった。


「ひっいやあああああああああああああああああああ!!」

「くそっ! あぁ! 今日はなんて最悪な日だ!」


 そう言うと魔獣の後ろに飛び出し魔法を行使する。


「我の意を示せ! ライトニングボルト!」


 雷の魔法が手から放たれ一瞬にして1匹を感電させる。

 魔獣は仲間が殺られたことに気が付き、女性を襲うのを一旦やめ突然の乱入者に牙を向けた。

 だがすでに青年の手には炎が顕現していた。


「我の威を示せ、ファイアバード」


 炎が鳥の形に変え残りの2匹へ飛翔する。

 当然間合いを取ろうと行動をするが、青年が指を曲げると直進していった炎の鳥が旋回し、魔獣を後ろから追撃したのだ。


「キャイン!?」


 1匹は炎に包まれ地面を転げ回るがもう1匹は後ろからの炎を間一髪のところで避けると、青年に向かって牙を突き立てた。


「魔獣ごときが調子に乗るな! 我の威を示せ、フィジカルトリプルブースト!」


 魔法による身体強化三段付与を行うと、魔獣めがけて拳を振り抜いた。

 ゴリっと言う音がし、鼻や口から出血始めた。

 ビクビクと体を痙攣させながら地面に倒れる魔獣。

 そこに追撃の蹴りが入り絶命する。

 感電している魔獣にもとどめを刺し女性に駆け寄った。


「おい! 大丈夫か!?」

「あっあっ、ひふっ、うあっうっ」


 女性は涙と苦痛で顔を歪ませ、死の恐怖により意識が混濁してしまっていた。

 その瞬間にも血は流れ出し続け、体温を奪い去っていく。


「ああ、くそ。俺は回復魔法なんて使えないぞ! いいか! 聞こえてるか分からないが傷口をこれから焼く! 痛いが我慢しろ!」


 そう言うと人差し指だけを傷口に当て魔法を唱えた。


「我の威を示せ、ファイア」


 じゅっと肉の焼ける音が一瞬すると女性は体をびくんと震わせ絶叫した。


「うっあ゛あ゛あ゛!」

「大丈夫だ! あまり体を動かすな! 死ぬぞ!」

「はふっひぎ」


 その後すばやく傷の処置を済ませ、峠を超えた。

 しかし炎で焼いてしまったため綺麗な肌に焼き後が残ってしまったのが唯一の後悔だ。

 女性は血を流したためか肌が少し青くなっている。


「心臓は動いてるな、おい、目を覚ませ!」


 肩を揺するが反応は先程と変わらない。

 どうしたものかと考えていると女性が何かを呟いた。


「……と……さ」

「今度はなんだ?」

「お、とう。さ、ん」

「……そうか」


 それだけ聞くと女性を抱きしめ耳元で囁いた。


「大丈夫だ。お父さんはここに居るぞ」

「おとう……さん」


 それだけ言うと静かに寝息を立てながら涙を流していた。

 女性を背負い、少し離れた場所まで移動する。


「軽いな。これなら落さずに済みそうだ。しかし俺が天使を助けるとはな……情が移ったか」


 夜の闇が深まり、森の中はより一層暗くなってくる。

 青年は急ぎ足で先程木に登ろうとした場所に歩く。


「ここだな。一旦おろしてと。木の枝を折って焚き火を作るか」


 ボキボキと枝を折っていき木を積み上げ、そこに魔法で炎を起こし木に引火させる。

 無事焚き火を完成させることが出来たので女性を焚き火のそばに寝かせる。


「これで体温は保てるだろうな。後は血か……やはり肉だな。だが目が覚めれば痛みに襲われて泣き叫びそうだな」


 チラと女性を見ると、育つところは育っていて、それで童顔だ。

 青年にとっては天使と言う点を除けばドストライクだった。

 まじまじと見つめてしまい、気がつけば手が出そうになっていた。


「な、何をやってるんだ……。これもオヤジの影響か」


 1人でドキドキしながら火の番をしている青年であった。


 翌朝ウトウトしつつ火を維持しているとうめき声が聞こえてきたのだ。

 火を放置すると女性に近寄り声を掛ける。


「おい、大丈夫か? 回復魔法は使えるか? 俺は使えないからお前が使うんだ」

「うっ……我の威を……示せ、ヒール」

「そうだ、ゆっくり呼吸しながら痛む傷口にしっかり掛けるんだぞ」


 ゆっくりと息を吸わせ、落ち着きを取らせる。

 それを繰り返すこと20分、ようやく痛みを止めることが出来たのかきちんと目が合った。


「ようやく大丈夫そうだな」

「あ、あの。ありがとうございました! 私はエルシアと言います! エルシア・エル・シフォーニと言います。……天使と人間のハーフです」

「そうか、エルシアと言うんだな? 大丈夫だ、よく見ろ。俺もハーフだ」

「え!? あ、あ! その翼は、あ、悪魔! お母さんから聞いた! 悪魔は悪い人だって!」

「それじゃエルシアを助けたのは誰なんだ?」


 それを言われるとぐぅの音もでない。

 実際助けてくれたわけだ、恩人に失礼である。


「ご、ごめんなさい。不愉快を買ってしまったのであれば謝ります。そうじゃなくても謝ります。すみませんでした!」

「別になんとも思ってない。そもそも悪魔と天使は敵対関係だからな」

「それで……その、あなたの名前はなんていうの?」

「俺か? 俺の名前はファルトだ。ファルト・ニール。悪魔と人間のハーフだな」


 そうして片翼(ハーフ)の2人は巡り合ったのだった。




                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 


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