15片翼、テレビに出る
「さて、これからの話しをしようか。これから2人は私の保護下、私が保護者になる。これはいいかな?」
「あぁ。それしかなさそうだしな」
「私もいいですよ! アンソニーさんいい人そうだし!」
アンソニーは笑顔になり話を続ける。
「それは良かった! この後2人にはテレビに出てもらう。この街に君たちを認知してもらう。それが第一歩だ」
「それはいいがその後はどうするんだ?」
「一応街を観光してから汽車で私が統治する街へ移動する。その後は……そうだな、娘と一緒に学園に通ってもらう」
「わーい! がっこうだー!」
「学、園……?」
ファルトの顔が歪む。
対してエルシアは大喜びだ。
ファルトに対しわちゃわちゃ騒いでいる。
「勉強か……魔法以外はさっぱりだぞ?」
「大丈夫だよ! 私もあんまりわかんない!」
「君たちには私の家の家庭教師をつけよう。わからないことはなんでも聞いてやってくれ」
「あと1つ問題がある」
「? なんだい?」
「俺は回復魔法と防御魔法が使えない。エルシアは逆に攻撃魔法が使えない」
「うぅむ。そこは私から学園側に譲歩を申し込もう。では放送局に行こうか」
そう言うとコーヒーを飲み終えソファーから立ち上がった。
続いてエルシアとファルトも立ち上がる。
市長官邸を出ると車に乗り込みこの街の放送局へと車を走らせた。
放送局へと着くと受付にカードを提出し、ニュース番組へと急遽割り込ませてもらった。
「今日のニュースです。先日未明積荷を載せた車が何者かに襲われる事件がありました。憲兵が向かった所、積荷は空になっており運転手は刃物で切りつけられ死亡していました。犯人の特定を進めているところです」
ニューススタジオでは今日のニュースを報道しておりニュースキャスターが読み上げを行っていた。
そこに紙が渡される。
「……ここで臨時ニュースです。先程街を騒がせた正体不明の魔獣について進展がありました。エデルガーデンの統治者、アンソニー・シルヒハッセさんよろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします」
アンソニーがニュースキャスターの隣に座る。
「アンソニーさん、先程の騒ぎの進展があったとの事ですが、どのような事でしょうか?」
「はい。結論から言うと、対象の身体的特徴から見て今回の騒ぎは魔獣によるものではありません」
「魔獣では無いとのことですが、それでは山賊かなにかでしょうか?」
「いえ、彼らは片翼と呼ばれる存在です。国家機密である以上話せませんが、実の本人達を見てもらいましょう。エルシア、ファルト、こちらに」
この時初めて人々の前に片翼と言う名の存在が明らかにされた。
普通の人間と変わらない見た目。
唯一違うのは翼が片方にだけ生えている事だけだ。
「片翼ですか。この特徴から推察すると、統一歴以前にこの人界で戦っていた天使と悪魔の様ですね。しかし、翼が片方しか無いのはどうしてでしょうか?」
「すみませんがこれ以上はお話することが出来ません。しかし、彼らは同じ様に考え、同じ様に生きる人間と変わらないという事だけです。恐れることはありません、彼らもまた恐れることはないのですから」
「わかりました。片翼と言う事と人と大差がないことですね。ところでお伺いしたいのですが、数日前に森で起こった異変と彼らは関係あるのでしょうか?」
エルシアもファルトもそれについては聞かれてなかったので答えなかった。
アンソニーもそれについては知らないため答えることは出来ない。
「それについては調査中です。何があるかわからないので調査隊の装備を整えてから向かわせます」
「わかりました。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「続いて次のニュースです」
アンソニーに続きエルシアとファルトも部隊から降りる。
スタジオから出るとエルシアが息を吐いた。
「はぁ~。緊張した~」
「そうか? ただ立ってるだけだったから何も緊張してないけどな」
「そう言っていられるのも今のうちだぞ?」
「? どういう意味だ?」
「外に出れば分かるさ」
放送局から出た瞬間無数の車が急ブレーキで止まった。
そしてカメラ片手に人間の群れがエルシアとファルトに殺到したのだ。
「わわわ! 何事―!」
「うわ! お前ら何だ!?」
「こっち向いてくれー!」
「こっちが先だぞ!」
「いや、俺だ!」
いつの間にかアンソニーはその集団の中から離れており、2人はジャーナリストに取り囲まれていた。
「私も前はそうなりましたよ」
「アンソニー官僚、助けてあげないのですか?」
「何事も経験さ」
「そうですか……」
カレンが哀れみの目で囲まれている2人を見ていた。
ジャーナリスト達は我先にスクープを得るために必死になっていた。
「片翼とは一体何処から来たんですかー!」
「ええっとそれ――」
「なぜ片方しか翼がないのですか!」
「あ、それは生まれつ――」
「彼とはどういう関係なんですかー!」
「ファルトは私の命の恩人ですー!」
次々に質問が飛んでくる。
そしてカメラのフラッシュが眩しい。
「おい、その眩しいのをやめろ!」
「なぜ悪魔の君が天使と一緒にいるんだー?」
「別にいいだろ!」
「彼女の事好きなのか!?」
「べ、別にいいだろ!」
「いい青春してるな! こっち向いてくれ!」
「違っ眩し!」
一通り質問や撮影が終わるとジャーナリスト達は嵐の様に去っていった。
そこに笑いながらこちらに歩いてくるアンソニーと苦笑いのカレン。
「いやーやっぱり凄いものだ。私も経験したことあるけどあれは慣れないなぁ」
「ふぇー」
「目に光が……」
「とりあえず何も食べて無いんだろ? 少し遅い昼食にしようか。アレス飲食街に走らせてくれ」
「了解。さぁ乗ってくれ」
車で街なかを移動しながら話を進める。
「先程の放送局でのテレビ放映、ジャーナリストによる知名度の拡散。これで2人を怖がる人は大幅に減るだろうね。後は2人の行動が関わってくると思うよ」
「あんたの思惑通りという訳だ」
「ただ気をつけて欲しい事があるんだ。私達の派閥にも片翼をよく思わない者が入る。くれぐれも注意して欲しい」
「人間もめんどくせーな」
「ははは。耳が痛いね」
「着きやしたぜ、シルヒハッセの旦那」
「お? 着いたか」
車の外に出るとそこは肉の匂いが漂う店の前だった。
文字を読むと、爆裂ハンバーグと書かれていた。
「私はこの店が好きでね。各街の支店を巡ったこともあるんだよ」
「あんたがねぇ……」
「ねえ! 早く入ろうよ!」
「そうしようか。カレン、アレスも昼食にしよう」
「わかりました」
「よっしゃ! シルヒハッセの旦那の奢りだぜ」
店に入ると店主が声をかけたと同時に驚いていた。
カウンターにはブラウン管テレビが置かれており、先程のニュースのスタジオが映し出されていた。
「さっきテレビに出てた人ですね! うちも有名になったのかなぁ」
「店主、爆裂ハンバーグ定食5人よろしく」
「ただいまー!」
4人用までのテーブルしか無かったためカレンとアレスは別の席で食べることになった。
エルシアとファルト、アンソニーは同じ席だ。
「爆裂ハンバーグ楽しみだねー!」
「服汚さないようにな」
「まるでカップルみたいだね。私も昔は許嫁とイチャイチャしたもんだ」
「かっぷる? アンソニーさん、かっぷるってなんですか?
「それはね……」
「おおっと言わせねーぞ!?」
料理が来るまでそんな話をしている3人であった。
一方護衛2人。
「……」
「♪~~」
カレンは黙って座っているが、アレスは口笛を吹いていた。
流石に食事をする席で口笛は許せなかったカレンはアレスを注意した。
「アレス! あれほど口笛はやめてって言ったじゃない!」
「なんだよ、別にいいだろ。こまけーな」
「なんだと!? 表にでろ! 剣を抜け!」
「俺は剣使わないんだ。銃ならいいぜ」
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