14保護者?
「君たちは外に出ていてくれるか?」
「しかしアンソニー官僚、わけのわからない輩に1人で会うなど……」
「大丈夫だ。相手の事はよくわかっている」
そう言うと護衛の2人を外し1人隔離部屋へ入っていく。
中には手錠、猿轡、目隠しされた片翼の天使と悪魔。
エルシアとファルトが床に転がされていた。
ファルトは捕まってからいち早く目が覚めていた。
何か薬物のような物で眠らされていて現在地はわからない。
それ以前に動けず身体を捻っているだけだが。
ガタっと扉が開く音がし、ファルトは警戒をしたが魔法も発動出来ず、視界も無く、頼れるのは聴覚のみだ。
「うっー! うー!」
「起きてましたか。今外しますからちょっと待って下さい」
目隠しを外すと、その目は明らかに敵対心を持っていた。
それに気がつくと優しく話しかける。
「大丈夫、私は君たちの味方だ。これから猿轡外すけど魔法だけは勘弁してくれな?」
そう言うとファルトの猿轡を外す。
魔法の攻撃は飛んでこなかったが、代わりに口撃が飛んできた。
「いきなり攻撃してきやがって! それが人間のやり方か!?」
「それは謝罪する。この地方ならではの言い伝えがあったからこうなってしまった」
「そんな事理由にならねぇ!」
「落ち着いて。私は先程も言ったが君たち片翼の味方だ」
その言葉にファルトの瞼がピクリと動いた。
ファルトは命令口調で目の前の男に指示を出した。
「その言葉が本当なら、エルシアの拘束をすべて外せ」
「彼女はエルシアと言うんだね? わかった外そう」
手早くすべての拘束を外すと、部屋の隅にあった救急箱から消毒液と絆創膏を取り出した。
ファルトが見ている眼の前で吹き飛んだ際に負った擦り傷に消毒液を掛け自分のハンカチで拭い取ると絆創膏を貼り付けた。
「これでよし。これで信用してくれたかな?」
「俺の拘束を外せ」
「わかった」
ファルトの手錠を外す。
目の前の男は今の所自分たちに危害を加える事は無いと思うとともに直ぐにでも反撃できるように警戒する。
「エルシア起きろ。大丈夫か?」
「うっ……ふぁると?」
「良かった。身体に異常は無いか?」
「うーん。ちょっと身体が痛いだけかな?」
離れてみていたアンソニーはフラグメントがカオスとコスモスと真逆なのにこれほど仲が良いのに驚いていた。
今はその思考を置いておき、声を掛けた。
「ふむ。打身でも負っているのか。これを使うといいよ」
「……それは?」
「打身に効く使い捨ての湿布だよ。痛いところに貼るだけさ」
ファルトはそれを睨みながら手に取る。
しばらくそれを見つめた後、エルシアに声を掛ける。
「痛いところは何処だ?」
「脇腹、傷跡のところが痛いかな」
「わかった。ちょっと服捲くりあげててくれ」
「うん」
湿布の表面テープを剥がすと脇腹に貼り付けた。
「ひゃふん!?」
「ど、どうした!?」
「ちょっと冷たかった……」
「そうか……」
貼るところを見ていたアンソニーはエルシアの脇腹に傷があるのが見えた。
それは魔獣の牙で付けられたあろう後と皮膚を焼いた痕だった。
エルシアを見て自分の娘を重ねてしまった。
(もし私の娘にあんな傷があったら……。この子達はあの森でどんな生活をしていたんだ?)
「おい、おっさん。俺たちの味方なら直ぐに解放してくれるんだよな?」
「それについては少し待ってくれるかな? 何もせずに君たちを出してしまうと何処かでまた同じ目に合いかねない」
「具体的な案はあるのか?」
「君たちを私の保護下に置く。こう見えても私は国の官僚でね。おいそれと他人に手を出せる立場にいないんだよ」
それを言うと如何にも偉そうな銀色のカードを取り出した。
そこにはアンソニー・シルヒハッセと名前が書かれていた。
「アンソニーっていうのか。俺たちを保護下に入れて何の得がある?」
「ファルト、信じてあげようよ」
「だがな、俺たちは襲われたばかりだぞ? 下手に信用して突き落とされたらどうしようもなくなる」
「それでも信じてあげたい。あの人の目はそんな目をしてないよ」
少し黙り込むファルト。
エルシアの目を見て真剣だと悟る。
そんな目を見ていたファルトは頭を掻きむしると素直になった。
「わかった! わーったよ! 今は信じてやるよ。でも裏切るような真似をしたら……分かるよな?」
「うん。それでもいいよ。私にも君たちと同年代の娘が居てね。そんな真似できるはずもないじゃないか。ぜひ私の娘と友達になってほしい」
「よろしくおねがいします。アンソニーさん! 私はエルシア・エル・シフォーニと言います」
「俺はファルト・ニールだ」
「エルシア、ファルトよろしく。ではこんな場所から話し合いができる部屋に移ろうか」
そう言うと部屋の扉を開け先に廊下に出た。
アンソニーは何やら誰かと話しているようだ。
エルシアとファルトは立ち上がると恐る恐る扉に近づいていった。
「アンソニー官僚! ご無事でしたか。でどうなさいましたか?」
「これから出てくる2人を攻撃しないように。私と同等の護衛をするように」
「は、はぁ。アンソニー官僚がその様におっしゃるのであれば。しかし、アンソニー官僚に牙を向けるようであれば私達が始末しますのでお忘れなく」
「だそうだ! 出てきなさい2人とも」
扉の前から横にずれると、エルシアとファルトが部屋から出てきた。
エルシアを守る様にファルトが立ち回る。
場の雰囲気が少しだが張り詰める。
「カレン、アレス。そう睨むな。彼らは少し違うが我々と同じ人だ」
「アンソニー官僚がそう仰るのであれば……」
「シルヒハッセの旦那が言うならしょうがねぇな」
2人の護衛からの視線が和らいだことでファルトの警戒も少し薄れた。
「おい、嬢ちゃん名前は?」
「あ、はい! エルシアと言います! エルシア・エル・シフォーニです!」
「ほう……いい身体してんな!」
「おい、エルシアに手を出すなよ?」
「お? 彼氏か? 若いのにヤルなぁ~え~?」
「アレス! 誂うんじゃないよ! 困ってるじゃない」
カレンがアレスを注意する。
エルシアは苦笑いし、ファルトは怒っている。
「ごめんね、私はカレン・シルフィードって言うのカレンでいいわよ。あっちのバカはアレス・ディアロード」
「カレンさんですね。よろしくおねがいします」
「そちらの彼は?」
「ファルトだ」
「よし! 自己紹介も済んだ所で談話室に行こうか」
談話室に移動する5人。
移動中に周りを見渡すと赤いカーペットに高そうな壺が置いてある。
先程まで居た地下の部屋とは違い壁にも壁紙が貼られている。
「ここだよ。カレンとアレスは誰も入ってこないように見張っててくれ」
「わかりました」
「了解」
「さ、2人とも入ってくれ」
エルシアとファルトは談話室に入ると如何にも高そうなソファーが置かれていた。
「座ってもいいよ。飲み物はコーヒーでいいかな?」
「俺は何でも」
「私は砂糖マシマシで!」
「ははは。エルシアは甘党か」
3人分のコーヒーを入れるとテーブルの上に置いた。
アンソニーもソファーに座り話を始めた。
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