12別れと出発
少し遅めの昼食を取り、午前中に行った模擬戦についての反省会を行う事になった。
「まずは結界魔法の発動から攻撃までの下りじゃ。あの時即席の作戦で勝利を確信しておった。慢心は良くないことじゃ。きちんと相手を倒したかどうか確認するまでは気を抜いてはならぬ」
「はい!」
「不意打ちがなければ避けれたし!」
「エルシアは反応出来たが、ファルトお前は反応どころか攻撃の気配にも気が付かなかったじゃろ。何言っとるんじゃ」
拗ねるファルトをエルシアが宥める。
天然必殺の頭なでをファルトに使用し、無事戻すことに成功した。
本人には自覚はないがファルトもネルガンもこれは恥ずかしいと思っているのであった。
「そ、それで俺の再接続はどうだった?」
「使えるとは思わなかったわい。その年で使えるのは学園に通っている優等生ぐらいじゃな」
「ふん。すごいだろ」
「ねぇねぇ! 師匠私は?」
「そうじゃなぁ……。魔法の面では普通じゃが、直感がいいところだな」
「師匠、それ褒めてます?」
プンスカ怒っているエルシアを笑いながらあしらうと、話を続ける。
細かい魔法の威力調整と2人のコンビネーションを詰め込む。
ファルトは防御魔法が使えなく、エルシアは攻撃魔法が使えない。
いちいち攻撃魔法を攻撃魔法で相殺していては魔力が勿体ない。
そこでエルシアを使い効率良く戦い抜く方法を微調整する。
「エルシアは一応ダガーナイフを持っていたほうがいいのぅ」
「そうだな。攻撃方法が無いからなぁ。街に行った時に買うか」
「刃物は包丁しか持ったこと無いよ? どうやって使うの?」
「俺が教える。心配するな」
3人で話しているといつの間にか夕方になっていた。
2人は風呂に入り、夕食の用意を手伝う。
「食材はすべて使い切るぞ! あと明日の朝食の準備も忘れないように」
「はーい!」
朝食は2人分だけを作り布を被せておく。
宣言通りすべての食材を持て余すことなく鍋に入れる。
今日の夜は特別で最後の夜なのだから。
★
夜食を食べ終わったネルガンはひと足早く自室に戻っていた。
机の上に置いておいたメモを引き出しの中に入れる。
そしてベッドに横になった。
「ほほほ……これが寿命の尽きる前か……。体がだるい、眠くなってきたのぅ」
気を抜いたら一気に眠ってしまいそうな睡魔に襲われる。
おそらく寝たら最後、起きることなく寿命を迎えるだろう。
脳裏に過るのは片翼の2人。
「あぁ……。儂は今まで何人の片翼を犠牲にしてしまったのだ……儂もかなり情が移ってしまったのぅ」
1人で感情に浸っているところに2人がやってきた。
「師匠入りますよー」
「邪魔するぜ」
「おぉ、来たか。儂もちょうど待っておったところじゃ」
起き上がりベッドに腰掛ける。
エルシアはネルガンの隣に座り、ファルトは椅子に腰掛けた。
他愛のない話をし、時間を過ごしていく。
時間が進むにつれてネルガンの反応が鈍くなってきた。
それを一生懸命に支えるエルシア。
ファルトは黙って見ていた。
「師匠はなんでこんな場所に住んでるの?」
「……それか。そうじゃなぁ……何でかのぅ」
一瞬目が泳いだのをファルトは見逃さなかった。
しかし何も言わないことにした。
何か聞かれたくないことがあるのだろう。
「これでも儂は若い頃に無茶をしたものじゃ。それでこんな辺鄙な場所に住んで居るのかのぅ」
「師匠の若い頃ってどんな感じだったの?」
「ほほほ。残りの時間では語り足りないぞ」
思い当たる事を話す。
中でもギルドでの活躍は凄かったらしく、かなり自慢していた。
やがて夜も深くなり月が頭上へ上がってきた。
「そろそろ時間か。エルシア」
「うん。わかってるよ」
ネルガンをベッドに寝かせると手を繋いだ。
「師匠。そろそろお別れみたいです。少しの間でしたがありがとう……ございました!」
「爺さん聞いてるか? 最後くらい挨拶させてくれよ」
もう既に声を出すことも億劫になってしまっているネルガンは繋いだ手に力を込めた。
それを感じ目配りをする。
「はっきり言って助かったんだ。俺もエルシアも。その……なんだ、ありがとな」
それを聞き届けると涙が流れ、繋いでいた手から力が抜けた。
微かにあった呼吸も止まり、鼓動も止まった。
「エルシア」
「わかってる……わか……グス……てる」
「我慢しなくていいぞ」
「……うわあああああ! 師匠ー! ああぁぁぁぁぁぁ」
夜の森の中、ひっそりと佇む家の中から悲しみに染まった鳴き声が響き渡った。
泣きわめくエルシアにファルトが慰める。
そしてしばらく泣き続け、落ち着きを取り戻していく。
「もう大丈夫か?」
「うん……ありがと、ファルト」
「火葬は明日の朝にしよう。今夜は寝るといい」
それぞれの部屋に戻り眠りについた。
しかし、実際は2人とも眠りにつけなかった。
「……寝れないな。エルシアは寝れたか? ちょっと見に行くか」
呟くとベッドから降りると部屋の扉を開けた。
そこには寝間着姿で枕を持ったエルシアが立っていた。
「あ……ファルト」
「え、エルシア?」
「えっと……一緒に寝ていい?」
「あ、あぁ。いいぞ」
2人揃ってベッドに横になる。
お互い背中を向けて寝ていたがエルシアが寝返りをうった。
「少し……この態勢でいいかな?」
「少しじゃなくても寝てもいいぞ?」
「そうさせてもらうね……」
そして2人の夜が過ぎていった。
翌朝最初に起きたのはファルトだった。
エルシアを起こさないようにベッドから抜け出すとリビングに向かう。
リビングには昨晩作った朝食が布に被った状態で置かれていた。
「朝食よし。コップっと」
水を2人分入れるとテーブルに置く。
「水よし。次は寝坊助を起こすだけだな」
寝室に戻るとベッドで寝ているエルシアの肩に手を掛けた。
ゆっくり揺さぶりながら声をかける。
「ん~。後5分……」
「起きろ!」
「……ふが!?」
鼻を摘まれ飛び起きるエルシア。
1つ文句でも言おうかと思ったがやめておくことにした。
「ファルトおはよー」
「おう。飯だぞ」
朝食を2人で食べる。
終始無言で食べ終えると寝間着から普段着に着替える。
その後ネルガンの遺体を外に運び出し、魔法で地面に大人一人分の穴を掘った。
そこに遺体を寝かせ、家にあった薪を利用して燃料とする。
「いくぞ」
「うん」
「我の威を示せ、ファイア」「我の威を示せ、ファイア」
2人同時に魔法が発動し薪に引火した。
徐々に炎が大きくなり、ネルガンの火葬が進んでいく。
2人ともこういう時に何をして良いのかわからず、ただただ燃え行く遺体を凝視していた。
やがて炎も燃え尽きた頃、掘り返した土をもとに戻した。
そこにネルガンが使っていた杖を差し込み墓とした。
「書類とキャッシュカードと地図持った?」
「あぁ。持ったぞ」
「それじゃ行こっか。師匠またいつか来ますね」
「じゃあな」
それだけ言うと2人は教えてもらった通り森を出ていったのであった。
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