111眠り姫2
人間の集落のその奥。
そこにひっそりとあった鉄の檻。
そこに異形は封印されていた。
「クソ! ここから出しやがれ! 私を誰だと思ってる!? 人界地方軍総司令のデュナミス様だよ! ここからさっさと出しな!」
まんまと麻痺毒を夕飯に仕込まれ檻に入れられたのだった。
檻で吠え続けること半日。
朝になり1人の男性が入ってきた。
服は破け顔に青アザがあり痩せ細っていた。
それを見たデュナミスはこう言った。
「へ~。アンタ除け者にされてるだろ。私には分かるよ。アンタは私達と同じ匂いがする。ここに来るのも厄介払いにされるんだろう?」
「……飯だ」
「みすぼらしい飯だね。アンタ、厄介者同士ここから逃げないか? ここの鍵開けてくれるだけでいいからさ」
「……それは無理だ」
「私には手にとるように分かるよ。アンタこの身に変えても守りたいものがあるだろ? そいつも助けてやろう。どうだ? 悪くない話だろう?」
「……異形は信じられない」
男性の目は怯えの感情を表していた。
デュナミスに怯えているのか、はたまた集落の人間に怯えているのか。
どちらにせよ怯えているのは変わりはない。
デュナミスはニヤニヤしながら出ていく男性を見ていた。
牢屋は日が入らず時間がわからなかったが腹の減りようから昼は過ぎていることは分かった。
昼飯を寄越せと吠える。
するとしばらくして朝の男性が入ってきた。
デュナミスは朝と比べ男性の青アザが増えている事が分かった。
「飯は?」
「……異形に3食食わす飯はない」
「みすぼらしい飯、3食でない飯。ツーストライクってところね」
「……野球か?」
「お? 知っている口か野球は良いよな! 人間の文化の中で唯一いい所だ」
「弟も元気な頃は楽しんでいたな」
ニヤリとデュナミスは口角を上げる。
「ほう。守ってるのは弟か。見た所食い物を食えず体調でも崩したか」
「っ!」
「図星か。どうだ? 私を檻から出してくれれば弟ごと助けてやろう」
「……明日デュナミスの死刑がある。皆がお前を焼いてバラして食う予定だ。絶対逃げるなよ」
「ふぅん。死刑ね」
それだけ言うと男性は出ていく。
デュナミスはニヤニヤしながらその後姿を見送った。
翌朝デュナミスが寝ていると牢屋に2人の男が入ってきた。
男たちはデュナミスに手を伸ばす。
その時後ろから木材で男たちが殴られる。
「ぐあ!」
「なんだ!? がっ!」
「……遅いじゃない。おまえ」
「……逃げないでいてくれて助かった。デュナミス行くぞ」
外に出ると寝かされている少年の姿があった。
男性は少年を背負うとデュナミスに逃げ道を指示する。
「東に逃げろ。他は魔法使いが見張っている」
「人間が魔法?」
「以前死刑にした異形を食ってから魔法を使えるようになったものが居る」
「ふ~ん」
3人で東に逃げると後方が騒がしくなっていた。
逃げたことがばれたようだ。
しかし既に森を抜け草原に入っていた。
背の高い草で覆われ追跡は困難になっている。
(こっちは基地のあった方向だね。まあそのまま通り過ぎればいいかね)
草原を走り抜けると再び森に入る。
男性は肩で息をしていた。
「はぁはぁ……。ここまでくれば大丈夫」
「人間、助かったぞ。褒美を取らせよう。何でも言うが良い」
「なんでも……? なら弟の母親になってほしい」
「は?」
「え?」
デュナミスは呆気にとられたが、自身がなんでもと言ったことにしくじった。
だが一度口に出したことを曲げる事はプライドに反する。
「い、良いだろう。なってやる。おまえはさしづめ旦那と言うことだな」
「え?」
「は?」
デュナミスは木に穴をあけるとそこを住居代わりにした。
さらに弟に回復魔法をかけ、体調を整える。
弟の寝息が立つ中、デュナミスは初夜を迎えるのであった。
そして2つ目の記録が終わった。
更に深く沈んでいく。
胸だった場所にまた1つの記録が降って来た。
そして頭に流れ込んでくる。
★
片翼の白い翼を背に洞穴の周囲で遊ぶ子供が居た。
名をフィファナ・エル・アーレスと言う。
年は13歳。
「こーら! フィファナ、ご飯よ」
「はーい!」
食事はいつもどおりの果実や山菜。
それを味わって食べると再び外に繰り出した。
今日は少し遠くまで遊びに行っていた。
山を降りた森で人影を見た。
人が居たのかとフィファナはその後を追う。
「待って~!」
追いかけている人物はローブを来ているが、背中が妙に膨らんでいる。
狩った獣でも背負ってるのかと思い距離を詰める。
フィファナは非常に運動神経に優れておりすぐに追いつくことができた。
「つっかまえたー!」
「おわあ!」
ローブの人物に飛びつくと二人して森に転がった。
転がった衝撃でローブが捲れその姿が顕になる。
「男の子? 黒い翼?」
「いてて。おまえなんなんだ! この俺様に手を出すなんていい度胸だな!」
「か……」
「か?」
「かわいい! 君何歳? 黒い翼もチョーカッコイイ! でもかわいい。う~、迷う~!」
「離せ! 俺様にさわるなぁ~!」
「か~わ~い~い~!」
「む、むぎゅうう」
頬を擦り寄せられ若干赤面している男の子。
嫌がっているが本音は喜んでいる。
フィファナの頬ずりが終わった後男の子は解放された。
改めて色々聞くことにした。
「あなた名前は? 年は何歳?」
「聞いて驚け! 俺様は元魔王軍辺境基地総司令デュナミス母さんの息子のアヴァン・ヴァレフォルだ! 年は今年で15になる!」
「へ~!アヴァン君っていうんだね。よしよしよし~」
「子供扱いするなー!」
「だって15歳って嘘でしょ? 10歳位じゃない?」
「うっ……」
言葉に詰まるアヴァン。
詰め寄られ本当の年を告白するのであった。
その後他愛もない話しをしつつ、お互いのことを話し合う。
やはり両方の家も訳ありだ。
お互い距離が近いこともあって近くに引っ越さないかと話していた。
「引っ越すならうちかな~? 洞穴じゃかっこつかないしね~」
「ふん! 俺様の母さんにかかればフィファナの家も簡単に作れる!」
「本当!? じゃあ、お母さんに相談してみるね!」
「するが良い! 明日もここで待ってるぞ」
その日は別れお互いに家に帰った。
それぞれの家では今日あったことが話題になっていた。
アーレス家では好印象だった。
「あら。年が近い友だちがいるのはいいね。明日私も行こうかな」
「お母さんもきっと気が合うよ!」
ヴァレフォル家ではデュナミスが難色を示していた。
「白い翼か……」
「なあなあ母さんだめなのか? フィファナ良い奴だったぞ!」
「私の昔話をしてやろう」
デュナミスは自身の昔話をアヴァンに教える。
だが逆に1人単騎で特攻してきた相手に惚れてしまったようだ。
先程から興奮してやまない。
それを見たデュナミスは複雑な気持ちになったが、子供の将来の事を思うと、その考えを受け入れたほうが良いのかもしれないと思った。
「よし、明日私も同行しよう」
翌朝二人の親は子供に連れられ約束の場所へと向かったのだ。
先に着いたのはアヴァン達。
そして遅れること1時間、フィファナ達がやってきた。
2人の親はまず腹の探り合いをするために軽い挨拶をする。
「はじめまして。アーレスです」
「デュナミス・ヴァレフォルだ」
「年の近い友達が出来ることはいいですね」
「そうだな。子供の成長にはいい」
「……少し離れて話しましょう? フィファナ、少しお母さんたち向こうで話してくるから」
「はーい」
アーレスはそれだけ言うとデュナミスを連れて物陰へと移動したのだった。
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