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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
6天魔人界戦争
110/113

110眠り姫1





 戦闘が終わりトレーニング施設から避難していた人が出てきていた。

 そこで見た光景はルルがエルシアに心肺蘇生法を施している姿であった。

 必死に体重を載せエルシアの胸部を圧迫する。

 人工呼吸も行い、蘇生を試みる。


「エルシア! 死んでは駄目!」

「エルシアさん!? お祖父様何があったのですか!」

「アリスや。突然魔王軍が攻めて来て防衛していたんだが、手に負えずエルシアが魔法を使って倒れてしまったのだ」

「なぜ魔王軍が……。その人達は?」

「エルシアとファルトが天界、魔界の先兵だと言ってきた連中だよ」

「それで人が集まっているこちらに魔王軍が来たのですね。下衆ですね」


 アリスに見られた彼らは身動いだ。

 それを見たアリスは彼らに詰め寄る。

 体付き、重心の動かし方でなにの戦闘力もない一般人だと分かっているが言わずにはいられなかった。


「あなた達、誰に守られたかいってみなさい」

「そこの奥さんと爺さんだ」

「それだけではないでしょう? きちんと言いなさい。私も遠くから見ていましたよ。お母さんの氷龍だけでは対処できずエルシアさんのエモート防御魔法で助けられていたのを。見ていたのでしょう!」

「っ! ……そこの倒れている女の子にも助けられた」

「最初からそう言いなさい! 命の恩人ですよ。誰に踊らされたのかは知りませんが、これだけ言わせていただきます。この大変な時期に何仲間割れを起こしているのですか! 私達に守られておいて、それはないでしょう!」

「……」

「出ていきなさい。二度と私達の前に現れないでください」


 彼らはトボトボと歩き、シルヒハッセ邸から出ていった。

 アリスはそれを見届けるとすぐにエルシアの元へと急いだ。


「お母さん! エルシアさんは!」

「まだ、息が戻らない、の!」

「私がやります。離れててください」


 アリスは胸の上に手を置くと回復魔法のエレクトリックショックを使う。

 エレクトリックショックでエルシアの体が跳ねる。

 脈を確認するがしかし息は吹き返さない

 心肺蘇生法を行いもう一度。

 エレクトリックショックでエルシアの体が跳ねる。

 脈を確認するが息は吹き返さない

 心肺蘇生法を行う。


「死んでは駄目です! 私は許しませんよ、エルシアさん達に救われたこの生命に変えても皆を守り抜くのです! その中にはエルシアさん、貴女もいるのです!」


 もう一度エレクトリックショックを行使する。


「ですから戻ってきてください!」


 心肺蘇生法を行う。

 すると、息を吹き返した。

 すかさず回復魔法を強くかける。


「我の威を示せ、ハイフリートヒール! 我の威を示せ、ハイフリートヒール!」


 先程より呼吸が安定したが呼吸が少し浅い。

 すぐにエルシア達の部屋のベッドに運ぶ。

 今病院にはこんでも難民の治療で病室は満員だろう。

 医者もすぐには見てくれるとも限らない。

 ルルは病院に連絡すると手が空き次第伺うとの返答があった。


 その夜、アリスはエデルガーデン記念公園に戻っていた。

 ファルトにエルシアの事を伝えるためだ。

 その事を伝えると、少しうつむき暫し無言になった。


「…………そうか。エルシアはそこまで弱っていたんだな。1ヶ月なんてもんじゃない、後半月持つかどうかだな」


 頭の中で願いをどう果たそうかと思考する。

 アリスが話しかけてきたが今はそれどころではない。

 1分1秒が惜しい。

 必死に頭で考える。


「ファルトさん、ファルトさん! 無視しないでください!」

「なんだ? うるさいな」

「ここは私1人で守ります。軍にもそう伝えます。だからファルトさんはエルシアさんの元に居てください」

「そうさせてもらう」


 そう言うとファルトは身体強化の攻撃魔法を付与し、シルヒハッセ邸に走って戻るのであった。





 エルシアは思考の海に漂っていた。

 体の感覚が徐々に消えていき海と一つになる。

 意識が深く、より深く沈んでいく。

 そこには歴史に埋もれた数々の出来事が記録されていた。

 

 ふっと手があったような場所に1つの記録が触れた。

 記録が頭の中に流れてくる。

 それはまだアレクシードが生まれるより前の記録だった。


「今日はどこの集落が異形に落とされるんだろう」


 その少女は名前もなければ親も居ない。

 少女の住んでいた集落はとうの昔に異形によって滅ぼされていた。


「今日のご飯探しに行かないと」


 痩せ細ており足取りは重い。

 入り口を出ようとした時左肩が扉……と言うにはお粗末な物だが木の板に当たった。

 その時左目を隠していた髪の毛が揺れ、目の奥底(・・)が見えた。


「あいたた……目がないのは慣れないなぁ」


 少女は森に果物を取りに行った。

 森のめぐみを貰うと洞穴へと戻る。


「……?」


 締めたはずの扉が開いている。

 そっと中を覗くと異形が横たわっていた。

 物音に異形が目を開く。


「……人間か。去れ」

「ここ私の家」

「……すまなかった。出ていく。……くっ!」


 少女は異形を支える。

 自分の着ている服を破き、異形の傷口に巻く。


「何のマネだ?」

「人助け」

「……変わったやつだ」

「これ、私の分だけど食べて」

「人間の施しなど――」


 ぐうと腹が鳴った。


「……頂く」


 少女と異形は言葉を交わし、次第に仲が良くなっていった。

 それもほんのひととき。

 異形は傷が治り問題なく体が動かせるようになると出ていくと言い出した。


「そう。出ていっちゃうんだ」

「ああ。仲間にも無事を知らせてやらないと」

「またね?」

「また会おう」


 それから5年。

 異形は任務でかつて知り合った少女の住む洞穴近くに来ていた。

 任務は相手の指揮官の暗殺と工作。

 ほぼ生きて帰れない任務を押し付けられたのだ・


「また会おう、か。最後に寄ってみても罰は当たらないだろう」


 洞穴に行くと扉を開く。

 そこには少女ではなく大人の女性になった彼女が居た。


「あ」

「久しぶりだな。人間は随分と変わるものだな」

「久しぶり~元気だった?」


 異形は事を話す。


「そう。死ににいくのね」

「ああ」

「何かやり残したことはないの?」

「そうだな……。結婚して子を持ちたかったな」

「……じゃあ私とする?」


 異形は呆気にとられたが、これから死にに行くのだ。

 細かいことはいいかと彼女の誘いに乗ったのだった。


 夜、裸の2人が寄り添っていた。

 異形が服を着始めた。


「もう行くの?」

「ああ」

「お別れなのね」

「ああ」

「……子供の名前はどうするの?」

「そうだな……。男だったらクノン・レイ・アーレス。女だったらフィファナ・エル・アーレスだな」

「わかった。大切にする。任務頑張って」

「ああ。行ってくるよ」


 白い羽根が空に舞った。

 

 異形は敵基地に潜入し破壊工作に成功したが敵の指揮官に逃亡され命を落としたのだった。


 1つ目の記録が終わった。

 更に深く沈んでいく。

 足だった場所にまた1つの記録が当たった。

 頭に流れ込んでくる。





 その女は基地の指揮官だった。

 人間たちに異形と呼ばれる黒い翼。

 女の異形は突如攻め込んできた1人の白い翼の異形に成すすべもなく逃亡したのだった。


「はぁはぁ……。敵前逃亡なんて魔王様に知られたら死罪だ……。適当な人間の集落でも襲って飢えを凌ぐか」


 異形は人の住む集落目指して進む。

 3時間ほど飛んだ場所にそれはあった。

 女の異形は集落の真ん中に降り立つと、集落のリーダーを呼んだ。


「はい。お呼びでしょうか」

「人間。私のために食事を用意しろ。でないとこの集落を焼き払うぞ」

「は、はい。ただいま用意します」

「それでいい」


 異形は用意させた椅子に座りテーブルに置かれた料理に齧り付いていた。

 ちょうど夕食前に襲われ腹が減っていたのだ。

 故に食事に仕込まれた毒に気が付くことはなかったのだった。




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