11模擬戦
「エル……エルシア……エルシア朝だぞ」
エルシアは朝日の眩しさに目を擦りつつ、上半身を起こした。
「う~ん! よく寝た!」
「寝すぎだ。朝食だぞ、早く着替えてリビングに行こうぜ」
「はーい。着替えるね」
するとエルシアは寝間着に手をかけ脱ぎ始めたのだ。
それにはファルトも驚き、即部屋から出ていたのだった。
着替えが終わり、部屋から出てきたエルシア。
欠伸をしつつ腕を伸ばし身体の強張りを取っている。
「おい、エルシア。お前寝ぼけてただろ?」
「え? なんのこと?」
「お前俺がいる前で脱ぎ始めただろ!」
「あー。そうだっけ?」
てへぺろな表情を浮かべファルトを見つめる。
思わず顔を逸らす。
「(くっそ! かわいいじゃねぇか!)」
「??」
リビングに入ると今までとは格段と違う料理の数々が並んでいた。
2人は思わずゴクリと涎を飲み込んだ。
そんな2人に気がついたネルガンは笑いながら手招いた。
「何を固まっておる。人生最後の朝食じゃ、豪勢にいこうではないか。ほほほ!」
「だ、だからって限度があるだろ爺さん」
「わーい! いっぱい食べるー!」
真っ先にエルシアが飛びつき朝食を食べ始めた。
続いてネルガンとファルトも椅子に座り食べ始める。
お互いに雑談をしながら食事を進める間に、エルシアが人間社会の事を聞き始めた。
「師匠! 人間社会ってどうなってるんですか?」
「ほほほ。箱入り娘だったから天界の社会もしらないか」
「はい、知りません」
「では教えてあげようか。まずは……」
常識が欠けているエルシアに1から説明を行う。
人界は1つの統一国家であり、現在23代ガブリーラ・エンフォンス女王が統治している。
現在は統一歴1774年である。
統一前は国と呼べるものはなく、荒廃した世界だったという。
人界は天界と魔界の戦争の場として使用されており、統一国家が誕生したことにより人界での戦争はなくなった。
現在の街ではコスモスとカオスが混在して生活をしており多少事件は起こるものの平和そのものだ。
「なるほど……! 窓から見てた天界の風景とはだいぶ違うんですね」
「それに街の外には魔力で変質した魔獣がおるから気をつけるのじゃぞ」
「あっ……」
「爺さん、エルシアは森の中で既に襲われてる」
「……そうか」
苦虫を潰したような表情を浮かべるネルガン。
「何も爺さんが悪いわけじゃないだろ~。悪いのはそんな危ない場所に追放した奴だ」
「そう言ってくれて嬉しいのぅ」
「うんうん! しっかりファルトが治療してくれて助かったから大丈夫です!」
そう言うとエルシアは上着を捲って脇腹を見せた。
そこにはきれいな肌には似つかわしくない生々しい傷跡と皮膚が焼けたあとが残っていた。
「回復魔法が使えなかったからな。焼いて塞ぐしか無かったんだ」
その傷跡を見てからネルガンの雰囲気が少し変わった。
その僅かな雰囲気の変化に気がついたエルシアは咄嗟に傷跡を隠し、話題を逸した。
「師匠! 今日も魔法の特訓しましょう!」
「お。そうだな、今日が最後だからな」
「そうじゃな。儂の知っている事をすべて教えよう」
食べ終わった食器をキッチンに片付けると我先にとエルシアが玄関に走っていった。
それに続きファルト、ネルガンが玄関へと向かう。
最終日の魔法の特訓が始まる。
2人とも基礎は出来ているため、その長所を伸ばすことに専念させる。
ファルトは攻撃魔法、エルシアは防御魔法と回復魔法である。
魔力量はそもそも人ではないため人間以上天使悪魔以下と言う中途半端の位置にあり、普通の人では超えられる訳は無いのだ。
だが、魔法を得意とする魔法使いには並ばれる可能性があった。
「ファルト! 魔法は派手さではないぞ、もっと魔力を圧縮して放つんじゃ!」
「無茶言うぜ」
「エルシアは防御が甘い! そんな防御魔法では割られてしまうぞ!」
「は、はい! 師匠!」
今日一日限りのスパルタ特訓。
休憩なしの特訓に流石に疲れてきた2人。
ここで2人の腹が鳴った。
「し、師匠……お昼ごはん……」
「ちょっと休憩させてくれ」
「甘ったれるな! 時間は有限じゃ! これより実践訓練に入る!」
「えー!」
「えーではない! 2人は攻撃と防御の連携をしつつ儂に当てるつもりで攻撃してくるんじゃぞ」
最後に勝ったら昼食にすると言うと2人は作戦会議を始めていた。
作戦会議が終わったのか、エルシアとファルトはネルガンに立ち向かう。
「怪我しても知らねーからな!」
「お昼! ご飯!」
「ほれ、かかってこい」
「いくぞエルシア! 我の威を示せ、グランドブレイク!」
初手辺り一帯の地面を破壊し、動ける範囲を狭めたが、ネルガンはそれを余裕に交わしていく。
「甘いぞ、我の威を示せ、ウォーターストリーム」
「我の威を示せ、ファイアウォール! エルシア今だ!」
「我の威を示せ! ステイシススパイク!」
防御魔法派生の結界魔法がネルガンを捕らえた。
しかし表情は一切替わらず、余裕すら見える。
そこにファルトの魔法が追撃に入った。
「よし! おーい、爺さん生きてっか?」
砂埃が舞っていて姿が見えないが、何かが聞こえてくる。
エルシアの直感が働き、直様防御魔法を展開する。
「わ、我の威を示せ! プロテクション!」
それと同時に炎の槍がエルシアに直撃し、防御魔法を抜かれ吹き飛んだ。
「かはっ!」
「エルシア! うわ!?」
少し視線を離した瞬間にファルトの足元に雷撃が放たれ、先程のウォーターストリームの水で感電したのだ。
「ほほほ。甘いわ」
「うぐぅ……我の威を示せ、ヒール」
エルシアが回復しながら立ち上がり、ファルトへ近づく。
そして回復魔法をかける。
「っ……。よくもやってくれたな」
「勝った気じゃったじゃろ? のうのう、どんな気持ちじゃ?」
定番の煽り文句にイラっと来たファルト。
意外と煽り耐性が無いらしい。
立ち上がると、先程までとは比べ物にならない魔力で魔法を行使する。
「我の威を示せ! フェイタリティ=リコネクト、我の威を示せ、デッドエンド!」
ファルトが唯一の切り札である魔法の再接続。
再接続とは強力な魔法を行使する前に対応した魔法を再接続させる技術である。
ファルトの周囲に禍々しい闇が発生し、そこから腕が伸びてくる。
それは形容し難い物で腐り落ちている死者の肉で構成されており、腐臭とうめき声が聞こえているのだ。
「ほう。やりおるな。じゃが甘いのぅ……我の威を示せ、プリフィケーション=リコネクト、我の威を示せ、サンクチュアリ・リザレクション」
「なっ!? 俺の魔法が打ち消された!?」
「我の威を示せ! サードプロテクション!」
エルシアが3つの防御魔法を展開し、打ち消しの際に発生した衝撃波を自分とファルトを守る。
衝撃波は凄まじく、木がへし折れ防御魔法も砕けていく。
最後の1枚にひび割れが生じた所で魔法による衝撃波は止んだ。
「はぁはぁ、助かったエルシア。今ので結構魔力つかっちまったな」
「私も……防御魔法に魔力回しすぎちゃった」
「おい、爺さん生きてんだろ。もう無理だ。降参だ」
「情けないのぅ。儂が若い頃はもっとどんぱち殺ったものだが」
平然な表情でこちらに歩いてくるネルガンの姿。
一切呼吸を乱さず、まだ魔力にも余力があるらしい。
「それが使えるのならもう良いじゃろ。昼飯にしよう」
2人にそう言葉をかけると、家の方に踵を返すのであった。
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