105ファーストコンタクト
地方軍駐屯地前。
そこには看板を持った民衆が今日も詰めかけていた。
民衆は反戦を掲げ、和平を結べと叫ぶ。
「責任者は出てこい! 戦争反対!」
「戦争反対!」
「責任者は責任を取れ!」
その声は軍施設の中にまで聞こえていた。
司令官はガブリーラが余計なことをしたせいで自分にまでとばっちりが来たと嘆いている。
当の本人は既にこの世に居ないため言いたい放題だ。
それを聞いていても咎める人物や機関は存在しない。
「はぁ。本当に厄介なことを残していったな。はぁ……。どうするんだこれ。時間が経てば経つほど人は増えるし、俺に言われても発言権なんてあるわけないのに」
ため息をついていると扉がノックされた。
入室を許可すると警備員が入ってきた。
「フェンスを登って侵入しようとした一般人が居たため警備室で取り調べをしていますがいかがなされますか?」
「またか……。今日で何人目だ?」
「……18人目です」
「はぁ……。もう良い。解放しろ。以降同じことが起きても同じく対処しろ」
「わかりました」
そう言うと警備員は警備室に戻っていった。
受話器を取ると憲兵へと連絡を取る。
数秒間の呼び出し音の後、電話が繋がる。
『はい。憲兵署です』
「第28部隊軍司令官だ。デモ隊の排除を頼みたい」
『デモは受理されています。不当排除はできません』
「デモにまぎれて犯罪者も基地に侵入している! どんな潜在犯がいるとも限らん! さっさと取り締まれ!」
『……警備の強化という名目で解散させます』
「それでいい。任せたぞ」
受話器を置く。
外から聞こえる罵声を耳に何度目かわからないため息をつく。
後少しでこの煩い罵声から開放されると考えれば気が楽になると言うものだ。
外から聞こえる罵声が驚きの声に変わる。
憲兵が来たのかと思い外を見る。
そこには黒い双翼の翼を広げた人の姿があった。
「あれは……なんだ?」
瞬間、民衆の中央を狙って攻撃魔法が放たれた。
民衆は狼狽し、我先にと基地に雪崩込んでくる。
それを見た司令官は無線機を手に取り緊急事態を宣言したのだった。
『民衆に向け攻撃魔法が放たれた。犯人を即拘束せよ。抵抗するのであれば銃撃も許可された。繰り返す――』
王国軍兵士達がアサルトライフルを持ち出し行動を開始する。
既に民衆の一部が軍施設に逃げ込んでおり早期解決を訴えていた。
王国軍兵士が外に出ると空に浮かぶ人を見た。
兵士達はそれを見てこう呼んだ。
悪魔だ、と。
「奴ら攻めてきたんだ! 撃て撃て撃て!」
地方軍が使う銃弾は高価な特殊弾ではなく通常弾である。
悪魔達が付与している防御魔法に弾丸は阻まれ、悪魔達はケラケラと笑いながら見下ろしている。
1人の悪魔が手を王国軍兵士に向けた。
「我の威を示せ、ファイアランス」
「うわあああ! 火が! 熱い! 熱い!」
「お! 魔法効くじゃん! 前情報だと効かないって聞いてたがこれは良い」
「燃やしてやろうぜ! 我の威を示せ、ファイアランス!」
王国軍兵士だけではなく施設にも攻撃魔法が向けられ、施設に炎があがった。
中からは日から逃れようと続々と人々が逃げ出してくる。
逃げ出してきた民衆や兵士達を上空から攻撃魔法で狙い撃ちしていく。
そこにプラカードを持った1人の女声が歩いてきた。
プラカードには戦争反対、和平を結べと書かれている。
それを見た1人の悪魔が地上に降りた。
「魔王軍の方ですか? どうか和平を結んでいただけないでしょうか?」
「……ぷっ! こいつマジで言ってんのか! 喧嘩を売ってきたのは人類、お前らだろ。自覚ないのか?」
「私達一般市民は戦争に反対していました。軍関係者は殺してしまっても良いです。どうか一般市民と和平を――」
「お前馬鹿ぁ? 自分が今何言ってるのか分かってるのか? そうやって簡単に他人を裏切る。他人を同じ生命として数えないからお前ら人類が悪魔を、家族を虐殺したんだ。この地上を這いつくばる蛆虫どもめ!」
そう言うと女性を殴りつける。
殴り飛ばされた女性はプラカードが手から離れ地面に落ちる。
悪魔は止めを刺そうと女性へと近づく。
するとポケットに隠し持っていた折りたたみナイフを取り出し悪魔へと突き立てた。
「……!?」
「そうだ。それがお前達人類の愚かさだ! 和平を申し込んでおいて内心では敵視している。我の威を示せ、ファイアランス」
「ぎゃあああ!」
女性を焼くと上空へ上がる。
悪魔達は街に散らばると至る箇所に攻撃魔法を撃ち込み炎上させていく。
軍の施設で大爆発が起きた。
兵器庫に保管されていた爆薬に引火したのだ。
夕方まで王国の至る場所で悪魔の襲撃があり、特に地方都市は火の海になった。
その後大量の難民が発生し大都市に押し寄せることとなる。
★
夜。
軍の最高司令室では今日発生した悪魔の襲撃の報告を聞いていた。
頭が痛くなる思いだった。
「数え切れないほどの民間人に犠牲者……。軍、特に地方軍に重大な損害……。特殊弾の配備を考えなければならないな。魔王軍は魔法のみだったのか?」
「はい。生きている報告者からは魔法のみを使っていたとの報告が上がっています」
「軍に攻撃魔法に秀でたものは居るか?」
「マギア部隊であれば先の大量死で壊滅しました」
「……ありえん」
最高司令官は今後天界の天使達もやってくると言うのに悪魔でこれだけの被害が出ている。
果たして人類は生き延びられるのかと考えさせられる事になった。
「天使達がやってくる前に特殊弾の生産を急がせろ。労働基準法など破り捨てろ。20時間は働かせろ」
その時電話が鳴った。
受話器を取ると、特殊弾を製造している工場からの連絡だった。
「なんだ? たった今特殊弾の生産体制を――」
「そんなことより敵襲です! 天使と悪魔の混同部隊です! 至急応援を……うわ! やめろ、来るな! うわあああ!」
通話が切れる音が受話器から漏れる。
最高司令官は顔を真っ青にし、早急に特殊弾を生産している工場の確認をさせた。
もしすべての工場が襲撃を受けていたら天使と悪魔の防御魔法に対抗する術が無くなる。
銃では肉体や魔法に秀でている彼らの防御魔法を特殊弾無しでは貫けないのだ。
「杞憂で済めばいいのだが……」
「1番工場応答なし!」
「2番工場も応答なし!」
「駄目です! 3番工場も応答ありません!」
「全ての工場を確認しろ! いいか、全てだ!」
結果すべての工場に電話は繋がらず、特殊弾を携帯した王国軍が直様工場に向かった。
どの部隊も到着したのは発生から1時間後の事だった。
工場は見るも無残に破壊され、生産されて出荷予定だった特殊弾も全て燃やされ使い物にならなくなっていた。
特殊弾には魔法陣を微細に書き込みする加工技術が必要であり、通常弾の生産ラインではその機械が無いため生産はできない。
更に言うと通常弾を生産している工場にも天使と悪魔の混同部隊が飛来し、全てを破壊していったのである。
こうして近代化した軍隊の補給が完全に絶たれたのであった。
早朝、王国軍兵士達に剣と弓が配られた。
特に弓の扱いを1時間で叩き込まれる。
魔法を使わないのはガブリーラが魔法を使えない人材を安く起用していたためだ。
ここに来てガブリーラの置き土産が致命的なことになったのである。
8時頃のニュースに軍の最高司令官が姿を表した。
そして地方やアヴァロンから3つ離れた州に絶望とも言える宣言をする。
『昨夜軍の生産拠点が天使と悪魔の電撃戦により壊滅しました。えー。それに伴い我々王国軍が守れる範囲も狭まります。えー。次に読み上げる州にお住まいの方はアヴァロン近郊の都市までご移動申し上げます』
実質、市民にとって死刑申告を言い渡されたと同じだった。
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