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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
5崩れる封印
103/113

103予期せぬ代償





 現世に侵食していた闇は徐々に薄くなっていき消えたのだった。


「闇が消えていく……。一体何だったんだ?」

「わかりません。ですがあの闇の中で外にいた人たちが無事である筈がありません」

「外出てみよう」


 エルシアが扉に手をかける。

 通路にあった闇も消えており、何事もなく兵士達が居た広場まで来た時だった。


「これは!」

「な、なにこれ……」


 ファルトが足で倒れている王国軍兵士を転がす

 まるで魂でも食われたか(・・・・・・・・)の様な形相で死んでいたのである。

 他の倒れている兵士達も見るが皆同じ顔をして死んでいた。

 そんな中まるで寝ているかのような顔をしている侍女を見つけた。


「この人生きてそうだね」


 エルシアが客観的に言う。

 アリスは脈を確かめる。


「……いいえ。死んでいますね」

「他の奴と死に顔が違うな」

「考えても仕方ありません。脱出しましょう」


 空から一条の光が降り注いだ。

 桜の花びらと門が空に具現化していた。

 何事かとアリスは身構える。

 それをエルシアが諭す。


「大丈夫。これは渡守さんが着た合図だからね。でも呼んでもないのに何で来たんだろう?」

「さあな。アリスに褒美を取らせるためとか?」


 いつも通りの金色の髪の毛と九尾の尾、耳を持つ礼装を着た女性だ。

 しかし表情が若干暗い。

 それが気になったのか、エルシアが渡守に問いかけた。


「渡守さん。どうかしたんですか?」

「……代償の支払いを受けに来た」

「え?」

「は?」


 エルシアとファルトの間抜けな声が重なる。

 アリスは渡守の言葉の意味を理解した。

 しかしそれは渡守と同じ考えを抱いていたのだった。

 すぐさまそれを言う。


「横から失礼します。今代の天羽々斬改め天叢雲の所有者のアリス・シルヒハッセと申します。渡守様、今回はエルシアとファルトは利用された立場にあります。それを代償として取るのは如何なものかと申し上げます」

「……否。神の力を行使したことに変わりはない。契約に乗っ取り代償を貰い受ける」

「貴女も頭では分かっているはずです。もう一度お考え直してください」

「否。考え直す必要はない。アリス、お前も他人のことなのになぜこんなにもむきになる?」

「大切な友人だからです! 貴女には居ないのですか!?」

「是。私には友人と言う者は居ない。私は式。故に主神からの命令は絶対である。これ以上口を挟むのであればアリス、お前を処分することになるぞ」


 アリスはそれでも強気に出る。


「っ! ここで引くなど友人ではありません!」


 アリスにとっての初めての友人であり命の恩人だ。

 それを脅されたからと言って見捨てるわけには行かない。

 命に変えても守り抜く大事な、大事な親友だからだ。


「……エルシアとファルトから599年と10ヶ月の寿命を貰い受ける。残りの寿命は2ヶ月と思え」

「渡守様!」


 (渡守)はアリスを無視し、強引に2人の寿命を代償として奪うと足早々と消えていった。

 そして一気に寿命を失ったことで2人はその場に座り込んでしまったのだった。

 前回の様に魂が離れることはなかったが、キツイものはキツイようだ。


「あぁぁ……流石にきっついな」

「だね。アリスちゃんありがとね……。あんなに言ってくれるなんて思っても見なかったよ」

「当たり前でしょう? 大切な親友ですもの。ですが寿命は持っていかれてしまいました……」

「だいじょーぶ! 何のこれし……」


 エルシアは元気に立ち上がるが、ふらっと態勢を崩す。

 アリスが咄嗟に抱きかかえ倒れることはなかった。


「あ、あはは……。ちょっと体に力が入らなかった……」

「大丈夫ですか?」

「うん。今度こそ大丈夫!」


 そう言うと立ち上がってみせる。

 体術の得意なアリスからエルシアを見てわかる事がある。

 体の重心がずれており、バランスを保てないのか僅かに足元がふらふらしている。

 ファルトも立ち上がるが、エルシアと同じくおかしい事がわかった。

 本人たちは平気へっちゃらと言っているのでそれ以上追求することはなかった。


 王城から脱出すると近くの店で金を払い電話を借りる。

 まだふらふらしている2人のためにタクシーを呼ぶのだ。

 

「ここってどこなんだろう?」

「わからん。それにしてもひどい有様だな」


 2人は周りを見渡すと、窓ガラスがあった場所はすべてベニヤ板で塞がれている。

 砕けたガラスで怪我をしないための処置だと思われる。


「エルシアさん、ファルトさん。タクシーを呼びましたので少々お待ち下さい」

「あ、はーい」

「了解」


 アリスと3人で道端に立ち尽くす。

 無理をしている2人に気がついているアリスにとっては非常に気まずい。

 更に無理を隠している2人も気まずい。


「……」

「……」

「……」


 沈黙に耐えきれなくなったエルシアが話題を出した。

 なぜアリスは自分たちの場所を分かったのかという話題だ。

 そんなことより服屋に行くほうが先だと言うことに誰も気が付かない。


「それはこの天叢雲から教えてもらったのです」

「どういうこと?」

「アレクシード・レイ・ヴァレフォルという人を知っていますか?」

「知らないけど天界風の名前の付け方だね~」

「そうなのですか?」


 天界では男児にはレイ、女児にはエルと名付けることになっている。

 なのでエルシア・エル(・・)・シフォーニなのだ。

 アリスはそれを初めて聞いたと話している。


 そこまで話した時、天叢雲が光輝いた。

 その光に3人が飲まれる。


「う? ここどこ?」

「なんだなんだ? 何が起こった?」

「ここは……」


 アリスには覚えがあった。

 しかし、目の前に広がる光景はいぜん見た時と違っており、ガラスの様なものが割れる音と空間が裂ける様子が見て取れた。

 荒れているのだ。

 どこからともなく声が聞こえてきた。


「アリスよ。聞こえるか?」

「アレクシードさんどうしたのですか?」

「王族の血が途絶えた。俺の使った天魔封印が今崩れ去ろうとしている」

「てんまふういん?」

 

 エルシアが疑問符をつける。

 それにアレクシードが答える。


「天魔封印とは天界、魔界と人界の行き来を限定的にする封印だ。代々王族の血に継承されてきた。しかし今代の継承者が死んだ。今まで天界、魔界が攻めて来られなかった封印が崩れ去ろうとしている。このままでは人界が滅ぼされる」

「なん……だと?」

「そんな封印があったのですね……」


 ガブリーラに止めを刺していないが、あの闇で死んだのだとアリスは理解した。


「ではどうすれば人界は助かりますか?」


 聞き返したときだった。

 アレクシードの声にノイズが入り始めった。


「人界……には……の2……封印を……び施す……がある」

「よく聞こえません! アレクシードさん!」

「……の……命……だ」


 それを最後に現実世界に意識を強制的に引き戻された。

 ちょうどタクシーが止まったのと同時だった。

 タクシーの扉が開き3人は呆けながらも乗り込む。

 行き先を告げるとタクシーは動き出したのだった。


「……お客さん。悪いことは言わないが、服屋に行ったほうがいいですよ」

「あ!」

「すっかり忘れてったな」

「私としたことが……」


 タクシーの運転手に言われるまで誰も気が付かなかったのである。


「エルシアさん。回復魔法を頼めますか?」

「うん。どこにかけるの?」

「左腕に。デミ・ゴッドに折られて、生活魔法で応急手当しただけなので治っていないのです」

「わあ! それは大変! すぐにかけるからね。我の威を示せ、ハイフリートヒール。我の威を示せ、アンチブラッド。我の威を示せ、ボディーカルテ」


 アリスの左腕が治癒される。

 内出血や折れた骨の破片が消滅したが、回復魔法を施すのが遅れ神経にダメージが入っていた。

 更に強めに回復魔法をかけるが神経のダメージは治らなかった。


「はあはあ……。ごめん、後遺症残っちゃった……はあはあ……」

「ありがとうございます。大丈夫ですよ。それよりエルシアさん大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫! ちょっと魔法使いすぎただけだから」

「……」


 ファルトは何も言わなかった。

 以前起きたことが自分たちにも起きているのだと改めて思い知ったからだった。




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