102黄泉入り
エルシアとファルトを救出したアリス。
ふっと視線を変えると、先程まで転がっていたガブリーラがどこかへ消えていた。
それと同時に自分が張った閉鎖拒否因果律が消えていた。
「逃しましたか……。エルシアさん、ファルトさん。すみませんが近くの部屋にシーツがあったのでそちらに移動しましょう。その前に我の威を示せ。ジョイント」
「うん」
「わかった」
3人はハンガーからでていくが1つ気がついてなかった。
デミ・ゴッドの背後にあった神代文字で構成された魔法陣が未だ光り輝いていたことに。
そしてそこから溢れ出す漆黒の闇に。
兵士や侍女に見つからないようにシーツがあった部屋まで移動することが出来た3人はシーツを縦に裂きエルシアは胸と腰に巻き、ファルとは腰にシーツを巻くのであった。
「これでよし。隠すところは隠したしな」
「ちょっと恥ずかしい……かなぁ?」
「エルシアさん、何故疑問形なのですか?」
その後時間をかけ脱出の算段を整える。
そっと扉を開けると予想外なことが起きていた。
「これは!?」
「どうした?」
「どーしたの?」
アリスは扉を閉めると今見た光景を説明する。
扉の外は一面の闇が広がっていて天井の照明も意味をなさい程の漆黒だと説明した。
ファルトはそんなの気にせず今のうちに逃げ出そうと言い出すが、八咫鏡が突然具現化し光を放ち驚いていた。
アリスも天叢雲が光を放っていることに気がついた。
そしてエルシアは体が光っていた。
「一体何が起きてるんだ?」
「なんだろうね~」
アリスがふとファルトの後ろを見たときだった。
ダクトから漆黒の闇が溢れ出ているのに気がついたのだ。
「2人とも後ろ! 闇が!」
「え?」
「ん?」
2人が振り返ると部屋の端の天井から部屋の外で見た闇が広がってきていた。
徐々に広がる闇に、逃げるように部屋の端に逃げる。
「これはやばい。言われてもわからなかったが、実際に見ると直感がやばいって訴えてやがる」
「ど、どどど、どうするの? 部屋の外も闇、部屋の中も闇が侵食中。どこに逃げれば!」
「落ち着いてください。きっと今になって私やファルトさんの神器や、エルシアさんの祝福が反応しているということは何かしらの理由があるはずです」
そうこう言っている間に闇は3人の足元まで侵食する。
だがそこまでだけだった。
3人を守るかのように神器と祝福が光り、闇を祓う。
「お? おお? 助かったのか? てかアリス、なんで神器なんて持ってるんだ?」
「以前、学園で付喪神の事件がありましたよね。その時に天叢雲をこっそり持ち帰っていたのですよ。調査するためにですけど」
「あれ? 天叢雲? あのとき確か天羽々斬って言ってなかったっけ?」
「先程2人を助ける時に天羽々斬が覚醒して天叢雲になったのです」
漫画にありそうな展開だなとファルトが言う。
アリスは苦笑いするしかなかった。
★
王城に無数に隠された隠し通路。
そこに左頬を青あざにしているガブリーラが急いで逃げるように走っていた。
「はぁはぁ……。一体何なの? あの餓鬼なんなのよおおお! 神格防御魔法は発動していた。なのにデミ・ゴッドを斬り裂くなんて!」
途中でよろけ、通路に倒れる。
「いっつ……。もう最悪だわ。今に見てなさい……直ぐに軍を動員してあの餓鬼も家も家族もすべて皆殺しにしてやるわ。あの片翼にはまたパーツとしてエネルギー源になってもらう」
隠し通路を抜け広間に出た。
はずだった。
「……? ここはどこよ? こんな真っ暗な空間なんて知らないわ。だれか! 侍女は居ないのかしら!」
声を上げ叫ぶが誰も返事をしない。
特筆すべき点は周りが真っ暗の闇なのに自分の体はまるでこの世界より浮いているように見える。
後ろを振り返ると、先程出てきた隠し通路が無くなっていた。
辺りを探るが壁を触る感覚すら無い。
「無い……。道がない! 一体ここはどこなのよ……」
ガブリーラは闇の中を歩いていく。
周りは闇に覆われているのに自分の姿だけが浮いているのが違和感を覚える。
もしガブリーラに感覚が無かったら自分が起きているのか倒れているのか前後左右、空間識失調に陥っていただろう。
しばらく歩いているとぴちゃんと何か液体を踏んだ。
何かと思い手を付いてみる。
「何……これ? 血? きゃあああ!」
辺り一面に広がる血だけが赤く認識出来るようになった。
そしてそれは自分の体に侵食してきたのだ。
足と血に付いた手からだ。
「なんなのよお! 一体どうなってるのおおおぉぉぉ! 誰か居ないの! 誰か!」
その声は金切り声に近かった。
首まで血の侵食が進んだ時、目の前に誰も居ない闇の世界に1人の死装束を来た女性が姿を表したのだ。
ガブリーラは血の海を進みその女性に声をかける。
「そこの女! 私を助けなさい! 私はこの王国の女王よ、今助けてくれればそれなりの地位を約束するわ!」
「私の国? ここは私の国だ」
「何を言ってるのよおおお! ここは私の城よ!」
「見ろ」
女性はガブリーラを指差した。
すると頭の中にとある光景が流れ込んできたのだ。
それは王国軍兵士の服装の者たち。
それが腐り落ちた亡者に食われている姿だった。
皆恐怖に慄き叫び逃げ惑っている。
「ひ、ひぃ!?」
「あれが私の力を良いように扱った者たちの末路」
「な、何をしたのよ! お前私の駒をどうしてくれるのよおおお!」
「私の名前は****だよ。人間」
「は? 何言ってるのよ、聞こえないわよ!」
ガブリーラは当たり散らしているが、死装束の女性が言う言葉に固まった。
その女性はこう言った。
ここは黄泉の国であると。
「人間にも聞こえるようにしてやろう。私の名前は伊邪那美。別名黄泉津大神と言う」
「ま、まさかあの魔法外部補助術八式対神格能力減退魔法の供給元の神……! 今更何よ、仕返しに来たわけ!?」
「人間がそういう言葉を使うのであればそうね。人間、お前には黄泉の国なんかに居させない。お前にふさわしいのは地獄だ」
伊邪那美がそう言うとガブリーラの足元から無数の手が生えてきた。
血の海にガブリーラを飲み込まんと手が足に絡まり引きずり込む。
死にたくない一心で助けを求めるが、ここは黄泉の国。
そこの主宰神である伊邪那美がやっている事を止めようとする黄泉醜女などいない。
「嫌よ! こんな所で死にたくない! 私はこの世界の女王!」
腰まで引きずり込まれ無数の手がガブリーラの頭を捕らえる。
下から頭を抑え込むかのように引き込まれ、最後まで我儘な事を言いつつ完全に血の海に引きずり込まれたのであった。
「式、居るのであろう」
「是。ここに」
「式の契約者と解放者はどうなっている?」
「現在神器と伊邪那岐神の加護により黄泉入りを免れています」
「そうね。きちんと代償は払わせるのよ」
「……是」
「何か言いたそうね」
伊邪那美が式に話しかける。
式は言いづらそうに声を出す。
「伊邪那美様。今回は先ほどの欲深い人間に使われたに過ぎません」
「だから代償を取らないというのか?」
伊邪那美の言葉に圧が掛かる。
式は存在が飛散しないように耐えるしかなかった。
脂汗を流しながら答える。
答えは最初から1つしかなかった。
「……否。代償を払わせます」
「それでいい」
言葉にかかっていた圧が消え、式は荒い息を吐く。
「では行け」
「是」
式はその場から去る。
それを見届けた伊邪那美は闇の中に消えていったのだった。
「☆☆☆☆☆」を押して応援していただけると嬉しいです!




