第三話 終わりのはじまり3
ちびちび書いているから、終わりのはじまりが終わらないのです。
「ミリエラ様、この畑です。こないだ魔法をかけて頂いたのに、もう葉の一部が萎れてて」
「本当ね。魔素がすごく少ないわ。知らせてくれてありがとう、レオ」
わたくしは領民からの知らせを受けて、南門近くの畑の魔素補充に赴いていた。
この魔素というのは不思議で、時間によって抜けていくものではなく、ある日突然、ごっそり一部の土地から抜け落ちる事がある。
この畑も、つい一週間前に魔素を蒔いたばかりなのに、既に魔素が底を尽きかけている。
かと思えば、数ヶ月魔法をかけなくても魔素が留まっている事もある。
最初の頃は魔素を蒔く事はできても、蒔いた後の魔素を感じ取る事ができず、魔素が多いのか少ないのかの判断は、成育状況の目視でしか確認できなかった。
でも今は魔法の腕も上がり、魔力だけでなく、微細な魔素の流れや量を感じ取れるようになった。だから、畑の状態にあわせて魔法をかける事ができる。
でも、魔素がどんな法則で抜けていくのか、まだまだ研究が必要ね。
そんな事をつらつらと考えながら、畑に両手をかざして魔素を蒔いていく。
「よし、これで大丈夫だと思うけど、元気にならなかったら教えにきてね。それに他の畑も、おかしい事があればすぐ知らせに来て」
「ありがとうございます!ミリエラ様のおかげで、このシュヴァイザー領はだいぶ暮らしが楽になりましたよ。よその領地は作物は穫れない、薬も手に入らないと、逃げてくる民が増えましたからねぇ」
この十年ほどで、エリトリュア王国は様変わりした。
十年にも渡り不作が続き、しかもその不作は王都周辺でより顕著になっている。これまで王都周辺の方が収量はよかったのに、まだだれも原因を掴めていない。
なのに王政は民を助けるどころか、さらに重い税をかけてくる。暮らしていけなくなった民が、収量も多く税負担の軽いシュヴァイザー領に逃げ込んで来る事は、最近では頻繁になっていた。
あまり多いと、他領から民を奪っているようにも受け取られかねない。できることなら受け入れてあげたいが、貴族はしがらみやなにやらと、煩わしい事がたくさんある。父の気苦労を、少しでも減らす方法があるとよいのだけれど・・・。
「そういえば、隣のアウデングィ領に聖女様が現れたとか」
「聖女様?聖女様って、あの物語に出てくる、瘴気を晴らして魔物を退治する聖女様?」
「詳しくは判りませんが、なんでも近年の不作は瘴気が影響していて、瘴気を晴らせる聖女様を、王族の方が見付けたとか・・・こないだハーブを仕入れに来た王都の商人が教えてくれましたよ」
「・・・そう。なら、はやくこのおかしな状況が、よくなると良いのだけれど・・・」
レオの嬉しそうな言葉とは裏腹に、わたくしは希望よりもまず疑問や不安が頭をよぎった。
聖女など、おとぎ話の世界の話で、実在するなど聞いたこともない。
そして瘴気の話にしても、この領地でわたくしは瘴気とおぼしき現象を見た事がない。なのに瘴気の無い場所で作物に影響など出るのだろうか。
・・・それに、
聖女の現れたというアウデングィ領から逃げてくる人が多いのだ。それも酷く困窮した状態で。
聖女様が居て、聖女様がこの状況を良くしてくれるというのなら、なぜアウデングィ領は豊かにならないのだろう。
希望は持たずにはいられない。
でも、それにすがるには、この目で視てきたものが邪魔をする。
おとぎ話の聖女様と、重税を課す王族。
心の中に宿った違和感を、わたくしはどうしてもぬぐい去る事ができなかった。




