第一話 終わりのはじまり1
わたくしはミリエラ=シュヴァイザー。シュヴァイザー子爵家の長女として生を受け、そして十九歳をむかえる今日、この身は処刑されようとしている。
シュヴァイザー家は子爵位と言っても、王都と程近い場所を領地とするため領地は狭く、収入も多くはなかった。それでも子爵という高くもない貴族位を維持するためにはそれなりの出費が必要となる。
貴族としての社交の場以外は、私は幼い頃から平民とほぼ同じ暮らしをしていた。
贅沢はできないけれど、優しい父と母、そしてゆくゆくは跡取りとなる弟、優しい領民に囲まれて、私は穏やかに過ごしていた。
ところが私が7歳になった頃から、突然作物が不作となった。長雨でも干ばつでもなく、原因不明の不作。その年だけなら、それまでの蓄えでなんとかなったのだが、翌年も不作。なのに国への税納は突然倍額となった。
ただでさえ、民は生活が苦しいのに、父は領民にこれ以上負担がいかないようにと、屋敷の物を売ったり、親族に借金までしてお金を工面した。
父は一時の事で、不作が終わればすべて元に戻ると、私達姉弟に言ってくれたが、私の中に巣くったざわざわとした胸騒ぎが消えることはなかった。
そのうち領民に病で臥せる者が増えていったが、医者に診てもらったり、薬を買うお金すら無く、次々と民が亡くなっていった。
よその領地も同じような状態なのか、薬の値段がどんどんと上昇していて、平民では買うことが難しくなっていたという事もある。
我がエリトリュア王国では魔法を使ったり、ポーションを精製したりできる者もいたが、それは特別な能力も持って産まれ、特別な教育を受けたごくごく一部の貴族達だけに限られていて、とても平民が恩恵にあやかれるものではなかった。
私の母はその一部の人にあたり、弱い弱いヒール程度なら使う事ができた。だから毎日毎日、病人のいる家を訪ね魔法を施し、でも弱い魔法だから完治できずに数日と経たずに元の状態に戻ってしまう。申し訳なさそうにしながら母は休むことなくそれを続け、とうとう母が病にかかり、私が十歳の誕生日をむかえた日、母はあっけなくこの世を去ってしまった。
父と私達姉弟は嘆き悲しみ、せめてもと母を丁重に弔ってあげたかったが、我が家にはもうそれだけのお金がなく、質素な棺に母をおさめ、一族の墓地に穴を掘って土をかけるだけの、簡素な弔いしかできなかった。
シュヴァイザー家の長女として、端くれとはいえ貴族の子女として、気丈に振る舞わなければと思ったけれど、父が泣き止まない弟を屋敷に連れて帰るため一旦その場を離れて私ひとりになると、溢れ出る涙を堪えきれず、気付けば母の埋まった地面にすがり付いて泣いていた。
身体の奥底から熱いものが込み上げてきて、目が痛くなるほどその熱が目元に集中し、耐えることもできず涙となってぼたぼたと溢れていった。
終わりの見えない不作、先の見えない不安、対処のできない病。それまで堪えていたものが、行き場もなく溢れ出て止まらなかった。
身体の中に押し込めていた熱が駆け巡っているようで、それがただの感情の高ぶりとは違うと思った時には、その熱が頭の中をぐるぐるの高速で広がりながら回っているような不気味な感覚に襲われ、その制御できない熱に飲み込まれないように、暴れる熱を懸命に外へ外へ押し出そうとして、次の瞬間には私は卒倒していた。
「ミリエラ!ミリエラッ!」
父が必死で私を呼ぶ声が聞こえて、ぼんやりと意識が覚醒すると、十歳になる私の小さな身体は、上半身が父に抱き起こされ、父の痩せてしまった腕から、ほんのりとしたぬくもりを感じ、先ほどのぐるぐるとした熱はもう身体の中には感じなかった。かわりにだらりと脱力した足元に、さわさわとなにかがあたる。
くすぐったい・・・と、足元に目をやると、そこには青々と生い茂る草・・・草っ!?
私が父の腕にすがりながら身を起こして辺りを見回すと、そこには色とりどりの草花が咲き誇っていた。
「・・・父様、私達天国にでも来たのですか?」




