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「というわけで、ドラゴンはなんとか追い払えました」

「そ、そうですか……さすがはAランク冒険者様ですね」


 さて、あの後ギルドに帰った俺たちは、ことの次第を報告した。

とはいえ、本当のことを言うわけにはいかない。

ていうか、新魔法でドラゴンぶっ倒したら人化して求婚されたとか誰も信じてくれねぇよ。

事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんだ。


 そんなわけで、ひとまず頑張って戦って交渉のテーブルに付かせ、俺の巧みな話術によって穏便に出ていったもらったというカバーストーリーを作って報告した。

これならドラゴンを倒したわけではないし、ランクが上がったりしないだろう。


 俺たちは別にランクを上げたいわけじゃない。ココが里帰りするにあたっての功績としてAランクになったわけで、それ以上は余計な重石にしかならない。


「では、我々のほうで再度調査をさせていただきまして、その後報酬を支払わせていただきます。疑っているわけではありませんが……戻ってくる可能性もあるわけでして」

「ええ、そこは承知しているのでお任せします」


 ていうか、冷戦に近い状態の隣国からやってきた冒険者をいきなり信用しろという方が無理だろう。

調査に何日かかるかは知らんが、余裕もあるし少しゆっくりと休んで……。


「ありがとうございます。……それで、その……先ほどから気になっていたのですが……」

「はい?」

「……ええと、後ろの方はどなたでしょう? 新しいパーティメンバーの方でしょうか?」

「え?」


 言われて振り返る。

別にいつも通りココとニーナとフレアが……ゑ?

……普通の服を着てて、気温を変えてしまうほどの体温も感じないが、間違いなくフレアがそこにいた。


「ちょっ、フレアさん!? あんたなんでここに!?」

「カカカ! あの程度で我が諦めると思うでないぞ! お主が我と子を成すまで、絶対に離れんからな!」

「お前人前でなんてこと言ってんだよ!?」


 ほらぁ! なんか周囲から「三股……?」「ハーレム野郎……」「……Aランクだからって女侍らせていいわけじゃねぇぞ」「認知してない……? 最低」とか聞こえてくるじゃーん!

違うんです! 認知以前にただの顔見知りです!


「はっはっはっなーに言ってるんでしょうねぇこの人は! ちょっとお話ししてきまーす!」

「はいちょっと黙りましょうねぇ」

「なにをしむぐっ」


 さすがはココ。これ以上余計なことを言わないよう口を塞いでくれた。

そしてニーナが影魔法で動きを封じてくれいる。

以心伝心、ナイスなコンビネーションである。

そのままズルズルと引きずって、人気のない場所で風魔法による防音結界を張ったところで開放する。


「拘束プレイ……初めて味わったがなかなか乙なものじゃのう……」

「いや、あの……その変態性はさておいて、なんで付いて来てんの?」

「無論、お主と子をなすため……ああそう睨むでない、うまくいかんのは承知の上じゃ」

「じゃあなんでだよ?」

「そりゃまぁ、住処を奪われたからのう。立ち退きを命じたのはお主じゃ、なら新しい住処を見つけるのが筋ではないか?」

「……むう」


 ……まぁ、言われてみればそのとおりだ。

日本でも立ち退きを命じる場合は引越しに必要な資金やら新しい住居やらを手配するわけで、ただ単に邪魔だから引っ越せで後は無視ってのは確かに筋が通らない。


「まぁ、普段ならそのくらい我一人でも容易いが、今はこうして誰かさんのおかげで弱っておるしのう……」

「ぐぬっ……」

「というわけで、我はお主らについて回って、良い住処を探そうと思う。護衛と家探しくらい、手伝ってくれるじゃろ?」

「まぁ、それくらいなら……」


 思わず了承仕掛けたところで、ココとニーナが割って入ってきた。


「……とかなんとか言って、サクヤさんを狙ってるんじゃないっすよね?」

「無論それもある」

「あるのかよ」

「我は素直がモットーじゃからな」


 フレアのそんな言葉に、ココたちの視線がどんどん険しくなっていく…………あ、あの、マジで怖いんで少し押さえて頂いても……。


「まぁまぁ、そう睨むでない。お主らとて、この男……サクヤといったか。サクヤの意思を強制することはできまい?」

「まぁ、そりゃあ……」

「ご主人の意思なら、なぁ……」

「ならば、我はサクヤを籠絡し、此奴自身の意志で我を選んでもらうだけじゃ」

「いや、そんなこと天地がひっくり返ってもありえないんで」

「ひどすぎんかお主!?」


 いや、だって事実だし……。

なんだろうね、なんだろうこの……絶妙に俺のストライクゾーンをすり抜けるこの感覚。

惜しいんだよ、かすってるんだよ。でも肝心なところが当たってないから恋愛の対象にならないと言うか……我ながら贅沢なのはわかってるんだが。


「な、なんじゃろこの失礼な視線は……まぁよい。そう言ってられるのも今のうちじゃ! 我の四百年の人生で得た知識を総動員し、サクヤを籠絡してみせよう!」

「ええ…………」

「……それが嫌なら、我より早くサクヤを籠絡してみせることじゃ。サクヤが他の誰かを選んだとき、我はすっぱり諦めるとしよう」

「……ご主人を」

「籠絡……」

「え、あの、何乗せられてんのふたりとも?」


 まずい、まずいぞこれ。

何がまずいって、フレアはともかく二人に積極的にアピールされたら、あっさりストーンと堕ちてしまうからだ。

ツインテにでもされた日には即日堕ちる自信がある。


 ……いや、別にどっちかと恋人になるのが嫌なわけではない。

むしろ……そう、むしろありだ。

だが、そうなって来ると問題が山積みなわけで。


 特に俺は異世界人だ、元の世界に帰らなきゃならない。

そうなったときは遠距離恋愛どころか遠世界恋愛だ。ていうか二度と会えないと考えるべきだろう。

だからといって俺がこの世界に残るのも………………まぁ、悪くはないが、それでもやっぱり日本には未練がいっぱいある。

かと言って俺の世界に来てくれとも言えない。彼女たちだって俺と同じでこちらの世界にいっぱい未練があるはずだ。


 それに……なによりも。そう、何も代えがたい代償がある。

当たり前だが俺は一人しかいない。つまり、選べるのは一人だけだ。

二人同時に愛するなんて器用な真似、俺にはできない。どう頑張っても差ができてしまう。

だから、一人を選ぶしかない。だが……そうすると、選ばなかった一人は、深く傷つくだろう。


 ……誰も傷つけたくない、みんな幸せでいてほしい。

でも、それが可能な手段なんて存在しないわけで。

特に恋愛なんて、傷つかないもののほうが少ないだろう。

だから俺はここまで、なあなあで曖昧に濁したまま過ごしてきた。

そのほうが楽だし、誰も傷つかないから。


 ……けど、それも限界なのかもしれない。

きっと誰も選ばないとしても、全員が傷つくだけでしかない。

ならば、選ぶべきなのだろう。たった一人を。

そういう意味では、このフレアという奴はいい起爆剤になったかもしれん。


 まだ、どうなるかわからない。

俺はふたりとも好きだ、ココもニーナも同じくらい好きだ。

ただ、やっぱり恋愛的な好きとはまだちょっと違う気がするし、ここから天秤がどちらに傾くのか……わからないけど、そのときは覚悟を決めよう。

好きな相手を傷つける、その覚悟を。


「……あれぇ? なんか我、蚊帳の外な気がするんじゃが……」

「はいはい、そんなことないって。じゃあギルドに戻るぞ」

「……仕方ないっすね。まずはパーティ登録からっすかね」

「そもそもこいつ、冒険者資格持ってねぇんじゃねぇの?」

「カカカ、ナメるでないぞ。暇を持て余したときに戯れに人化して取った資格があるわ」

「……Eランクじゃん。まぁ実力は知ってるけどさぁ」


 ひっそりと決心しながら、俺は一人増えた仲間とともにギルドに戻った。




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