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「ゴアアアアアアアア!!」


 二度にわたる睡眠妨害を受けて怒り心頭……というよりウザくてしかたないといった様子のドラゴンの攻撃を二度三度と回避していく。

攻撃自体は当たり判定がでかくて威力が大きく、速いだけで単調だし直線的だ。いくらでも回避はできるが……熱を奪うには触れなければならない。

そのためには動きを止めなければならないわけで……。


「ニーナ!」

「あいよ、シャドウバインド!」

「ゴアッ!? グ、オオ……!」


 うちの頼れる幼女がドラゴンの影に触れ、新たな魔法を発動する。

その名も影魔法。……そのまんまだがわかりやすいからいいんじゃないかな。

この魔法は闇魔法の派生であり、闇魔法を使っているニーナには普通に使える素養があった。

しかし、ニーナは幻影魔法以外はほぼ直感で魔法を使っていたので、派生魔法を使うには至らなかった。

で、カルミナ師匠のところで修行して見事習得したわけだ。


 影魔法は搦手が多い。

今回のシャドウバインドもそうだ。

効果は影に触れている間、その影を操って対象を拘束するというもの。

非常に強力だが……その分魔力消費がでかい。

対象が大きく、魔法抵抗を持っていれば更に消費はでかくなる。


「ぐうっ……こりゃ長くもたねぇぞご主人!」

「わかってる、手早く済ませる!」


 素早くドラゴンに接近、触れて……うわ今ジュっていった!

見れば手の皮膚が熱で溶けている。流石に本物の溶岩ほどじゃないが、とんでもない熱量だ。


「その熱……全部奪ったらぁ!!」


 吸収魔法、発動。

吸収魔法という系統はこの世界に存在しない。まさに俺だけの魔法。

魔法はイメージだ。

この世界に存在しない魔法であれば、イメージすべきものもまた存在しない。いや、俺自身のイメージに依存すると言うべきか。

そして俺がイメージするのは、吸収……吸い取るという意味では最強であろう、宇宙であらゆる天体を飲み込む重力の穴……ブラックホール。

その瞬間、まさしくブラックホールのような漆黒の穴が俺の手のひらに出現する。

穴の空いた右手でドラゴンに触れれば……ものすごい勢いで熱がこちらに流れ込んでくる。


「ガルッ!?」

「ぬおっ……これは……やばっ……!」


 慌てて水魔法で冷水を頭から被る。

同時に風魔法で冷却ファンを発動、合わせて変身で翼を生やして放熱フィン代わりにする。


 くっ……水冷と空冷を合わせて、フィンも出して魔法まで使っているのにそれでも全身の細胞が沸騰しそうなほど熱い……!

氷点下まで冷やした水は俺に触れた瞬間沸騰して蒸発し、風は当たった瞬間にとんでもない熱風に変わる。

冷却のための魔力は一瞬で消えてしまい、消費がえげつないことになっている。

そしてそれら無意味なようなことでさえ涼しく感じてしまうほど、俺の身体は熱を持っていた。


 いや……刻一刻と熱量は増していく。

そりゃそうだ、熱の塊のような存在から熱を吸収しているのだから。

このままじゃ、本当に全身が溶けて沸騰してしまう。


 考えろ……他の冷却方法はなんだ……?

冷たいもの、冷たいもの……そうだ液体窒素!


「冷却!!」


 空気に向かって、氷雪魔法を発動させる。

熱を奪うのでは意味がない、魔力による凍結を意識して凍らせる。

適当に撃ったが、問題ない。

なんせ大気の70%以上が窒素なんだ。異世界故に細かい数字は違うかもしれないが、それでもこうして人間が呼吸できて植物が光合成している以上、大した違いはあるまい。


 はたして……俺の狙い通り、大気は冷え、液体へと変化した。

そして液体となった窒素が、俺に降りかかる。


「ぬおおおおおおお……交感神経おかしくなりそう!!」


 熱い、冷たい、熱いがひたすら繰り返される。

いかん、こんなのが続いたら身体がおかしくなる。

しかし、さすが液体窒素と言うべきか、なんとか釣り合いが取れている。

流石にとんでもない低温の液体窒素の作成には魔力がとんでもない速度で消費されていくが……この感覚なら、ギリギリ間に合いそうだ。


「ル……オオオオオオオ!!」

「まずいご主人、バインドが解ける!」

「ぐっ……!?」


 ニーナの声に、俺はすべての魔法を解除して弾かれたように後ろへ飛び退った。

一拍遅れて、俺のいた場所にドラゴンの足が振り下ろされる。


「大丈夫っすかサクヤさ……ってアッツ!? メチャクチャ熱いっすよサクヤさん!」

「すまんな、ちょっと離れてたほうがいいぞ」


 駆け寄ってきたココが近づけない。まさに俺に触れたらやけどするぜ状態だ。

熱の吸収をやめたからすぐに冷めるとは思うが、それにしたってやばい温度だ。視界が陽炎で常に揺らいでいる。

自分の熱で体が融解しないよう再生能力が働いているほどだが……効果は絶大だったようだ。


「ゴウ……ガアア……」


 うめき声を上げるドラゴンは、先程までの溶岩のような真っ赤な体表は黒く固まり、動きも明らかに先程までよりも鈍い。

短時間の熱吸収でこれか……人間相手に使ったら死ぬんじゃないかなこれ。


「よっしゃ、火属性以外で攻撃するぞ! 固まった今ならダメージを与えられるはずだ!」

「あたし火属性以外得意じゃないんすけど……」

「お前他の属性も人並み以上にできるくせに何言ってやがる」

「いやまぁ、やりますけど……ひとまず水属性っすかね」


 ほら、しれっとウォーターカッターみたいな魔法使ってるよこいつ。

ニーナもニーナで影の刃で固まったドラゴンの体表を切り刻んでいる。ホント万能だなこいつら。


 ……さて、俺はどうしたものか。

氷雪魔法、氷血術はともに使えない。

熱を吸収したとはいえ、奴はまだ相当な熱量を持っている。氷は触れる前に溶けてしまうだろう。


「……ふむ、解けるなら……もっと冷やしてしまうか」


 脳筋ここに極まれりと言った思考回路だが、物事はシンプルな方がうまくいく。

さっそく氷血術、吸収魔法を同時発動。

今までも無意識に合わせて使っていたが、意識して使えばその効果は飛躍的に上がる。

凍らせた血液を更に吸収魔法で冷却し、通常時よりも遥かに低い温度の氷が出来上がった。

……さらに体温が上がってしまったが、まぁこの程度なら誤差だ。

それに、費用に対して効果は絶大だ。


「強化氷血術といったところか」


 ……あるいは真・氷血術とか……いや、カッコよすぎて逆に恥ずかしいな。


「まぁいいや。ニーナ、でかいの行くから下がれ!」

「了解!」


 俺の声に従い、すぐさまニーナが下がる。

ココは最初から離れた位置で魔法をぶっ放してるし、問題なかろう。


「よっしゃ……氷血術――氷血波!!」


 氷の礫とすべてを凍結させる寒波を手のひらから放つ。

あまりの低温に、放った軌跡にダイアモンドダストがキラキラと舞って綺麗だが、当たったドラゴンは綺麗だなどと言えないようだった。


「ゴアアアアアアアアアアア!?」


 熱の塊であるボルケーノドラゴンは、体感したことがないであろう極低温の攻撃に悶え苦しむ。

さらに、あろうことかその体が凍りつき始めている。

赤く灼熱の溶岩をまとっていた身体は徐々に白く凍りつき……そして、数分で完全に氷像になってしまった。


「うーむ……我ながら恐ろしい威力」

「こりゃ気軽に使えないっすね。ニーナちゃんを巻き込んじゃいますよ」

「あいつなら普通に回避しそうだが……まぁこんな状況でもない限り、強化氷血術は封印だな」


 こういう熱の塊みたいな敵相手なら使ってもいいが、普通の魔物相手だとオーバーキルだ。

コスパを考えるなら普通の氷血術で十分だろう。


「ご主人、今確認してきたけど完全に凍ってるぜ」

「おうニーナ、ご苦労さん。……しかし討伐しちゃったな」

「しちゃいましたねぇ……。これならSランク冒険者も夢じゃないっすね」

「これ以上ランクを上げたら、また厄介事頼まれそうだから勘弁してほしいところだが……」


 まぁ、かと言って今回の手柄を譲るつもりもないが。

さて、流石にこの氷像を運ぶのは無理だし、まずはギルドに報告して確認してもらって……。


――ピキ。


「ピキ?」


 嫌な音が聞こえたかと思うと、ドラゴンの氷像に一筋のヒビが入る。


「お、おいおい……まさか……」


 俺の言葉に答えるように、ドラゴンを覆う氷にバキバキと亀裂が走り……激しい音を立てて砕け散った。

そして、聞き覚えのない声が氷の煙のなかから聞こえてきた。


「ふう、やれやれ……ここまで追い詰められるとはのう……三百年ぶりに命の危機を感じたわ」


 コツ、コツと足音を響かせ、現れたのは……全身が真っ赤な鱗で覆われた、妖艶な美女だった。


「褒めてつかわすぞ、人間。……我に……ボルケーノドラゴンたるこのフレアに勝ったのはお主で三人目、人間では初じゃ」


 くつくつと笑いながら、美女はそういった。

え、セルフ擬人化……?





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