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「と、ということは、あの山の火口にはボルケーノドラゴンがいると……?」
「はい、そうです。全く敵いませんでした、クソザコAランク冒険者ですみません」
「い、いや、そもそもレッサードラゴンを1パーティで倒せる時点で弱くはないんですが……」
はは、受付嬢さんよ、慰めはいらんぞ。
ボルケーノドラゴンから無事逃げ延びた俺達は、ギルドに報告にやってきていた。
ココいわく、ボルケーノドラゴンは比較的温厚で、こちらから攻撃したり睡眠の邪魔をしたりしなければ襲ってくることはないと言うが、危険生物には変わりない。
危険生物がいるのであれば、ギルドに報告するのが筋だろう。
「しかし困りましたね……あの山の火口にはめったに人は寄り付きませんが、ドラゴンがそばにいるというのは……」
「でも、これまで何事もなかったんですよね? なら同じようにドラゴンを刺激しないよう注意して生活すればいいのでは?」
「これまで無事だったからと言って、この先も無事とは限りません。ギルドとしては、危険は排除しなければなりません」
「まぁ、ごもっともで」
そりゃまぁ、あんなのが間近にいたら落ち着いて暮らせないか。
温厚とはいっても相手はドラゴン、どんなことで怒らせてしまうかわかったものではない。
「しかし困りました、上位のドラゴンとなると、Aランク冒険者を集めて大規模な討伐隊を組まなければならないのですが……この街にはAランク冒険者がいません」
「まぁ、だから俺たちに声がかかったわけですからね」
「そうなると、別の街から派遣してもらわないといけないんですが…………ちら」
「……やりませんよ? もうあんなのの相手はしたくありません」
「そうですか……」
なんかもう、トラウマだからねアレ。
ワイバーンのトラウマ払拭したと思ったらこの有様だよ。
俺、爬虫類との相性悪いのかなぁ……? トカゲとか結構可愛いから好きなんだが。
「せめて、斥候だけでもお願いできませんか? とにかく情報を集めて欲しいんです」
「うーん……情けない話ですが、近づきたくないんですよねぇ……」
アレ相手の斥候とか、命懸けにもほどがある。
いやまぁ、そりゃ俺は死なないけどさ。……死なない、な。俺人間じゃないし。ていうか吸血鬼だし。
……あれ? もしかしていける?
……いやいや、冷静になれ俺、奴にはそもそも俺たちの攻撃が……待てよ、冷静になる……冷やす?
もしかして……あの魔法を使えばいけるか……?
「ど、どうかしましたか?」
「……いえ、わかりました。情報収集程度なら請け負いましょう」
「ちょっ、サクヤさん!?」
「正気かご主人!?」
「まぁ待て、俺にいい考えがある」
……なんかこの言い方は失敗フラグくさいな。
別の言い方……そうだな。
別に倒してしまっても構わんのだろう?
……あかん、これも負けフラグや。
吸血鬼とはなんぞや?
それは人から血をすする鬼である。
では、なぜその吸血鬼である俺が氷雪属性の適性があったのか。
普通なら、闇属性とかのほうが似合ってると思うだろう。
しかし、現実として俺は氷雪属性の適性を持っている。
そこで考えたのが、俺、もっと言うなら吸血鬼の性質……いや、本質が関わっているのではないかという疑問である。
吸血鬼の本質、それは血を吸う、もっと言うならエネルギーを他者から吸収することだ。
……ここまで言えばわかるだろう。
俺の氷雪属性は、エネルギーを吸収する吸血鬼の本質によって、熱というエネルギーを吸収するものだった。
要するに俺は、魔法を発動するたびに対象の熱を吸収し、冷やすことで凍らせていたのだ。
……まぁ、ほぼ無意識でやっていたのだが。
ちなみに上記の分析もカルミナ師匠の受け売りである。
……あんまり吸血鬼吸血鬼連呼されると傷つくんだが。
まぁ、情報の出どころはこの際どうでもいい。
要するに、俺には熱を吸収する力があり、そしてボルケーノドラゴンは冷却されることが弱点ということだ。
「……つまり、ボルケーノドラゴンから熱を吸収し尽くすつもりっすか?」
「まぁ、そうなるな」
さっきは気が動転してて忘れていたが、おそらくあのドラゴン相手でもこの魔法は通用するはずだ。
なんせ俺の本質に基づいた魔法だ。その強力さは通常の氷雪魔法による冷却を遥かに超える。
「いや無茶っすよ!? あのドラゴンがどんだけの熱量を持ってると思ってんすか!」
「そこはこう、うまい具合に放熱してだな」
放熱フィンとか、冷却ファンとか、現代日本人である俺には冷やす方法はいくらでも思いつく。
なんならシンプルに常に頭の上から水ぶっかけまくるのもいいだろう。今の俺の魔力なら、おそらく目的達成まで頭上に滝を作るくらいはできる。
「で、それらをクリアしたとして……どうやってドラゴンの動きを止めるつもりっすか? いくら温厚とはいえ、おとなしく熱を吸われてくれるほどボルケーノドラゴンは優しくないっすよ?」
「そこはほら……万能魔法使いなココノエさんとなんでもできるニーナさんになんとかして欲しいなぁって」
「おねだり下手すぎかよ……まぁご主人に頼られたらやるけどさぁ」
「……まぁ、断れないっすねぇ」
やったぜ、さすが頼れる仲間だな。
「ちょうど婆さんのところで足止めに使える魔法を教えてもらったからな。ここらで試運転と行こうか」
そう言って不敵に笑うニーナ。やだこのロリカッコいい……。
ニーナさん、最近だんだんイケメン度合い上げてきてるんだけど。戦闘でもほぼほぼ万能だし非の打ち所がなさすぎる。
…………あれ? ひょっとして同じく万能型な魔法剣士である俺は、ニーナの下位互換?
う、うごごご……い、いや、考えないようにしよう。なんか前にも同じこと考えて、そのときより差が開いてる気がするけど、俺の精神を守るためにもあえて思考停止しよう。
「そ、それじゃあ行ってみよう!」
はい巻いていくぞ!
さて、やってきましたるはさっきと同じくワイバーンの住処だった山だ。
名前聞いとけばよかったな……山としか言えねぇ。
まぁそれはさておき、ボルケーノドラゴンと戦うためにはやつを呼び出さなきゃならない。
なんてったってやつが住んでいるのは溶岩が流れる火口の底だ。俺たちから攻め入るのは難しい。
ジュッてなっちゃうからな。さすがの俺も骨まで焼き尽くされたら再生できるかどうかわからない。
まぁ、欠片くらい残ってれば再生できそうな気もするが……そんなことしたら血液を大量に消費して戦えなくなる。
そんなわけで、やつと戦うには向こうから来てもらわなければならないのだが……ではどうやって呼ぶのか。
それについては簡単だ、さっきの状況を再現すればいい。
さっきの状況……つまり騒がしくて眠れない状況だ。
で、そのために取った方法はといえば。
「ふははははー! 爽快爽快!!」
はい私、先程戦ったドラゴンの姿に変身して、暴れまくっています。
いやー爽快だねこれ。
いい加減人間以外にも変身する練習をしたいと思っていたところだし、ちょうどよかった。
「おー、派手に暴れてますねぇ」
「……楽しそうだな」
おう実際楽しいぞこれ。
次の機会があれば、ニーナを背中に乗せてやろう。
……しかし、楽しいは楽しいが、自分とあまりにも違う姿に変身するのは魔力と血液の消費が大きい。
そろそろ辛いのだが……。
そう考え始めたとき、火口から赤黒い影が躍り出て、周囲の気温が一気に上がった。
「グルルル……」
「……ふう、なんとか間に合ったか」
変身を解除し、それを見上げる。
それはさっき見たときと、何ら変わらぬ……いや若干うんざりした顔をしているようなボルケーノドラゴンだった。