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ドラゴン、それはキングオブファンタジーなモンスターである。
大体どんなファンタジーモノにも登場する……ていうかファンタジー以外にもバトル系だと大体出てくる存在だ。
そんなファンタジーの顔とも言えるドラゴンは、基本的に最強格のモンスターとして出てくる。
弱っちいドラゴンなど、それこそ生まれたてのドラゴンとかそのくらいだろう。
そんな最強種であるドラゴンが目の前に現れた……のだが。
「……なんか、迫力がないな」
……なんというか、今まで強敵と相対するたびに感じてきた恐ろしさとか、理不尽さとか、命の危機を全く感じない。
これなら、道中で襲ってきた吸血鬼狩りのほうがよっぽど恐ろしかったぞ?
「そりゃまぁ、進化したばっかで下位も下位のレッサードラゴンだからな。今のご主人なら余裕で捻れるだろうさ」
「あと忘れてるかもしれないっすけど、サクヤさんたち吸血鬼だって相当上位の種族っすからね?」
そういえばそうだった。俺自身があまりにも弱っちいから忘れていたが、吸血鬼って強いんだったわ。
その吸血鬼の能力を持っていて、散々過酷な修行したんだから、そりゃまぁ下位のドラゴンくらいどうとでもなる……のか?
……あれ? ひょっとして俺って強い?
「いやいや、慢心ダメ、絶対」
思い起こされるのは中学二年生ごろの俺……い、いや、あんな時期はなかった。吸血鬼だからって人間を見下してイキりまくってた時期なんて俺の歴史に存在しない。しないったら。しないんだって。
「くるぞご主人!」
「おっといかん」
黒歴史を脳内の奥深くに封印しなおし、ドラゴンを見れば息を吸い込んで……あ、ブレスだねこれ。
「退避ー!!」
ココたちは素早く飛びのくが、俺はちょっと間に合わなそうだ。
「大氷血晶!!」
やむなく防御魔法を展開、一瞬でも持ち堪えてくれれば逃げられる。
そして、ドラゴンブレスのお手本のような真っ赤に燃え盛る炎が放たれる。
よし、大氷血晶が防いでくれるうちに逃げ……あれ?
「拮抗してる……?」
炎のブレスに対して氷の盾で防いでいるというのに、溶ける気配がまるでない。
すぐ蒸発すると思ったのに、なんか……水になる気配すらないぞ?
代わりに魔法維持のための魔力消費がえらいことになってるが、ぶっちゃけ今の俺からしたら誤差みたいなものだ。
……まぁ、それならせっかくだ。どのくらい拮抗できるのか実験してみよう。
なに、失敗しても上手に焼けましたー、になるだけだし、こんがり肉にされたところで今の俺は死なない、再生能力も戻ったから痛覚もほぼない。
失うものはほぼ自然回復でまかなえるだけの魔力となれば、力を取り戻した今の俺の試金石として丁度いいだろう。
っと、流石にそろそろ破られそうだ。
「大氷血晶……五連!」
寸前で、氷血晶を五枚展開。
……なんか某滑舌がネタにされてるヒーローの必殺技みたいだが、こっちは攻撃技ではなく防御技である。
五枚の氷血晶は、時間を掛けてゆっくりと一枚ずつ割れていき……四枚目を割ったところで、ブレスが終わった。
「ふむ、この程度のブレスなら五枚で十分と」
これなら防御魔法としては及第点だろう。いくらレッサードラゴンとはいえ、ドラゴンブレスに勝る攻撃が早々あるとは思えない。
「じゃあ、次は攻撃だな」
氷血剣を両手に握り、魔法を発動する。
「氷血槍……八連!」
八つの槍がドラゴンの足に向かって飛んでいく。
同時に、俺自身も駆け出して魔法の狙いと同じ場所を斬りつける。
「ぐぬっ……流石に硬いな。だが……割れた」
俺の魔法と剣が当たった場所は、確かに鱗が割れていた。
まぁ、ドラゴンの巨体を考えればささくれ程度の傷だが……それでも傷は傷だ。
重ねて当てればドラゴンの鱗も砕けるのなら、こちらも及第点といっていいだろう。
「グルァ!!」
「おいおい、そんな大口開けたらいい的だぞ?」
足元の鬱陶しい俺を排除しようと、ドラゴンが噛みつこうとしてくる。
前の俺なら回避するしかなかったが、魔法の発動速度が上昇した今の俺なら、撃ち抜ける。
「氷血槍!」
「ガフッ……ゴア、ア……」
どんなに外皮が硬くとも、体内は当然柔らかい。
俺の氷血槍はドラゴンの口から入り、その首に突き刺さる。
「やっぱ一撃じゃ鱗は抜けないか。けどこれで終わりだ」
氷血槍を血液に戻し、出血をたどって血管に侵入。
あとは脳を潰せばおしまいだ。
「呆気なかったな」
「いや、ご主人がおかしいんだからな?」
倒れ伏すドラゴンを見つめながら呟いたら、ニーナにそんなことを言われてしまった。
「まさかあたしらの出番が一切ないとは……サクヤさん、強くなりすぎじゃないっすか?」
ううむ……ココもこう言ってることだし、いい加減認めてもいいかもしれん。
俺、強くね?
「はいそんなことなかったよちくしょうめ!!」
「誰に言ってんすか!?」
現在俺たち、ドラゴンに追われています。
さっきまでのレッサードラゴンなんかではない。超上位のドラゴン、ボルケーノドラゴンだ。
どうやらこのボルケーノドラゴン、この山の火口で眠っていたようなのだが、今回の戦いで目を覚ましてしまった。
で、睡眠を妨害した俺たちを始末するべく、猛然と追いかけて来たのだ。
当然、応戦はした。ていうか調子ぶっこいてた俺はノリノリで攻撃した。
だが、ボルケーノドラゴンはその名の通り溶岩のような……ていうか溶岩そのものの外皮を持っており、俺の氷血術は全てドラゴンに触れる前に溶けてしまった。
ならばとうちの最大火力であるココノエさんにお願いしたのだが、奴は火属性の魔法を吸収してしまった。
某海賊漫画で見たなぁこんな相性……などと感慨にふける暇もなく、俺たちが逃げ回る羽目になったのだ。
「おい、本当にこれ効いてるのか!?」
「わかんないっす! わかんないっすけど、これ以外対処法がないんすよ!」
そして現在、俺たちは逃げ回りながら水魔法を全力でボルケーノドラゴンにぶつけまくっていた。
ココ曰く、ボルケーノドラゴンは外皮が溶岩なので、冷やせば外皮が固まり、それを溶かすためにまた火口に戻るとのことなのだが……どんだけ水ぶっかけても、ほとんど蒸発してしまうせいで冷えてる気がしない。
「だぁー!! こうなりゃヤケだ! とことんやってやらぁー!!」
ヤケクソになって魔法をぶち込みながら、必死で逃げ回る俺たち。
ボルケーノドラゴンが熱を奪われ、のそのそと巣穴に帰って行ったのは、それから三時間後のことだった。
「ぜぇー……はぁー……も、もう二度と調子になんか乗らねぇ……」
息も魔力も絶え絶えになってぶっ倒れた俺は、そう固く心に誓った。