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3-10

 いきなりゲンコツ、目の前は傷だらけ、辺りは血塗れ大惨事。

なんのことかって? 今の俺の状況だよ。


 目を覚ました瞬間、頭蓋骨が砕けるほどのゲンコツを喰らい、目の前を見れば回復魔法を使っている傷だらけの仲間。

そして周囲はさっきまで俺と戦っていた黒服だったものらしき物体が辺り一面に散らばっている。


「これは……俺、また暴走したのか」

「理解が早いことだけは褒めてやるよ、この馬鹿弟子」


 師匠の言葉が、あまり理解できない。

それ以上に、俺の心をこの光景が締め付ける。


 別に黒装束はどうでもいい。

ただ、ココとニーナがボロボロなのが、辛かった。

特にココの痛々しい右半身の火傷。

いくら回復魔法で痕も残らず治せるとは言え、女の子にこんな傷を負わせてしまったことへの罪悪感が心を区ry占める。


「……ココ、ニーナ」

「サクヤさん……無事戻って来てくれてよかったっすよ」

「ごめん、俺……」

「おっと、それ以上は言いっこなしだぜご主人、アタシらは仲間だろ?」

「それでも、俺は……」


 ああ、そうだ……二人に言っておけばよかったんだ、封印が解けそうだって。

言っておけば、二人ももっとしっかり準備して対応できただろう。

自分の力を過信して、変な感情に任せて危機管理を怠った俺の責任だ。


「……ふん、反省しているようだね、馬鹿弟子」

「ええ……自己嫌悪で死にそうなくらいには反省してますよ」

「じゃあ、ちゃんとその反省を活かせるようにしてやるよ」


 そう言うと、師匠は再び俺の頭に拳を振り下ろした。


「んがっ!? ちょ、ちょっと師匠、今脳みそまで達しましたよ!?」

「当たり前だろう、お前さんの脳に魔法をかけたんだから」

「……え、魔法?」


 ……あ、ホントだ。なんか魔力が巡ってる。

しかも俺の再生能力でも消えない、かなり高度な魔法だ。


「今回の暴走であの役立たずの封印がもう解けてるのはわかってるだろ? だからこれはその代わりさ」

「代わり?」

「そう、お前さんの暴走は本能、特に生存本能に寄るところが大きいのはわかってるだろ?」

「え、ええ、まぁ」


 俺が暴走したときはだいたい死にかけてたときだからな。


「だから今、脳の本能を司る部分を抑制して、理性を司る部分を強化する魔法をかけた。これでお前さんの本能は抑えられて、不意の暴走は防げるはずだよ」

「……え、どういう理屈の魔法なんです?」

「それを教えるとなると、早くても数年かかるけどいいのかい?」

「あ、結構です」

「まぁ、私がランゾウと別れてから人生をかけて開発した魔法だ、とだけは言っておくよ。まさかあいつじゃなくてあいつの孫に使うことになるとは思わなかったけどね」

「……師匠」


 ……なんか、師匠のじいちゃんに対する激重な感情の一面を見てしまったかもしれない。

……ま、まぁ大人だし、きっと割り切っているのだろう。


「この魔法なら脳に働いているだけだから前みたいに能力を封じたりはしない。吸血鬼の能力はそのままに、暴走だけを抑えられる」

「……ホントだ」


 試しに久方ぶりに氷血術を使ってみたら、すんなりと発動できた。

血液操作も問題なく行える。

完全に元通り……いや、能力を失っていた間に鍛えた分、前より強い力を行使できる。


「とはいえ、だ。この封印術はお前さんの理性によるところが多い。たとえ本能を抑制して理性を強くしても、お前さんが本能に任せて動けばまた暴走するだろう。全てはお前さんの心持ち次第だ」

「………わかりました、ありがとうございます」


 ……心のなかで、俺は固く誓う。

もう二度と、暴走なんてしない。

二度と、この手で仲間を傷つけたりしない。


「……うん、いい顔だね。あとは……ココノエ、ニーナ、こっちに来な」

「……? 了解っす」

「アタシまだ歩くの辛いんだけどな……」


 そうして、三人は俺から離れたところで何かを話している。

どうも、師匠が二人になにか教えてるみたいだ。

あ、ココがなんか真っ赤になってる。


「……とまぁ、そんな具合だ。これが二人への餞別だよ」

「か、カルミナさん、こんな餞別いらないっすよ……」

「本当かい? 本当に、いらないかい?」

「……いや、その……やっぱいります。はい」

「アタシもありがたくもらっとくぜ。ご主人は特にそういうの気にしそうだし」

「俺?」


 なぜ俺?

まさか万が一また暴走したときの適切な対処法とか?

……それはそれでありがたいな。誓いはしたけど、俺は俺のこと全然信じてないし。


「さて、サクヤには新しい封印、二人には例の魔法。これが私がお前さんたちに送る最後の魔法だ」

「え、最後って……」

「そりゃ最後だろう。帝国の吸血鬼狩りはここを嗅ぎつけた、お前さんたちはもうここにはいられないだろう?」

「それは……そう、ですね……」


 全滅させたとは言え、討伐隊はここまでやってきたのだ。

そして全滅させてしまった以上、連絡は途絶えるだろうし、ここでなにかあったことは明白だ。

そうなれば、もっと強い吸血鬼狩りがやってくるかもしれない。

もしもそうなってしまえば、俺はまた暴走するかもしれないし……何より師匠に迷惑がかかる。


「……一ヶ月もの長い間、お世話になりました」

「本当に、勉強になったっす」

「……まぁ、戦力の増強にはなったよ」

「いいさ、私は師匠でお前さんたちは弟子だ。師匠は弟子に与えるもの……そして、弟子は師匠を超えるものだ。……お前さんたちの今後の活躍、期待してるよ」

「……はい!」


 俺は差し出された師匠の手を両手で握り、握手する。


「師匠から教えてもらった力で、絶対俺は元の世界に帰ります。そしたら、じいちゃんに師匠は元気だって伝えますよ」

「あっはっは! そうかい、それならいっそ一緒にお前さんの世界につれてってもらおうかねぇ。あいつには言いたいことが山ほどあるんだ」


 ……やっぱ師匠、じいちゃんに対して激重な感情抱いてるのでは?


「ま、まぁ、そういう方法も探しますよ。……何にせよ、帰る前にまた会いに来ます」

「じゃあ、楽しみに待ってるよ。……さぁ行きな。やるべきことがあるんだろう?」

「……はい!」


 そうして、俺達は師匠と別れた。

目指すは獣王国、そしてその果てのヤマトの国。

果たすべき約束が、また増えた。

俺たちは、それを守るために進む。






これにて第二章終了です。

次回からはついに帝国を出て獣王国での物語となります。

長かった……まさか出発してから国を出るまでにリアルで三ヶ月もかかるとは……いや投稿の間が空きすぎたのがいけないんですが。

今後はもう少しこまめに投稿したいですが、不定期なのは変わらないので広い心で見守っていただけると幸いです。



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