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3-05

で、そんなわけで師匠の言う通り日常のほぼすべての動作を魔法で行うこととなった。


 食事のときは俺はフォークを氷をつなげることで操作し、ココは……なんだろう、念力みたいにスプーンを操ってる。


「ココ、それどうやってんの? ……つめたっ」

「スプーンは金属、つまり鉱物なんで鉱物を操る火、土複合の溶鉄属性を使えばこのように……あっつ!?」


 ……どうやら溶鉄というだけあって油断すると熱くなるらしい。

普通に食事するニーナが見守る中、互いに冷たさと熱さにあわあわしながら食事をする。


「ふたりとも大変だなぁ」

「何いってんだい、あんたも魔力を循環させて制御の修行しながら食うんだよ」

「うえっ、アタシも!?」

「当たり前だろう、あんたは日常生活で使える魔法がほとんどないんだ。自発的にやらないと二人に置いてかれるよ」

「えぇー……マジかぁ……」


 ……うん、ニーナよ、ようこそこの地獄へと言っておこう。

これ、思ってた以上にしんどいぞ……。


 食事が済んだら今度は洗い物だ。

食器はもちろんのこと洗濯も含まれる。


「これは楽勝だな。なんてったって水と風だし」

「あたしは水属性そこまで得意じゃないんすよねぇ」

「俺と同じくらいできてるのに何言ってやがる」


 改めてココと俺の魔法スキルの違いが浮き彫りになるなぁ。

ま、まぁ俺は魔法剣士だし? 剣術があるからそれで同格っていうか……。

……あれ? でもそう言えばこいつ、近接戦もかなりできたような……。

もしかして俺って……ココの下位互換……?


 ……うん、考えないことにしよう!


 ちょいちょい洗い物のダメ出しを受けつつ、やってきました修行タイム。

いや、今までも修行のようなもんだけどさ。


「ふむ、つまり複合属性をもっと早く発動させたいってことだね?」

「そうです。今の速度じゃ緊急時のガードとかに使えなくて……」


 氷血晶が使えなくなったのは本当に痛い。

あれは剣を抜く間もないような攻撃を防ぐのに本当に優秀だった。

まぁあの頃は再生能力も万全だったから防ぐ意味があったのかと問われれば困ってしまうが……逆に言えば、回復力が落ちてしまっている今こそ必要な魔法だ。


「ふーむ……それは基本的に反復練習しかないんだけど……お前さんが命をかける覚悟があるって言うなら、方法がないわけでもない」

「え、マジですか?」

「ああ、簡単なことだよ。体内をめぐる魔力すべてを常に属性変換して、いつでも放てるようにしておけばいい」

「…………ええ?」


 ……普通魔法って魔力放出→属性変換→術式構築→術式発動という流れで発動する。前にココにもらった本に書いてあった。

初めて魔法を教えてもらったとき、ココはこれをわかりやすく段階を踏んで教えてくれた。

まぁ、俺の場合術式構築から発動までは持ち前の魔力操作技術でまとめてやっちゃったので属性変換までしか教えてもらうことがなかったのだが……。


 しかし、魔力放出からの属性変換は、魔法発動の速度が上がった今でもきっちり段階を踏んでやってる。

それを、体内でやれと?


「ああ、属性変換って言い方には語弊があるね。正確には変換の準備段階で止める」


 まぁ、そりゃそうだろう。でなきゃ全身の魔力回路が凍りついちゃうよ。

同じようなことは、初めて氷雪属性を使ったときにもやった。魔力が完全に変換されて現象として発生する前の段階で留めるってことなんだろうが……。


「いや、それって常に全身の魔力を掌握し続けるわけですよね?」

「そうだね」

「……そんなことしたら一時間もしないうちに疲労で動けなくなると思うんですけど」


 魔力を掌握し、操作するというのは思っている以上にしんどい。

魔法が使えない人にわかりやすく言うなら……そうだな、全身をめぐる血液の流れすべてを常に頭の中で意識し続けるといえば、そのしんどさがわかるだろう。

加えてそれを操作しなければならないのだ。

しかも、準備段階で留めておくということは……。


「……しかもそれ、制御ミスったら魔法が暴発して死にますよね?」

「死ぬね。お前さんの場合氷雪属性だから……内側から凍りつくか、あるいは氷の塊が体の内側から突き破ってくるか」

「怖っ!!」


 内側から爆ぜるとか完全にホラーじゃねぇか、怖すぎるわ。


「まぁお前さんは吸血鬼だから死にはしないだろうさ。それに、一本の属性に絞って魔法を使うのであれば、これをマスターすれば確実に魔法の発動速度は早くなる」


 いや、そりゃそうだろうけど……。


「……なんだい、命を張る覚悟もないくせにここまで来たのかい? だったら拍子抜けだね、そんなことなら普通に反復練習やってりゃいいじゃないか」

「……む」

「だいたい命を張るって言ったってお前さんは死なないんだ。死ぬほど辛いってだけで投げ出すんなら、そもそも戦わなきゃいい」

「むむ」

「大体お前さんよりあの二人のほうが強いんだ。戦いは二人に任せてお前さんは後ろに隠れて――」

「わかったいいでしょうやりますとも!! あと俺は断じて二人に劣っていたりはしません!!」


 このババア黙ってりゃ言いたい放題言いやがって!! よりにもよって考えないようにしてた禁句まで言いやがった!!

おうおうそこまで言われたんじゃ引き下がるわけには行かねぇぞ俺! 見てろ見事マスターしてぎゃふんと言わせてやらぁ!


「ふん、最初から覚悟決めなよ、まだるっこしい。……いいかい、いきなり全身の魔力を掌握、制御するなんて不可能だ。まずは指先からだ」


 俺は怒りに燃えながら、ぶっきらぼうな口調の割には丁寧な師匠の解説を聞いて修行に励んだ。






「だぁー!! 疲れた!!」

「……サクヤさんはいいっすね……叫ぶだけの気力があるんすから……」

「ああ……もう喋る気力もない……」


 ようやく寝床に戻った俺達は、もはや指先一つ動かせない有様だった。

うぐぐ……魔力回路が痛い……まるで筋肉痛だな……。


「……ココはどんな修行してたんだ?」


 死ぬ気でなんとかベッドを整え、横になった俺は、同じように横になったココに訪ねた。


「……別々の複合属性を……左右の手で同時に発動させる修行っす……ああもう……頭が割れそうっす……」

「うわぁ……」


 複合属性はそれだけで結構頭を使う。それを二つ、しかも別々の複合属性を同時に発動となれば……単純計算で単一属性の魔法を普通に使う場合の四倍頭を使うことになる。

もちろんこんな単純なはずはなく、実際はもっと複雑な並列処理能力が求められるはずだ。

そりゃ頭が割れそうになるわ。


「ちなみにサクヤさんは?」

「俺は全身の魔力を常に術式発動待機状態にする修行。なんとか手のひらまではできるようになった」

「うわぁ……」


 魔法のエキスパートであるココがドン引きしてるんだから、やっぱりとんでもない荒行なんだなこれ。

ちなみに今も継続中だ。理想は寝てても継続できるようになることらしいが、先は長い。


「ニーナは?」

「……え」

「……え?」

「…………絵、ひたすら、描かされた……」

「「ええ……」」


 え、ばかりだが勘弁してほしい。マジでわからんのだもの。


「いや、それ、どんな修行?」

「さぁ……?」

「……婆さんいわく、幻影魔法は光と影で作る絵みたいなものだから、イメージ力と描写力を上げるために描けって……紙と幻影魔法、両方で」

「うわぁ……」


 ……例にもれずニーナもきつい修行のようだ。

にしても紙の絵と幻影の絵を両方描けって、またしても並列処理能力を求められる修行だなぁ。


「ううむ、俺ってシングルタスク派だからこういうの向いてないのかもなぁ」

「いや、サクヤさんこそ剣術と魔法でマルチタスクしてるじゃないっすか」


 うーん、言われてみれば……? いや、でもあれは血液操作も相まって、思考する間もなくほとんど呼吸するように発動できてたからなぁ。

今も発動が遅いだけで、術式構築から発動まではほぼ反射で使えるし。

まぁ、何にせよ今の課題をこなすには……。


「努力するしかないか……」


 そのためにも、まずは休息だ。

明かりを消し、布団をかぶると、あっという間に眠気が押し寄せて、俺は眠りに落ちた。




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