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3-03

 弟子入りを断られるのは想定内だ。

だからこそ、色々手土産を持ってきたのだ。

……正確にはあらゆるものを無作為にぶっこんでた収納袋の中から、魔女の気を引けそうなものを選定しただけだが。


「まぁまぁそう言わずに。こちら手土産の帝都で売ってる貴重な魔法薬です」

「ふん、帝都の錬金術師も腕が落ちたね。これなら私が調合したほうがマシだよ」


 結構高かったんだけどな……じゃあ次。


「こちら帝都で仕入れたレア物の魔導書なのですが……」

「ちょっ、サクヤさんそんなのあるならあたしにくださいよ!」

「これはあくまで交渉用のものなんだよ。お前にやるわけにはいかん」

「……なんだ写本じゃないか。これならウチに原本があるよ」

「……ココ、持ってっていいぞ」

「やったぁ!」


 はい次。


「ここまでの道中で採取した薬草なのですが……」

「採り方が荒い。いちばん大事な部分を傷つけてる、これじゃいい薬にはならないよ」


 つ、次。


「ここまでで倒した魔物の素材です」

「これもナイフの入れ方が雑だ。切り口がズタズタで効果はだいぶ落ちるね」


 ……次。


「では、倒した魔物の死体そのものを……」

「なるほど殺し方からして雑なんだね。こんなにやたらめったら傷つけてたり燃やしてたら使える部位が減るだろう。……ああ、でもこれは及第点だね。これをやったのは?」

「アタシだ」

「ふむ、その歳にしてはいい腕だ。あんたなら弟子にしてもいいよ」


 どういうわけかニーナの弟子入りが決まってしまった。

ええい、次だ次!






 ……そのほかにも、様々なものを贈ってみたのだが、どれもこれも魔女殿のお眼鏡に適うものはなかった。


「ど、どうするんすかサクヤさん。もう手土産になりそうなものないっすよ?」

「やばい、どうしよう」

「もうあれを出しましょう。あれなら絶対いけます」

「ええ……マジで?」


 全く信用ならないが……残っているのはこれだけ。

けど、これ薬効もなにもないし、興味引けるか……?

……ええい、やってみるしかねぇ!


「も、森ではお肉が少ないでしょう? こちらのマンモス肉なんかいかがでしょうか?」

「私はエルフだよ? 肉なんかそん……なに……食べ……」


 俺はあの雪山で退治したマンモス、その肉塊の一部を見せると、魔女の視線が釘付けになった。

……え、マジで?


「……これ、まさかグレーターマンモスの肉かい?」

「あー、えーっと……そうだよな、ココ?」

「はい、死体を見たんで間違いないっす」

「……まさか、この肉まだ持ってるのかい?」

「え、ええまぁ」


 一頭まるごと解体して入ってますとは言えなかったが、代わりにもう少し大きい肉塊を取り出す。

すると、魔女から痛いほどの視線が肉に向けられた。


 ……やたら食いつくな。たしかに試食したときはかなり美味かったが。

いや、この世界に来てから食ったものの中で一番……いや肉カテゴリだけで言えば日本で食ったものと比較しても一番美味かったかもしれん。

それほど美味で、しかし採取は困難。


 当たり前だ。あのマンモスを倒すのは普通の人間には不可能に近い。

俺たちだって、酒を飲むという習性を利用して運良く倒せたのだ。正面からの戦闘ではココがいる今でも厳しいだろう。

おそらく正攻法は複数人の腕利きが連携して狩ることだ。

だがそうなれば当然取り分は減るわけで……。


 ……もしかしなくてもこれ、超高級食材では?


「お、おお……死ぬ前に目にできれば上等と言われる、肉の宝石とも呼ばれるグレーターマンモスの肉が、目の前に……」

「あの、えと、エルフですよね? そんなに肉好きなんですか?」

「阿呆、こいつは特別だよ! この肉の前では、馬ですらよだれを垂らすと言われてるんだよ!」

「そんなに」


 いや、流石にそれはないだろうけど……ううむ、さすが食欲魔神のココがイチオシの手土産。素晴らしい食いつきだ。


「……サクヤさん? なんか失礼なこと考えてないっすか?」

「そんなわけないだろ」


 失礼なことじゃなくて事実だからな。


「さて……魔女様、この肉、弟子入りを認めていただけるのでしたらこの塊ごと進呈いたしますが……」

「はぁ…………やむを得ん、この肉には勝てないね。いいよ、あんたらふたりも弟子として認めようじゃないか」

「よっしゃ!!」

「やりましたねサクヤさん!」

「ただし、私の修行は厳しいよ?」

「望むところです」


 あと、肉を前によだれを垂らしてたら威厳全く無いです。





「なぁ婆さん」


 魔女改め師匠の案内で彼女の家に向かう道すがら、ニーナが師匠に声をかけた。


「ニーナ、せめて師匠って呼べ。婆さんなんて失礼だろうが」

「いいよサクヤ、事実ババアだしね。で、なんだいニーナ?」

「ああ、婆さんはアタシのこと、蔑んだりしねぇのか?」

「蔑む? どうしてだい?」

「……魔力の波長でわかってんだろ? アタシはダークエルフだ」


 そういって、ニーナは頭巾を脱いだ。


「……魔力の波長なんてわかるもんなの?」

「普通はわからないっす。けど、人より長く生きるエルフが鍛え続ければ、あるいは……」


 ……まずい、カルミナ師匠はエルフだ。

そしてエルフはダークエルフを忌み嫌っている。

これはやばいのでは……。


「そうかい、あんたはエルフの里出身か。そのナリじゃ苦労しただろうね」


 ……しかし、カルミナ師匠から出たのは、ニーナを気遣うような不器用だが優しげな声だった。


「ダークエルフは闇に染まったエルフ……くだらない迷信さ。里の外の世界を見れば、それが嫌というほどわかる。実際私は若い頃ダークエルフに命を救われたし、それがきっかけでパーティを組んだりもした。世界中色んな所を見れば、エルフもダークエルフもハイエルフも、得手不得手が違うだけの同じ人間だってことが身にしみてわかるものさ」


 そういうと、師匠はニーナの頭をなでた。


「私からしたら、あんたはただの子供さ。いや、同族だからただのってのはちょっと違うね……そうだね、親戚の子供位の感覚だよ。だから遠慮する必要もないし、警戒する必要もないよ」

「む、むう……わかったから撫でるなよ。アタシに触っていいのはご主人だけだ」


 ニーナが師匠の手を払いのけるが、動きにいつもの鋭さがない。

毒気を抜かれたな……まぁ無理もないか。

ともあれ、師匠に偏見がないというのは朗報だ。

さすがにどんなに実力者だったとしても、ニーナを雑に扱うような奴を師事することはできない。


「ふふ、随分愛されてるじゃないか。奴隷の首輪なんか外してやったらどうだい?」

「いや、俺は外したいんですけどね……」


 もう帝都も離れたし奴隷から開放してもいいと思うんだけど、ニーナが嫌がるんだよなぁ。

俺なんかに仕えてないでもっと自由にしててほしいんだが。


「ふぅん。てっきり人には言えない秘密を漏らさないために奴隷にしてるのかと思ってたよ」

「そんな秘密ないですよ」

「そうかい? 人はだれでも秘密があるものさ」


 そういって、師匠はすっと目を細めて、言った。


「たとえば――実は吸血鬼である、とかね」

「――っ!?」


 言葉を聞いた瞬間、臨戦態勢に入る。

おいおい嘘だろ、どこでバレた……?


「ニーナが言ってたろう? 熟練のエルフは魔力の波長で種族がわかる。あんたの擬態はかなり上手い、魔力の波長まで人そっくりだ。けど私の目は誤魔化せないよ」


 すみません、多分波長が人そっくりなのはたぶん封印食らってるせいです。

しかしどうする……? さすがにダークエルフのように吸血鬼は受け入れてはくれないだろうし……。

かといって、戦うというのもありえない。最初の邂逅で分かる通り実力が違いすぎる。

しかし逃げるにしても、ここは師匠の庭だ。逃げ切れるとは思えない。


 ジリジリと緊張感が高まり……そして、口火を切るように師匠が口を開いた。


「まぁ、吸血鬼だろうがなんだろうが、弟子入りを認めたからには面倒見てやるよ。ほら、ついてきな」

「…………へ?」


 ……マジで?




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