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3-02

 結局、雪が止むまでにもう一日かかってしまい、出発できたのは翌々日だった。


「まさか五日も振り続けるとは……」

「まぁこの辺北よりっすからねぇ」


 そもそもが大陸の北側に位置する帝都から、真っ直ぐ東に進むという北寄りのルートを進んでるからな、どこもかしこも雪国だ。

獣王国からは山脈を迂回するために南からぐるっと回る必要があるので、もう少し暖かい場所を歩けるだろうが。


「さて、森に住むとは聞いていたが、果たしてどこに住んでるのやら……」

「結構広いもんな、この森」


 村の人に聞いても出入りに使ってる獣道しか知らなかったしな。

あんまり詳しく聞くと会いに行こうとしてるのがバレそうで怖かったし。


「まぁ、とりあえず獣道を進んでいこうか」


 ていうか現状それ以外に選択肢がない。

そんなわけでフカフカの新雪をかき分けながら進む。

アレだけの豪雪だったので、当然のように道は雪で閉ざされている。

普通なら雪かきしながら進むところだが……ここには便利なやつがいる。


「ファイアメルト。……うーん、雪が溶ける程度に絞った火力を長時間維持する……これはこれでいい修行になりそうっすね」

「有意義に使ってくれて何よりだよ」


 そう、人間発火装置ことココである。

コイツにかかれば魔法の炎で雪はあっという間に溶けてしまう。

ホント何でもできるなコイツ。


 ……だからこそ、ココがいないあの雪山は本当に大変だったんだが。

ていうか、ココがいればあのマンモスとも正面からやりあえたかもな。一番の問題は火力不足だったわけだし。


 ちなみにそのマンモス肉は解体済みですでに少し食べている。

味はかなり美味かった。日本のA5ランク肉とかと遜色ないんじゃなかろうか、いや食ったことないけど。

分厚いステーキにしてもなお、とろけるような味わいだった。

まだまだいっぱい残ってるし、魔女への手土産にちょうどよかろう。


「えっと……サクヤさんどっちっすか?」


 おっと、ココが道を見失いかけてる。

そもそもが獣道で見分けが付きづらい上に、雪で余計見分けつかなくなってるんだよな。


「あーっと……右だな。そのデカイ木を右だ」

「了解っす……よくわかりますね?」

「吸血鬼だからな」


 なんとなく、獲物となる人間の痕跡がわかるのだ。

例えばさっきなんかは両側とも木が生い茂っていたが、右はかなりわかりにくいが枝が折れてたりして人がぎりぎり通れるくらいの空間が続いていた。

他にも新雪を踏んだとき、やや硬い感触があればそこは下に踏み固められた雪があるということだし、辿れるほどではないが、それでも所々に人の匂いが残っていたりする。

……なんか我ながら熟練のハンターみたいだな、全部本能でやってるだけなんだけど。


「ふむ、そろそろだと思うんだが……」


 だんだん人の気配が濃くなってきた。

もう少しで魔女の住処につくと思うのだが……。


「ぬおっ!?」


 そんな事を考えていたら、急に火の玉が飛んできた。

危ういところで剣を抜き、魔力を纏わせて火の玉を斬る。


「サクヤさん!? 大丈夫っすか!?」

「ああ、問題ない。二人は術者を――」

「もう見つけた。術『者』じゃないけどな」


 さすがニーナ、仕事が早い。

そのニーナが手に持っていたのは、木の枝だ。


「ここ、魔法陣が彫られてる。ご丁寧に見つからないよう細い枝にな。他の枝にもいくつか魔法陣が刻まれてたから、そっちは陣を斬って魔法が発動しないようにしといた」

「ふむ……これ、迎撃用の魔法陣っすね。指定した区域に入ったものを問答無用で……ああいや、もっと高度な術式っすね。攻撃条件をかなり細かく絞って、人間だけに反応するようにしてあるっす」

「……それ、相当高度な技術だよな?」

「そうっすね。それにこの小ささ……少なくともあたしじゃ作れないっすね」


 ココが作れないってよっぽどじゃねぇか。こいつが魔法でできないことがあるところ、今まで見たことないぞ。


「件の魔女、噂通り相当の使い手みたいだな」

「加えると、優しい人物ってのも間違いないっすね。撃ってきたのは最下級魔法のファイアボール、しかもほとんど魔力のこもってないもの……軽い火傷はしますけど、まず死なないっすから」

「ただ、狙いはかなり危なかったな。ご主人の頭一直線だった」

「いえ、多分それは狙ってのことじゃないと思うっすよ」

「というと?」

「サクヤさんの頭の位置、だいたい子供の頭の真上くらいっすよね」

「あー、つまり好奇心で入ってきた子供の牽制するためのものだと」


 まぁ、子供は好きそうだよね、こういうところへ入る肝試しとか度胸試しとか。

加えて魔女の住む森なんて言葉がついたら、もう入る子供は続出だろう。

で、それを追い返すために頭を掠めるようにファイアボールを撃つと。かなり荒っぽいが、まぁ子供は逃げ出すだろうな。

万一あたってもほぼ殺傷能力のない炎だ。この世界、火傷くらいなら回復魔法で痕も残らず治せるから軽症扱いだし、軽いお仕置き程度だろう。


「ふーむ……となると仕掛けは壊さないほうが良かったかな」

「あー……すまねぇご主人、先走った」

「ああいいよ、ニーナは悪くない」


 ニーナの頭をなでつつ、少し考える。

まぁ、これだけ優しいトラップを仕掛けるような人だ。ちゃんとごめんなさいすれば許してくれるだろう。

なんなら金で解決してもいいしな。まだまだ貯金は残っているし。お金持ちって最高だね。


 ……そう、思ったのだが。


「あっぶねぇ!!」


 明らかに目を、そしてその奥の脳を狙った石つぶての投擲……いや、もはや狙撃をなんとか回避する。

しかし、回避のために反らした俺の首を狙うように、熱線と呼ぶべき強烈な炎が迫る。


「っとお!?」


 上体を反らして回避。と同時に今度は地面から背中を貫くように鋭い土の槍が伸びる。

そのまま地面に手を付き、後方宙返りで回避。

……追撃はなし、どうやらここのトラップはこれで打ち止めのようだ。


「と思った瞬間に来るんだよなぁ!」


 油断しきった瞬間を狙うように不可視の風の刃が飛んでくる。

これはここまでの時間で練り上げた魔力を使い、氷雪魔法で盾を作って防ぐ。

…………今度こそ、これで打ち止めらしい。

俺と同じく、トラップに追い立てられていた二人もなんとか回避したようで、集まってくる。


「はぁー……はぁー……お、終わったんすか……?」

「……はぁ……なかなか……はぁ……ハードなトラップだな……」

「子供には優しいけど……侵入者には容赦しないってことか……はぁ、はぁ……」


 肩で息をしつつ、そんなことを話し合う。


 現在地は、およそ森の最深部。

最初の優しいトラップだったが、進むごとにだんだんと殺意が増していき、今では即死トラップだらけだ。

俺が匂いで、そしてココが魔力感知でトラップに気づかなければ、あっという間に全滅してただろう。


「……ふう、そろそろたどり着きてぇところだが」

「……もうそろそろだとは思うんだがな」


 息を整えたニーナの言葉に、俺は推測を返す。

人の気配はだいぶ濃くなっている。それにこのトラップの苛烈さ……近いのは間違いないはずなんだが。


「ほう、結界に反応があったから来てみれば……よそ者の、それも冒険者かい」


 そんな会話をしていたら、不意に後ろから声をかけられた。

驚いて振り返れば、そこには一人の老婆がいた。

……それも、至近距離で。


「ぬおっ!?」

「道中の反応は悪くなかったが……今程度の接近に気づけないんじゃ落第だね。私があんたを殺す気だったら、もう死んでるよ?」


 いや、マジかよ……吸血鬼の嗅覚でも全く匂いを感じなかった。

どんな気配遮断してやがる……。


「マジっすか……あたしの魔力感知にも引っかからなかったっすよ……」

「ふん、一つの感覚に頼ってるからわからないんだよ。及第点はこの子だけだね」

「……ちっ」


 見れば、ニーナだけがナイフを構えて老婆を見つめていた。

……さすがアサシンだ、まさかあれを感知するとは。


「とはいえ、あの罠を潜り抜けた実力は認めて話くらいは聞いてやるよ。さて、お前さんらはこのエルフのババアになんの用だい?」


 エルフ……? あ、ホントだ耳尖ってる。

エルフで老婆って……相当な長生きなのでは?


 おっといかん、そんなことより挨拶しなければ。


「……俺はサクヤ・モチヅキといいます。こっちはココノエ、この子はニーナです」

「ココノエっす。よろしくお願いするっす」

「……ニーナだ」

「ふむ……まぁ、名乗られたなら名乗り返そうかね」


 そう言うと、ザクッと杖を雪に突き刺し、老婆とは思えないほどシャンと背を伸ばし、堂々たる立ち姿で名乗った。


「私はカルミナ、五百年ほどここに住んでるエルフさ。近所の村からは魔女なんて呼ばれてるね」

「……カルミナって……村と同じ名前じゃないですか」

「ああ、あの村は私が住み着いた後にできたんだよ。んで、名前を使ってもいいかと聞かれたから好きにしろって言ったのさ」


 ……なるほど、そもそも村の成り立ちからしてこの人が関わってるのか。

道理で村人たちも尊敬してるわけだ。


「で、もう一度聞くが、あんたら何の用でここまで来たんだい? あのトラップを潜り抜けたんだ。伊達や酔狂じゃないだろ?」

「え、ええ、もちろん」


 俺は雪の上に膝をつき、頭を下げる。


「率直にお願いします、俺たちを弟子にしてください!」

「嫌だよ面倒くさい」


 ……まぁ、そう言うだろうと思ったよ。




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