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3-01


「はぁ……止まないなぁ」

「そうっすねぇ……」


 獣王国も目前と言ったところで、俺たち一行はカルミナという村に立ち寄っていた。

いや、立ち寄ったというか、立ち往生したというべきか。

なんせ外は吹雪、とてもじゃないが進めそうにない。

これが村についてから四日も続いているのだ……まったく気が滅入る。


「まぁまぁ、ここまでだいぶ飛ばして進んできたんだし、ちょっとくらい休んでも良いんじゃねぇか?」

「そうはいうがなニーナよ。あんまりのんびりしてると手配書が回ってきかねないぞ」

「こんな雪じゃ伝令も回らねぇよ。ここまで忙しかったんだし、少し骨休めしようぜ」

「むう……」


 ……まぁ、ニーナの言うことも一理ある。

俺たちは文字通り追われるようにここまで急いできた。

いろいろとトラブルもあったが……まぁ、それでもだいぶ進んでいると言えよう。

なんせこのカルミナ、獣王国まで徒歩で二週間ほどの距離にある村だ。

もはや国境目前、たしかに少しゆっくりするのも悪くないかもしれない。


「はいよ、お待ち。ミノタウロスシチュー六人分ね」

「あざっす、女将さん」


 と、そんな会話をしていたら宿の女将さんが食事を持ってきてくれた。

恰幅のいい女将さんが持ってきたのはミノタウロス肉を使ったシチュー。異世界じゃなきゃ食えないね。

味はほぼビーフシチューと変わらないのだが。

ちなみに三人なのに六人前なのはココが四人前食うからである。ちなみにボア肉のステーキに鹿肉のスペアリブも注文しているので、いかにコイツが大食いかうかがえよう。


「……サクヤさん? なんか失礼なこと考えてないっすか?」

「考えてない考えてない」


 失礼なことじゃなくてただの事実だからな。

そんな会話をしつつ食事をしていたら、女将さんが話しかけてきた。


「それにしてもずいぶん長く吹雪くねぇ……あんたら旅人も大変だね」

「ええまぁ、でもこの村も快適なんで少し休ませてもらいますよ」

「あっはっは、そう言ってくれると嬉しいねぇ!」


 事実この宿、居心地いいしな。冬に旅する奴は多くないからほぼ貸し切りだし、料理も美味しいし、女将さんは気風がいい。

とはいえ、困っているのは俺達だけじゃないだろう。


「村の人達も、こんなに吹雪くと困るんじゃないですか?」

「そうだねぇ、まぁみんな冬に備えての蓄えはあるからそんなには困ってないけど……ああ、でも魔女様が来てくださらないのは困るねぇ」

「魔女様?」

「ああ、この村の南に広がるカルミナの森に住まうお方さ。不老長寿といわれるほど長生きなお方でね、あらゆる魔法を修めていて、薬学や医学にも詳しいんだ。病人なんかが出ると魔女様に診てもらったり、魔女様の持ってきた薬で治療したりするんだよ」

「へぇ……」

「薬の在庫が少なくなってるから、いざってときのために来ていただきたいんだけど……まぁ、あのお方でも天候はどうしようもないからねぇ」


 ……興味深いな、その魔女とやら。

医学や薬学は俺たちに欠けている知識の一つだ。

ココの回復魔法が万能すぎてとりあえず回復魔法でええやろ、みたいな考え方をしていたせいでまともな医学知識が俺たちにはない。

だが、それではまずいのは前のベレム病で証明されている。


 それに……あらゆる魔法を修めているというのであれば、ぜひとも魔法の修行をつけていただきたい。

あれから俺もいろいろ考えたのだが……手っ取り早く強くなるにはやはり魔法の腕を上げるのが一番だ。

剣術は修行法を変えたところで劇的に伸びたりはしないし、身体能力も同様だ。


 だが、魔法は違う。

もっと効率のいい魔力運用ができれば効果は劇的に伸びるだろうし、属性変換の速度も上がれば魔法の発射速度が上がる。

無論これらは反復練習によって向上するものだから、やはり劇的な変化というのは望めないものだが……魔女と呼ばれるほどの魔法使いなのだ。もしかしたら俺たちの知らない技術や知識を持っているかもしれない。


 ……そして、これが一番の目的なのだが……本当に長く生きているのなら、もしかしたら俺のように力が暴走してしまった吸血鬼をどうにかする方法を知っているかもしれない。

封印に頼ることなく暴走を抑えられれば、ほぼ全ての問題が解決するのだ。


 もちろん、可能性は限りなく低いだろう。

そもそも吸血鬼はこの世界において人類の敵なわけで、暴走しようがしまいが見つけ次第殺すのが普通だ。

だが、長く生きているなら俺のように穏和な吸血鬼を知っていて、それが暴走したとき、抑える方法を知ってるかもしれない。

少しでも可能性があるなら、ぜひ話がしたい。


 ……よし、決めた。


「吹雪が止んだら、その魔女様とやらに会いに行こう」


 女将さんが仕事に戻ったところで、俺はそう切り出した。

……どうもその魔女様とやら、この村では崇拝とまでは行かないが尊敬を集めているようだし、会いに行くと知られたら不敬だと止められかねないからな。ここは内緒にしておこう。


「……なんでわざわざ会いに行くんすか?」

「そりゃほら、弟子入りできればなと思って」

「弟子入り?」


 とりあえず、一番の目的については隠しておこう。

封印が破れかけてることは知られたくない。


 ……あれ? なんで知られたくないんだろう?

普通に考えて、リスクはパーティ全体で共有すべきだ。

だけど、まるで後ろめたい気持ちがあるかのように、俺は二人にこのことを知られたくない。

……まぁ、いいか。

能力を使わなければいいだけの話なのだ。俺がしっかり自己管理をすれば問題ない。


「ほら、俺たち全員魔法使うだろ? 魔法の能力が上がれば戦力の増強になると思うんだ」

「まぁ、そりゃそうっすけど……」


 む、ココが何やら不満そうだぞ。


「……あたしの訓練じゃ足りないんすか? サクヤさんの魔法は、ずっとあたしが教えてたのに……」

「むぐっ……」


 上目遣いでそんな事言うなよ可愛いじゃねえか。


「いや、その、な? 別にココの修行法に不満があるわけじゃないんだ。けど、他の修行法を知るのも悪くないと思うんだ。もしかしたら二つをかけ合わせてもっと効率のいい修行法が見つかるかもしれない」

「むう……」

「それに魔女とやらはかなりの長生きみたいだ。長く生きてるってことは俺達とは知識の量が違う。いいアドバイスがもらえるんじゃないかと思うんだ」

「むむう……」

「それに長く生きてて魔法に詳しいなら、魔法に関する本いっぱいあると思うんだ。中には珍しい本もあるかも……」

「行くっす! 行きましょうすぐ行きましょう!」


 ふっ、チョロいな。

こいつマジで魔法関連の本大好きだからな。暇さえあれば本読んでるくらいには本の虫だ。

そこを付けばイチコロさ。


「あ、でもサクヤさん! あたしがサクヤさんの一番の師匠っすからね! そこんとこ忘れちゃだめっすよ!」

「はいはい、わかったよ師匠」


 一番の師匠ってなんやねんとも思うが、まぁニュアンスは分かるので適当に答えておく。


「ニーナはどうだ、なにか意見はあるか?」

「いいや、ご主人が決めたことなら文句はねぇよ。アタシももうちょい幻影魔法を修行したいところだしな」


 ニーナの幻影魔法はずっと使っていた闇魔法に比べて習得してから日が浅い。修行したい気持ちは同じということか。


「うっし、じゃあ当面の目標は魔女とやらのもとでの魔法修行だ。獣王国に入る前に、できる限り強くなろう」

「「了解!」」





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