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1-07

 買い物を終え、装備を整えた俺たちは冒険者ギルドに行き、そこでギルド登録を行っていた。


「……はい、必要書類の記入は以上です。このあとは実技試験に移っていただきますが……質問はありますか?」

「大丈夫です」


 登録書……日本で言う履歴書的なやつの記入を終えた俺はそう答えた。

ちなみに文字についてはココに五十音表みたいなものを作ってもらったのでそれを見て記入した。このペースなら近いうちにカンペなしでもかけるようになるだろう。


 さて、記入した内容といえば……まぁ、名前と年齢、得意な武器、魔法属性、戦法などなどだ。

とりあえず俺は得意武器:剣、魔法属性:不明、戦法:知らない、と記入しておいた。

これでも問題なかったようで、受付のお姉さんは笑顔で受け取ってくれた。


「では、実技試験は裏手の訓練場で行います。こちらの通路を真っすぐ進んで頂くと訓練場に出ます、そこで試験官の到着をお待ち下さい。幸運をお祈りしています」

「ありがとうございます」


 受付のお姉さんに礼を言って、言われたとおり通路を進む。

すると広い庭のような場所に出た。

庭は杭で何面かに仕切られており、俺がいる場所以外では新米冒険者と思わしき人たちがベテランっぽい冒険者にボコボコにされていたり、あるいは一人で魔法の訓練をしていたりと、思い思いに訓練していた。


 ……そんな光景を見て、飲み込んだはずの不安が再燃してしまう。


「……大丈夫かな」


 腰に差した新品ピカピカの両手剣の調子を確かめながら、思わずぼやいてしまう。


「大丈夫かな……」


 再び同じ言葉をつぶやいてしまう。

相手は歴戦の冒険者、勝つ必要はないが、ある程度の実力を見せる必要がある。

……正面切っての戦闘は人生で初、しかも慣れない得物で、だ。

加えて吸血鬼能力を縛って、である。

傷をつけられるのもアウトだ、強く意識してないとすぐに再生してしまうので、正体がバレかねない。


「……無理ゲーじゃねぇかな」


 歴戦の戦士相手に人生初の戦いを挑んで、慣れない武器で能力を縛った状態で相手の攻撃を完全回避する……うん、無理ゲーですなこれ。

どんなチュートリアルだよゲームバランス考えろよ。……いや闇の魂的な鬼難易度ゲーとかだともっとひどいチュートリアルザラにあるけどさぁ。


「かっかっか、そう悲観するものではないぞ。ええと……サクヤ・モチヅキくんであってたかな?」

「ひゃい!?」


 突如として背後から声をかけられ、思わず変な声が出てしまう。

少々赤面しつつ振り返れば、そこには杖をついた好々爺という言葉がよく似合うおじいさんがいた。


「え、ええと……あなたは?」

「おっと、そうじゃったな。儂はグライン、お主の試験官じゃよ」

「試験官」


 こんなおじいさんが?

いや、でも異世界だし、外見通りの実力ではないのだろう。

意識を集中して、グラインさんの一挙手一投足に注目する。


「ほう、悲観的な割にはやる気じゃのう」

「まぁ、クソ難易度だからって諦めるほど弱気じゃないんで」


 それにココとの約束がある。絶対に合格してやる。


「では、ここからはおしゃべりは不要。参ろうか」


 ゆらりと、グラインさんのグラインさんの体が揺れる。


「――――っ!!」


 その瞬間凄まじいほどの殺気を感じ、俺はすぐさま剣を構えて後ろに飛び退った。

見れば、先程まで俺が立っていたところに、仕込み杖から抜き放たれた剣が振り下ろされていた。

……嘘だろ、全然見えなかったぞ。


「ほう、いい反応速度じゃ。しかし剣の構えといい身のこなしといい、素人同然なのはいかん。生来の才能にあぐらをかいてはいかんぞ」

「はっ、はぁ……あ、あなた……何者なんですか?」

「かっかっか、さっき名乗ったじゃろう? 儂はグライン、グライン・アルバート。元Aランク冒険者で、今はこのギルドのギルドマスターをやっておる」


 ……ギルドマスター……って。


「さ、最高責任者が何やってんすか!?」

「最高責任者じゃからこそ、次の世代を見ておきたいんじゃよ。まぁ、後でサブマスには怒られるじゃろうが、こればっかりはやめられんよ」

「なんつー趣味だ……」


 しかしまずいぞ、まさかギルドマスターが出てくるとは。

しかも元Aランクって言ったか。

たしかココから聞いた話だと、冒険者は上からS、A、B、C、D、Eの六段階にランク分けされている。

Aランクってことは上から二番目……いや、ココいわくSランクになれるのはごく一部の人外だけって話だから、実質最高ランクみたいなもんだ。

やべぇじゃん。ただでさえ無理ゲー気味なのにさらに追加要素いれんなよ。


「ふむ、まぁ儂の初撃を躱したんじゃ、合格でよかろう」

「……へ?」


 とかなんとか考えていたら、衝撃の言葉がグラインさんから出てきた。


「え、合格? 戦ってすらいないっすよね?」

「うむ、そもそもこの試験はある程度の実力を見るものじゃ。ギルドとしても無駄死にされては困るからのう。そしてお主は儂の攻撃を察知し、回避するという実力を見せた。Cランクでもなかなかできんのじゃぞ、この不意打ち対処」

「お、おおう……思った以上にやばい攻撃だった……」


 なるほど、つまりはCランクでも対処が困難なグラインさんの攻撃を回避してみせたことで、十分な実力を持ってるとみなされ、合格になったと。

いやー、よかったよかった。きつい縛りな上にギルドマスターが出てくるとは一時はどうなることかと思ったが……いやー為せば成るってやつかねぇ。


「さて、次はランク決めのための模擬戦じゃな。……どうした呆けて、はよう構えい」

「ら、らんくぎめ」

「そうじゃ。受付で聞いてたじゃろ? この模擬戦での結果次第で、初期ランクが決まると」


 そ、そうだったー!!

ってことは、やっぱ戦わなくちゃだめなの!? やだよこんなクソ強爺さんと戦うの!


「……って、言いたいところだけど」


 ちらりと後ろを振り返れば、こっそりとこっちを覗くキツネ耳が見える。


「大丈夫だよ……約束したからな、逃げねぇよ」


 俺は再び両手剣を構え、グラインさんと向き合う。


「いい面構えになったのう。好きなタイミングでかかってくるといい」

「では――その胸、お借りします!」


 俺は剣を正眼に構え、そのまま駆け出した。

俺は剣術なんてわからない……だから、とりあえずぶん回す!!


「せあっ!! はぁっ! どりゃあ!!」

「かっかっか、素人剣法丸出しじゃが、萎縮してなにもしないよりは悪くはない。じゃが、策もなしでは当たらんぞ?」

「わかってます……よっ!!」


 ぐっ……ただでさえこの人速いのに、剣が重いせいで当たる気がしない。

速度だけなら頑張れば追いつけるだろうが、武器のはずの剣が邪魔でどうにもならない。


「……まてよ、武器が邪魔?」

「ほれ、よそ見してると怪我するぞ!」

「ぐっ! ……ひらめいた」


 突き出されたグラインさんの剣を躱し、そのまま俺は体を一回転させて――剣をグラインさんめがけてぶん投げる!


「ぬおっ!?」


 これには流石に虚を突かれたのか、グラインさんの動きが止まる。


「チャーンス!!」


 すぐさまグラインさんに向かって駆け出し、拳を構える。

そう、俺が選んだのは拳での殴り合い……インファイトだ。

近接戦では剣術の腕前からして勝ち目がない。なら剣を振る間もないほどの超近接戦ならば、まだ勝機はある。

どうせ武器なんか持ってたって重しにしかならないんだ、ならまだ生まれたときから持っている両拳のほうがうまく扱える!


「らぁっ!!」


 そう思い、殴りかかったのだが――


「――武器を捨てる思い切りの良さ、戦い方の切り替えの速さ、実に見事。じゃが、やはり素人の拳では儂には勝てんよ」


 拳を、受け止められた。

そう認識した瞬間、俺は思いっきり投げ飛ばされていた。


「んなっ……! ぐあっ! ……うべっ! ……あぐっ!!」


 三回ほど水切りのように地面に叩きつけられ、ようやく俺の体が止まった。


「マジかよ……素手でも戦えるのか……」

「かっかっか、剣を失ったときの手段がなければ、剣士としては三流じゃからな」


 上から落ちてくる剣をキャッチしながら、グラインさんはそう言う。

なるほど……俺がインファイトに持ち込んだ瞬間、剣を上に投げて両手を開け、その手で俺の拳を受け止めて投げ飛ばしたと。

 ……まずい。

何がまずいって、インファイトが通用しなかったことじゃない。

俺は武器を失い、グラインさんは武器を持っている。

そして武器がない以上、俺は両手が届くまでグラインさんに近づくしかないが、剣を持って万全のグラインさんにその距離まで近づくのはほぼ不可能だろう。


 ……端的に言って、これ詰みでは?





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