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2-04


「んっー……快晴だな」

「あれだけ降ったのに、まるで違う場所みたいだな」

「山の気候は変わりやすいって言うからな」


 雪道を塞いでた雪を掘り起こし、外に出ると見事な快晴だった。

よかった……止まないようなら吹雪の中を突き進むつもりだったからな。

それに、腕も一晩しっかり休んだおかげでほぼ治っている。

……今回ばかりは自分が人間じゃないことに感謝しておこう。


 ……あと、ニーナとの空気もいつもどおりに戻っている。

正直あのディープキスのせいでまともにニーナの顔が見れないんだが、ニーナが努めていつもどおりに振る舞ってくれてるおかげでなんとかなってる。


「さて、じゃあまた降ってこないうちに山頂まで行くぞ」

「おう」


 ……さて、このままトラブルなく薬草を採取できればいいのだが……。

頭に浮かぶのは、医師の青年が言っていた、未確認の魔物。

長い腕に巨大な牙を持ち、分厚い毛皮に覆われた巨体の獣だと言うが……一体どんな化け物なのやら。


 戦うことなく終わらせたいが……果たしてどうなることやら。






 そこから俺たちは、再度戦闘を避けながら進んでいった。

避けて隠れて潜んで忍んで……とにかくあの手この手で戦いを避けてひたすら山頂を目指して……ついに辿り着いた。


「おお……これが山頂か……」

「絶景、ってやつだな」


 この山、どうやら火山だったらしく、山頂が盆地になっていた。

盆地にはやはり雪が積もっているのだが、どうにも真ん中だけ春のように草花が見える。

そして……そこに、そいつはいた。


 事前に腕だと聞いていたのは、見る奴が見れば鼻だとわかるだろう。

大きく反った牙に、茶色の毛皮に包まれたその姿は……。


「マンモスかよ……」


 もう俺の世界では絶滅してしまった、巨獣だった。






「で、どうするよご主人?」

「どうすっかなぁ……」


 ひとまず、マンモスに見つからないところまで下がって、俺達は作戦会議を始めた。

現在の時刻は昼前、まだ若干だが余裕はある。

今日一日で奴を倒すなりだまくらかすなりして薬草を採取して、明日一日で下山すればいい。

……それに、俺の案が実現できるのであれば下山は半日とかからないはずだ。


「とりあえず腹ごしらえするか……んで、ご主人はアレがなんなのか知ってるんだよな?」

「まぁ、似たような生物が俺の世界にいたな。あそこまででかくはないはずだが」


 ニーナが干し肉をお湯でふやかしてスープを作っているのを見つつ、それはそう答えた。

……そう、あいつ見た目は間違いなくマンモスなのだが、デカさが規格外なのだ。

遠目からだが、多分全長五十メートルくらいある。もはや怪獣である。誰か光の巨人連れてきてくれ。


「あんなにデカイと、代謝とかどうなってんだ……?」

「さぁ……? 間違いなく飯だけじゃ賄えねぇよな」


 マンモスは草食動物だったはずだが……一体何でエネルギーを賄ってるんだ?

……まさか原子力エネルギーとか? マンモスは怪獣王だった?


「いや、流石に原子力は飛躍し過ぎか。でもあの巨体を維持するエネルギー源がわかれば、少なくとも薬草採取の邪魔をさせないための手がかりになるかもしれないんだが……」


 ……やはり、魔力だろうか?

だが、一体どこからそんな魔力を得ているんだ?


「……なぁ、ご主人。あの花、魔力を感じる。それもただの魔力じゃない、陽光属性に近い魔力だ」

「……どれ?」

「ほれ、あの雪が溶けてるところの真ん中のやつ」

「……あー、あれな」


 俺とニーナは目がいい。かなり距離があるが、件の花はしっかりと見える。

んで、たしかにあの花から嫌な魔力を感じる。まぁ、嫌に感じるのは俺の性質のせいなんだが。


「ていうかあれ、陽命草じゃね?」

「……そうだな、図鑑に書いてあった特徴と一致する」


 日輪のような花弁に、たんぽぽのようなギザギザの葉。

間違いなく俺たちが探し求めている陽命草だ。

で、それが咲いてて……その近くでマンモスの野郎はうたた寝していた。


「……なるほど、あの花が発する魔力によってあいつは生きているわけだ」


 ……これまでは見かけない魔物だったという話だから、どこかから流れ着いて、それでここが快適だから居座ったのだろう。

しかし、こうなるとまずいな……。


「ヤツにとって陽命草は生命線。採取したらまず戦闘になるだろうな」

「だよなぁ……ちなみにご主人、あの分厚そうな毛皮、斬れるか?」

「いや、さすがに無理じゃねぇかな……ニーナは?」

「アタシのナイフじゃ、毛皮は通っても急所まで届かねぇだろうなぁ」


 ……あかん、八方塞がりだ。

硬い敵には打撃が一番効くんだろうが、あいにくと俺たちは剣士と暗殺者。打撃武器は持ち合わせていない。

血液操作が使えればその場で打撃武器を作ることもできたのだが……使えないんじゃ仕方ない。


「さっさと採取だけして逃げるにしても、絶対追ってくるよな」

「追ってくるな。んであの巨体だ、まず逃げ切れねぇ」


 ……うーん、でも勝てそうにないし逃げる路線で行くしかないんだよなぁ

うまいこと奴の目を陽命草から逸して、逃げ切る方法があれば良いのだが……。


「うーん……まぁ考えてても仕方ないし一回トライしてみるか」

「ご主人!? あんなデカブツに無策で挑んだら死ぬぞ!?」

「いや、マンモスってそこまで好戦的じゃない動物だったはずだし大丈夫だろ。……多分」

「多分、多分って言った! あーもうまたリスクマネジメントが増えるじぇねぇか!!」


 ごめんなさい、いつもお世話になっています。






 そんなわけで、とりあえず盆地に降りてみた。


「……?」


 マンモスは侵入者である俺に目を向けるが、そのまま再び目を閉じてしまう。

まぁ、人間で言えば寝床に蟻一匹が入ってきたようなもんだからな。気になる人は気になるけど、気にしない人は気にしないだろう。


 そのままソロリソロリと陽命草に近づいていく。

そして、雪が溶けているラインを踏み越えたところで――


「…………!」


 ――マンモスが起き上がった。

どうやら侵入を許されるのはここまでのようだ。


「どうどう……下がる、さがるから」


 そう言いつつ一歩ずつ下がり、だいたい雪解けしてる場所から一メートルほど下がると、マンモスは臨戦態勢を解除した。

しかしまだ起き上がったままで、警戒はしているようだ。


「……やっぱ陽命草は採れそうに無いか」


 縄張りに一歩入っただけでこれだ。陽命草を採取しようと思ったら間違いなく戦闘になる。


「どうすっかなぁ……間近で見ると余計勝ち筋がわからないぞコイツ……」


 デカイ、重い、硬い。見事に三拍子揃っている。

しいて弱点をあげるとすればその巨体と重さ故に動きの鈍さだろうが、そもそも攻撃が通らなければ動きが鈍かろうと意味がない。

こういう敵はゲームとかだと一点だけ弱点が露出してたりするのだが……あいにくここは現実なのでそんな都合のいい話はない。


 しかし相手を観察するのは大切なので、奴の縄張りに入らないようぐるっと回って全体図を見てみる。

……うん、マンモスだな。日本人がマンモスと言われて大体の人が想像する姿だ。


 ……ううむ、こうしてみると人類の祖先はどうやってマンモスを狩ってたんだ?

毛皮は厚いしデカイしタフだし……昔のアニメだと槍とか投げてたけど刺さらんだろアレ。

ああいや、地球のマンモスはここまででかくないからその分毛皮が薄いのか。

まったくなんでこの世界のマンモスはこんなにもデカイのか……マジで光の巨人案件では?


「あ」


 そんな事を考えていたら、一線を踏み越えていた。


「パオオオオオオオオオン!!」

「やっべ! ニーナ!」

「了解!」


 マンモスもパオーンって鳴くんだなぁとか思いながら、俺はものすごい勢いで後ろに引かれている。

そう、俺は安全策として腰に命綱を付けて、いざとなったらニーナに引いて回収してもらえるようにした上でここにやってきていたのだ。


 ……しかしニーナの腕力すげぇな。マジですごい勢いだ。


「っと、感心している場合じゃないな!」


 俺は収納袋からマンモスの気を引けそうなものを手当たり次第に投げまくり、追撃を躱す。

やがてマンモスは俺を追うのをやめ、俺はニーナに引きずられるまま山頂に戻ってきた。


「ぜー……はー……ご、ご主人……あ、アタシ……こんなん……二度と……ひゅー……ひゅー……やらねぇぞ……はぁ……はぁ……」

「ああ、その、ほんとすまん。ありがとう」


 戻ったらニーナが死にそうになっていた。

うん、そりゃ一応五十六キロある俺を一気に引きずりあげたらこうなるわ。

いや、異世界で鍛えて筋肉がついたからもっと重いかも。

そんな俺を一気に引き上げるなんて普通無理だ。ダークエルフの身体能力がなせる技である。


「げほっ、げほっ……ああ、でも見つけたぜ、突破口」

「突破口? ほらとりあえず水飲め」

「あ、ありがと……ごくごく」


 ニヤリと不敵に笑うニーナは一旦水を飲み、再度笑った。


「いつもならご主人の役割だけど、今回はアタシが作戦を立てさせてもらうぜ」


 ……ほう。

ニーナの作戦とやら、聞かせてもらおうじゃないか。




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