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2-02


「ぐっ……このっ!!」


 気合を入れて山に入った俺たちだが、その道のりは険しい物だった。

なんせ冬の山ってだけで危険なのだ。

前にBランクだった頃、危険地帯……山での採取依頼を受けた時、登山道具一式を揃えてなければまず登れなかっただろう。


 さらにこの山、魔物が大量に出る。

飯のない冬場の魔物たちはどいつもこいつも凶暴で、俺たちを見るや否や襲いかかってくる。


 そう、今戦っている狼のように。


「ウガァ!!」

「この犬っころが!!」


 目の前の狼に斬りかかるが、こいつ信じられないことに剣に噛み付いて攻撃を受け止めやがった。


「マジかよ!?」

「グルァ!!」


 動きの止まった一瞬をついて鋭い爪が迫ってくる。

俺は一瞬だけ腕力を強化して。


「うおらぁっ!!」

「ギャイン!?」


 その腕力で剣を振るい、狼を地面に叩きつけた。

血を吐き、倒れたまま動かなくなる狼。

念のため自由になった紅椿で首を切り、死んだのを確認する。


 と、そこでニーナの声が聞こえた。


「すまんご主人、一匹そっちにいった!」

「了解!」


 一匹倒して……狼の数は、残り五匹。

……そう、こいつら群れで襲ってきたのだ。


 この魔物の名前はアイスハウンド。割とどこにでも出てくるハウンド種が寒さに適応した変異種だ。

ハウンド種は常に五匹から十匹程度の群れで行動し、狩りも群れで行う。

特筆すべきはその連携であり、おそらく魔物としての魔力を使ってコミュニケーションを取り、群れを統率していると考えられている。

危険度は単体ならBランク、群れなら規模にもよるがだいたいAランクまで跳ね上がる。

この危険度は同ランクの冒険者なら対応できると言う物なので、いかに群れたこいつらが厄介かわかるだろう。


「くっそ……! 一匹でもこれかよ……!!」


 そして弱体化した俺では、一匹対応するのが精一杯だ。

残りを受け持っているニーナのフォローに早くまわりたいのだが、その焦りの隙を突くようにアイスハウンドは攻めてくる。


「この……! 氷雪――」

「だめだご主人! 魔法は使えねぇ!!」

「ぐっ……!」


 ……そう、今の俺でも魔法さえ使えればなんとかなるのだ。

なんせ氷と雪に閉ざされた空間、氷雪魔法は使い放題だ。

だが、どうしても魔法は使えない。

なぜなら、俺たちもまたベレム病に感染している可能性があるからだ。


 ベレム病は空気感染しない。主に唾液や血液などから感染すると医者の青年は言っていた。

つまり、毎日のようにココから血液をもらっていた俺は間違いなく感染しているし、ニーナも感染してる可能性が高い。

無論、俺はその性質上感染してても発症しない可能性もあるし、ニーナも俺のようにココから体液を取り込んだわけじゃないし、感染していないかもしれない。

だが、かもしれないで動くことはできない。

俺かニーナ、どちらか一方が倒れた瞬間、この山を登るのはほぼ不可能となってしまう。

だからこそ、俺達は魔力を節約するため瞬間的な強化魔法などだけを使って立ち回ってきた。


「クソ……なんで急いでんのにこんな縛りプレイしなきゃいけねぇんだよ!」

「ガウッ!!」


 襲い来るアイスハウンドを躱し、すれ違いざまにその首を切り裂く。

……どの程度魔力を消費したら発症するのかわからない以上、切れ味強化の能力も一瞬しか使えない。

なんで異世界にまで来て目押しみたいなことせにゃならんのだ。


 ともあれ、残り四匹。

一瞬の脚力強化でニーナのもとまで駆けつける。

ぐぬっ……フカフカの新雪のせいでうまく踏ん張れない……。

だが、なんとかたどり着き、襲い来るアイスハウンドの鼻っ面を蹴り上げる。


「ギャイン!?」


 強化した脚力での、敏感な鼻先への蹴りだ。よく効くだろう?


「らぁ!!」


 怯んだところで再度切れ味を強化した紅椿で切り裂く。

……これ以上の魔力消費はまずいか。

ココは魔法を四発ほど撃ったところで倒れた。

割合なのか固定なのかはわからないが、これが大体の目安になる。

とはいえ、ほぼ感覚だからなぁ……ああもう切実にMPゲージがほしい。


「ガァッ!!」

「ぐうっ……!?」

「ご主人!?」


 と、余計なことを考えていたせいだろうか、腕に思いっきり噛みつかれた。

やばい、噛み砕かれる――


「このっ!」

「ガファッ!?」


 アイスハウンドの口の筋肉に大体の当たりをつけて、剥ぎ取りや解体用のナイフを突き立てて切り裂く。

筋肉が切断されてしまえば、当然噛み付いていられなくなる。

うん、最近は全く使ってなかったけど持っててよかった。


「だぁっ!!」

「ガヒュ……!?」


 そのまま喉笛を掻き切って、なんとか仕留める。

しかし……右腕はもう使い物にならねぇな。

未だに人間以上の回復力があるとは言え、限度がある。

せめて魔力が使えればもう少し治癒速度をあげられるんだが……。


「ご主人、大丈夫か!?」

「ああ、なんとかな……」


 俺が手こずってる間にさっさと二匹始末したニーナが駆け寄ってくる。

そして、そのまま俺の傷を調べる。


「……そこまで深くはねぇな。さっさと口を切り開いたおかげだな」

「ああ、これなら消毒して添木でもしてりゃ大丈夫だろ」


 収納袋から度数の高い酒を取り出し、傷にかけて消毒する。

ぐおおおお……めっちゃ染みる……いってぇえええ……。

しかし消毒しないと、狼とかどんな細菌やウイルスを持っているかわからない。

下手すりゃ俺たちのほうが厄介な病気に感染しかねない。

病気を治すために戦って病気になったら世話ない。


 ともあれ、ニーナにも手伝ってもらって包帯を巻き、添木をして固定した。

ううむ……とりあえず問題はないがやっぱ力が全く入らない。

利き手をやられたのは相当きついな。


 仕方ないので、右手と剣を包帯でガッチリ固定した。

とりあえずこれで振るだけならできるだろう。


「……ご主人、そこまでしなくていいぜ? アタシが全部やっつけるからよ」

「いや、さっきみたいに集団で襲われたらいくらニーナでもきついだろ。まぁこの腕じゃ足手まといだから基本的には控えてるけどよ……いざとなったら戦えないと」

「むう……わかった、じゃあご主人の出番がないようにさっさと全部ぶっ殺すわ」


 ……逆に火をつけてしまったか。

ああー……情けねぇ、これでもパーティリーダーで、名ばかりだがニーナの主だっていうのに。

早く……早く薬草を取りに行かなきゃなんねぇってのに。


「……ご主人、こんなときこそ落ち着いて冷静になれ。焦ったらまた怪我するぞ」

「俺の怪我なんかどうでもいいだろ……それよりココのほうが――」

「――ココを助けるためにも、ご主人が怪我しちゃならねぇんだよ。万が一足でも怪我したら、余計移動速度が遅くなっちまう」

「それは――そう、だな」


 実際、今腕を怪我したせいで俺が戦力にならなくなってしまった。

いくら弱くなったとは言え、俺でもいないよりはマシだ。その俺が抜けてしまえば、戦闘にかかる時間が長引いてしまう。


「慎重に、冷静に、でも時には大胆に。……アタシが戦うときに心がけていることだ。この状況でも、当てはまるんじゃねぇかな」

「……うん、わかった。慎重に、冷静に、時に大胆に」


 今は慎重に動くときだ。

俺が使い物にならない今、とにかく戦闘は避けて先へ進む。

冷静に状況を判断し、最適の行動を選ぶ。

そして、力をためて最後は大胆に。


 なるほど、実に理にかなった考え方だ。


「……よし、行こうニーナ。今日中にせめて中腹まで登るぞ」

「ああ、ペース配分としてもそのくらいは登りたいところだな」


 今日中腹まで登って、明日山頂にたどり着いて薬草を採取。明後日に一気に降りてココのもとに帰る。

登るのにこんなに苦労してるのに、そんな短時間で降りられるのかと思われるかもしれないが……ここから見える山頂から中腹までの傾斜からして、多分アレが使えるはずだ。

収納袋を確認し、間違いなくアレが入っていることを確認して、俺は歩みを進めた。






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