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2-01


「よっ……と!」


 俺の剣がゴブリンの首を切り裂く。

いかに弱体化してるとはいえ相手はゴブリン、油断さえしなければなんてことはない。


「フレイムボルト!」

「シッ――」


 ココとニーナもまた、遅い来るゴブリンを次々打ち倒していった。


「はっ……! っと……これでラストかな?」

「みたいっすね」


 最後の一匹を斬り終えたところで、俺は後ろを振り返る。

そこには馬車を守るように立つ行商人らしき男の姿があった。


「大丈夫でしたか?」

「ええ、ありがとうございます……おかげで助かりました……」


 さて、なんで俺たちがゴブリン狩りをしていたのかといえば、見ての通り彼を助けるためだ。

次の街を目指して歩いている最中、街道を外れた場所にいる馬車が襲われているのが目につき、救助に向かったのである。


「なんとお礼を申し上げていいか……」

「気にしないでください。……ああ、でも美味しいものとかあれば譲っていただきたいのですが」

「もちろん! それくらいでしたらいくらでもお持ちください!」


 やったぜ。美味しいものは旅の潤いだからね。

……なんか最近、何かするたびにお礼に美味しい物をもらっているせいで、「親切だけどやたら食いしん坊なAランク冒険者がいる」という噂が流れてしまっているが、まぁそこまで不名誉な噂ではないし事実なので気にしないことにする。


 そんなわけで、馬車にあった果物をいただいた。

ひとつ食べてみた感じ、見た目は緑のリンゴだが味はパイナップルに近い。

うむ、異世界情緒あふれるフルーツだね。味も酸味の中にほんのり甘みがあって美味しい。

……日本の糖度が高いものもまぁ美味しいっちゃ美味しいけど、俺はこういうフルーツ特有の独特の味わいがあるほうが好きだな。


 そんな果物を数十個ほど分けていただき、うち二つをココとニーナに投げ渡す。


「よっ、と。お前らも食っとけよ」

「おう、サンキューご主人」


 うむ、今回はうまく投げられた。

……最近は投擲の練習もしてるんだよね。射出系の魔法も使うわけだし、いつまでもノーコンってわけにもいかんだろう。


 その甲斐あってか上手いことニーナとココの元に果実は飛んでいき、ニーナはうまいことキャッチして。


「あ、あれ?」


 ココはなぜか落としてしまった。


「おいおい、どうしたんだよ?」

「お、おかしいっすね。掴んだつもりだったんすけど……」


 まぁ、急に投げ渡した俺も悪いか。

落ちた果物を拾い上げ、代わりに新しい物を出す。


「ほい、美味いから食っとけよ」

「ありがとう……ございます……」


 しかし、ココは再び果物を取り落とし。


「あ……れ……?」


 そのまま、ココも倒れ込んだ。


「ココッ!?」


 慌てて彼女の体を受け止め、抱き抱える。

その体は、火傷しそうなほど熱かった。


「おま、なんだこの熱!?」

「あれ……熱、あります……? なんか……調子悪いとは……思ってたんすけど……」

「ばか、これ調子悪いなんてレベルじゃないだろ!」


 とてもじゃないがマトモに動ける体温じゃない。

それでも笑って誤魔化そうとするココの目を見て、驚く。


「ココ、お前、目が……」

「目……? 目は普通に見えてるっすけど……?」

「違う、お前目が真っ赤だぞ!?」


 ココの白目が、まるで血のように真っ赤に染まっていた。

充血とかそういうレベルじゃない。まるで目が内出血してるみたいだ。


「急な高熱に、目の充血……ちょっと診せてもらっていいですか!?」


 俺たちの様子を見ていた行商人が、慌てて駆け寄ってくる。


「わかるんですか?」

「私はこんななりですが医者です。行商をしつつさまざまな場所を回って治療と研究をしています」


 商売もする国境なき医師団のようなものだろうか。

ともかく医者だというのなら任せよう。俺には人の体調を診る目はあっても知識は全くない。


 しばらくココの診察をしていた青年だが、納得したようにこちらを向いた。


「やはり……彼女はべレム病に感染しています」

「べレム病?」

「この辺りでよく発症する病気で、普通は抵抗力が高くて病気になりにくい魔力の高い人間に感染します。症状としては、高熱、全身の倦怠感、節々の痛み。……そして、全身からの出血」

「まさか、目が赤いのは……」

「ええ、初期症状で目の毛細血管が切れたためです。放っておけば全身から出血して死に至ります」


 んな……やばすぎるだろそれ。

俺の世界にも出血を伴う病気はあったはずだが、それにしたって全身からの出血なんて聞いたことがない。


「……ただ、普通は感染してもそのまま症状は出ないで治ってしまうのですが…魔力を大きく消費すると、今回のように発症してしまいます」

「ってことは、戦闘で魔力を使ったから……」

「おそらくは。……すみません、私のせいです」


 頭を下げようとする青年だが、俺はその肩をがっと掴んで、下げさせなかった。


「誰が悪いわけじゃありません、あなたが頭を下げる必要はない」

「ですが……」

「責任を感じているというのでしたら、全力で治療してください。彼女をこんなところで失えないんです」

「……わかりました」


 俺の言葉に、医者の顔に戻った青年が馬車から何かを持ってきた。


「私が調合した薬です。これで少しはマシになるはずですが……特効薬になる薬草が足りません」

「んなっ……! どこで、どこで手に入るんですかそれは!?」


 薬草って……どこかで売ってるのか? いや、採取できるのか?

例えできたとして、ココが死ぬまでに、間に合うのか?


 ……死ぬ? ココが……?

全く想像していなかった事態に、足が震えてくる。

いやだ……いやだ、いやだ!


「落ち着いてください、薬草の群生地はこの近くにあります」

「本当ですか!?」

「あの山です。あの山の山頂に生えている、陽命草という薬草が特効薬になります」


 そう言って、青年は分厚い図鑑のような本を開き、見せてくる。

そこに描かれていたのは、日輪のような花を咲かせる草だった。


「ですが、気をつけてください。冬山はそれだけで過酷ですが、あの山は強力な魔物が多数います。……それに、同じく陽命草を探しにいったBランク冒険者からの情報だと、見たこともない巨大な魔物が山頂をナワバリにしているとか……」


 Bランクで見たことないってなると、未発見の魔物の可能性もある。

未発見の魔物というのは厄介だ。なんせどんな攻撃をするのか、どんなふうに魔力を使うのか、どこが弱点なのかなど、とにかく情報が足りない。


 ……けど、行くしかない。


「……任せてください。俺たちはこれでもAランクですから」


 そう言ってギルドカードを見せれば、納得したように青年は頷いた。


「わかりました。彼女は私に任せてください」









 ですが、どんなに頑張っても三日が限度です。それ以上は彼女が持ちません。


「三日か……」


 青年の言葉を思い出して、気合を入れ直す。

べレム病は発症してしまうと非常に高い致死率を持つ。

高熱に苦しみ、全身からの出血……ココにそんな死に方させるわけにはいかない。


「行くぞニーナ、絶対ココを助けるぞ」

「おうよご主人! 雪山だろうが未発見の魔物だろうが、全部ぶちのめす!」


 登山と雪道での戦闘の準備を整えた俺たちは、目の前の雪山に向かって歩き出した。


 ……タイムリミットまで、残り三日。





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