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 そこからは大変だった。

やってきた騎士団にラドーン殺害の嫌疑をかけられ(いや実際殺したけど)、肩の傷を見せて正当防衛を主張、結果ラドーンの剣と俺の傷が一致するまで回復魔法すら許されず数十分ほど止血だけしながら待つこととなった。


 そして現在。

ようやく俺の嫌疑が晴れたので、ココに回復魔法をかけてもらっているところである。


「ふいー……痛かったぁ……」

「無茶しすぎっすよサクヤさん、もう前ほど早くは治らないんすよ!?」

「わかってるって……」


 ……今の俺はほぼ人間並みで、回復速度が若干早い程度だ。

とはいえ、たとえココの回復魔法がなかったとしても、時間さえかければ今回のような肩が使い物にならなくなりかねない怪我でも治るあたり、やはり俺は人間ではないのだが。

とはいえ、痛いのは嫌なので控えたいところではある。


「……ちょっと頭に血が上ってたな」

「まぁ奴がクズなのは間違いねぇけどよ、そのために貴重なご主人の血を流すことねぇだろうよ」

「まったくだな。もうちょっと感情の抑え方を学ばないと……いててて……」


 呆れ顔のニーナにそう答えつつ、今回の事件を反芻する。

……たしかに、あの場の最適解は適当に応戦しつつ、騎士団の到着を待つことだった。

しかし、頭に血が上った俺はどうしても奴を自分の手で殺したくて、挑発からの正当防衛コンボを決めてしまった。


 ……殺したいから殺すとか、もう日本人の発想じゃねぇなこれ。

……どうも真名開放をしてから……いや、あのフェンリルフォームになってからというもの、俺は理性が弱くなっている。

能力は封印したはずなのだが……本能が、どうにも抑えきれない。

……いまも、そう。

失った血を取り戻すために、二人の血が欲しくて、二人の首筋から目が離せない。


「……しっかりしろ俺」


 軽く頭を振って、欲求を抑える。

……しかし、まずいな。このままじゃいずれ我慢ができなくなるかもしれない。

幸いなことにふたりとも今の俺より強いから、俺が血迷ったときは撃退してくれるはずだ。


「すまなかったな、サクヤ・モチヅキ殿」


 と、そんなことをしていたら検分が終わったようで、隊長と思わしき人が声をかけてきた。

こちらも治療が終わったので、立ち上がって応える。


「いえ、感情的になって斬り殺してしまったのは事実なので」

「それでも、君は今回の事件の立役者だ。その君に嫌疑をかけてしまい、苦痛を与えてしまったこと、謝罪しよう。すまなかった」


 まぁ、そう言ってくれるなら俺としても特に文句はない。

別に謝罪されなくても特に文句はなかったが。


「……そして、ギーラス伯爵の容疑を晴らしてくれたこと、感謝する」


 ああ、そうか。彼は騎士団、つまりサンダース将軍の部下であり、ギーラス伯爵とは同じ派閥だ。

同じ派閥の重鎮が救われたのだから、感謝もひとしおと言ったところか。


「いえ、今回は本当に偶然に偶然が重なった結果です。それに、俺が救いたかったのは苦しむ村の人々であって、伯爵閣下のことはほんのついでですよ」

「ハッハッハ、貴族を救ったのをついでというか、面白いな貴殿は」


 言う場所が場所なら不敬罪に問われそうな発言を、笑って流す隊長。

どうやら彼もなかなかの大物らしい。


「しかし、その考え方は崇高なものだ。民草のため、名誉を求めず貴族にも立ち向かうその意思の強さ。是非とも我が部隊に欲しいところだ」

「勘弁してください。俺は冒険者、気ままに旅してるのが一番性に合ってます」


 吸血鬼が騎士とか笑えない冗談だ。

ゲームのジョブとしての騎士ならともかく、リアルで就職するのは勘弁してほしい。

それに俺は日本に帰らないといけないし。


「そうか、残念だ。とはいえ、我々も君の功績に報いなければならない。功績に褒賞を与えないのは貴族のメンツに反してしまう」


 ……まぁ、そうだよなぁ。

俺自身は別に何もいらないが、ここで無報酬だと功績に対して何もしない仕える価値のない上司だと思われてしまう。

仕事でもなんでもそうだが、いい働きをしたものには報いなければ人はついてこない。


 そんなわけで、俺は何か報酬をもらわないといけないのだが……ぶっちゃけ欲しい物ないんだよなぁ。

金もいっぱいあるし、装備は十分すぎるほど整っている。

正直俺に報酬を渡すくらいなら被害にあった村々に補填を……あ、そうだ。


「では、今回の盗賊によって溜め込んでいた金銭を、いただけるだけいただきたいですね」

「ほう、もらえるだけ、か。なかなか強欲だな貴殿も」


 そう言いつつ隊長は笑っている。

この願いのキモはもらえるだけ、である。

普通に聞くとただがめついだけに聞こえるが、実際には金額設定を相手に譲っている。

例えばこれで一ソルしかもらえなかったとしても、「これしか出せない」と言われればもらえるだけ、としか言わなかった俺は何も言えない。

いや言おうと思えば今回の収益などの目算を出して正当な報酬をもらえるだろうけど、そんなつもりは一切ない。


 そして、俺が願う報酬はこれだけじゃない。


「それと、もう一つお願いがあるんですがよろしいですか?」

「もちろん聞こう」

「では今回の私の報酬、全額被害にあった村への支援金とさせていただきたいのですが」

「……全額、ですと?」

「ええ、正直もう収納袋がいっぱいでお金が入らないんですよ。持ち歩けないとなれば、パーっと使ってしまうべきでしょう」

「それで、村の支援に?」

「ええ、いただけるだけの金銭、そしてそれを支援金として使う。これが俺の求める報酬です」

「くく……はっはっは! 本当に変わった御仁だ。いいだろう、貴殿の望む報酬、しっかりと我が主人に伝えよう」


 ……よかった。なんとか通った。

これでもしも無理矢理金を持たされたら、被害のあった村を一箇所ずつ回って寄付しなきゃいけないとこだったし、素直に応じてくれて本当によかった。


「では、主人からではなく私からのお礼として、これをお渡ししよう」

「……メダル?」


 隊長に渡されたのはエドワード氏からもらったものによく似たメダルだった。

おそらく家紋と思われる紋章が違うくらいで、材質も大きさも同じだ。


「これと私、オリバー・ヌーロの名を出せばアポ無しでも騎士団の中でも上位の人間に会うことができるはずだ。貴殿たちの実力であれば必要ないかもしれないが、騎士団の力が必要な時はいつでも使ってくれ」


 ほう、つまりエドワード氏のメダルの上位互換か。

いや、たぶん一緒に出せばさらに信頼度が上がるだろうから完全に無駄にはならないが。

まぁ、俺このまま行けばすぐにこの国出ちゃうし、使い所は無さそうだが。


「ありがとうございます。では、俺たちは急ぐのでここで」

「そうか、盛大に見送りたいところだが仕方ない。ーー全員整列! 勇敢なる冒険者三名に、敬礼!」


 隊長改めオリバー氏の声に合わせて、騎士団の面々が一斉に整列し、敬礼した。

流石正規兵、素早くて実に綺麗な動きだ。練度が高い。


「また会う日を楽しみにしてるよ、サクヤ殿」

「ええ、こちらも」


 そう言って握手を交わし、俺たちは再び旅に出た。










「しかしよかったのかよご主人? マジで何にも貰わなくてさぁ」

「いいんだよ、金ならいっぱいあるんだし、だったら困ってる人のところに行った方がいいだろ」

「まぁそりゃそうだけどさぁ」


 ちょっと不満げなニーナの言葉を躱す。

そもそも俺たち三人の全財産を合わせれば一億と少しほどの金になる。

これだけ金があるのに、困窮してる人たちを見捨ててさらに金をもらう必要はないだろう。


「まったく、サクヤさんの人の良さにも困ったもんすね。完全にタダ働きじゃないっすか」


 人がいい奴はムカついたからって正当防衛誘発して斬り殺したりしないんじゃないかなぁ。

まぁ、それはさておいて。


「報酬が欲しけりゃ俺が払ってもいいぞ。なにがいい?」


 まぁ、確かに俺がタダ働きなのは納得しているが、二人がタダ働きを納得していないと言うのなら俺が報酬を払うというのもやぶさかではない。

一応俺がパーティリーダーで雇用主みたいなもんだからな。


「あ、じゃあ馬買いましょう。結構楽しかったんすよねぇ乗馬」

「ダメだ馬だけはダメだ」

「即答!? いやサクヤさんが乗れないのは分かってますし、後ろに乗れば……」

「ダメ! 馬ダメ、絶対!」


 一日半ココの後ろに乗ってただけで精神力があれだけ削られたのだ。

日常的に乗ったりなんかしたら吸血鬼としてではなく男として暴走してしまう。


「えー、いいじゃないっすか買いましょうよ馬ー。お世話ならあたしがしますからー」

「ダメダメ絶対ダメだ! 馬だけは本当にダメだ!」


 そんなやりとりをしながら、俺たちは獣王国へ向けて歩みを進めるのだった。





書き溜めが尽きました。

申し訳ありませんが今後は不定期更新となります。

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