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「……なにを仰っているのか、よくわかりませんな」

「言葉通りの意味ですよ。この盗賊騒ぎはあなたが仕組んだこと、ギーラス伯爵と盗賊の繋がりは偽装です」


 俺はすっとぼけるラドーン伯爵の目の前に、この二週間で調べ上げた結果が記された書類を叩きつけた。

そこにはギーラス領の兵士が使う装備が何重にも人を介して輸入されていること、どこから湧いてきたのかわからない、おそらくは盗賊が奪ったであろう金銭が、こちらは堂々とギーラス領へ運び込まれ、そして同価値の装飾品などになって今度は隠蔽に隠蔽を重ねてラドーン領に運び込まれていること、その他諸々の証拠が記載されていた。


「いやぁ、大変でしたよ、ここまで調べ上げるのは」

「な……なんだこれは、こんなもの、私は知らない!」


 俺が叩きつけた資料を食い入るように見ながら、ラドーン伯爵はそういう。

けど、ネタは上がってるんだよなぁ。


「いいえ、それは写しですが、確かなものです。証拠に、複数人の証言と状況証拠、その他物証などについてもまとめてあるはずですが?」

「……なぜだ、一体どうやって」

「なに、ちょっとしたツテと裏技ですよ」


 ツテとは、エドワード氏のことだ。

もちろん彼は遠く離れた帝都にいるので頼れないが、俺には彼からもらったメダルがある。

これを使って俺はギーラス領の騎士団から装備の横流しの有無や、盗賊のフリをするために不自然に長い任務などで長期間離れている兵士がいないか調べた。

結果……数人のスパイがいたが、ギーラス伯爵は白だと断定できた。


 そして裏技とは……裏ギルドだ。

裏ギルドとは、この帝国における犯罪組織などを統括しているまさしく悪の組織だ。

とはいえ、彼らのおかげで無用な被害が抑えられている面もあるし、なんなら金を払えば盗賊を抑えてくれたり、情報を売ってくれたりと便宜を図ってくれたりもする必要悪と言える存在だ。

そしてウチには、裏ギルドとの繋がりがある奴がいる。


 そう、ニーナだ。


 ニーナは盗賊時代に何度か裏ギルドの勧誘を受けており、その時の連絡手段が生きていた。

あとは裏ギルドの情報屋に渡りをつけて、金に物を言わせて情報を買った。

裏ギルドには犯罪者同士の情報網があり……今回の件のような場合は非常に有用だった。

……まぁ必要悪とはいえ犯罪者とはあまり関わりたくないので、できることならこれっきりにしたいが。


 俺が叩きつけた資料を食い入るように読み漁るラドーン伯爵が、ありえないようなものを見る目で俺を見てきた。


「馬鹿な……なぜだ、普通に考えたらギーラスを疑うはずだ、そう仕向けた! なぜ私を疑った!?」

「なぜって……ねぇ?」


 そう言いつつ、収納袋からとあるものを取り出す。

それは氷の塊だ。ただし、中身入りだが。


「ほいっと。そいつが話してくれましたよ」

「これは……ひ、ひぃっ!? は、ハインス……!?」


 そう、投げ渡したのはクロードの首だ。

腐敗を防ぐには氷漬けにするしかなかったのだが……余計猟奇的に見えてしまった。

……だが、今の反応を見れば丸わかりだろう。


「ほう、本名はハインスでしたか。彼が全て話してくれましたので、私は調べたのですよ」

「馬鹿な……馬鹿な! コイツがしゃべるなどありえない! どれほど拷問に対する訓練を積ませたと思っている!?」

「……ラドーン伯爵、Aランク冒険者をあまり甘く見てもらっては困りますな。拷問などせずとも、情報を吐かせる手段を持ってて当然でしょう」


 いや、他のAランク冒険者が持ってるかは知らんけどね? こういうのはハッタリだ。


「それに伯爵……随分と死体に慣れてないご様子ですな? 武闘派で有名なギーラス伯爵ならこうはならんでしょう。帝国騎士団元帥、アレクシス・サンダース将軍の派閥であり、彼の信頼の厚いギーラス伯爵であれば」


 ……そう、そもそもギーラス伯爵がこのような姑息な策を仕掛けるはずがないのだ。

なんせ、ギーラス伯爵の上司であるサンダース将軍は帝都でグドンという商人におま罪したとき、グドンと癒着していた貴族を即刻処刑するほど、潔癖とも言えるほどの清廉な人物だ。

もしも今回のようなことをしてバレたとなれば、一族郎党処刑されてもおかしくない。

そんなリスキーな手段を取るほど、ラドーン領との争いは逼迫していないし、万一内紛になったとしても勝てるだけの戦力を持っている。


 そんなわけで、ギーラス伯爵がアレクシス・サンダース将軍の部下であるとわかった時点で完全に容疑者からは除外され、あとはクロード……いやハイリスだったか、奴から催眠の魔眼で聞き出した通りラドーン伯爵が黒幕であると俺たちは判断し、それに基づいて情報を集め、裏を取った。


「今俺の仲間が騎士団に掛け合い、ここへ向かっています。……終わりですよ」

「馬鹿な……馬鹿な! いくらAランク冒険者と言えど、騎士団がそんなに早く動けるはずがない!」

「俺の師匠は帝都のギルドマスター、グライン・アルバート。そしてAランク冒険者という実績に加えてこれだけの証拠……騎士団が動くには十分だと思いますが?」


 ……ごめんグラインさん。また名前借りちゃった。

便利すぎるんだよなぁ、グラインさんの弟子っていう立場。

さて、追い詰め終わったところだし、アレ言っときますか。


「ここまでですよ、ラドーン伯爵。……さぁ、お前の罪を数えろ」

「……まだだ、まだだ! 貴様を殺し、証拠を隠滅すれば、まだ私は生き残れる」

「へぇ……?」


 まぁ、たしかに物証はごくわずか、証言と状況証拠しかない。

これでは日本なら起訴まで持っていけないかもしれないが……ここは異世界、日本ほど厳格な法律が定められているわけではない。

論理的に破綻していなくて、誰もが納得できる証拠と理論を展開できれば犯罪者として裁くことができる。

だから、その理論が頭に入っている俺を殺して状況証拠をもみ消してしまえば、加えて証言者に金でも握らせて黙らせることができれば、たしかにラドーンは生き残れるかもしれない。


 けど、前提が間違ってるんだよなぁ。


「俺を、殺す? これはこれは、面白い冗談だ……やってみろ」


 一気に溜めていた魔力を放出する。

魔力そのものは質量を持たないが、魔法にならない程度のイメージを込めた魔力はある程度相手の精神に作用する。

今回であれば……俺の怒りによる、威圧と言ったところか。


 ……そう、俺は怒っているのだ。


「……私兵を盗賊として働かせ、それを憎い相手に濡れ衣として着せて、さらに守るべき下々の民たちを傷つけ、苦しめる……俺はなぁ、ラドーン伯爵よ。お前みたいなのが一番嫌いなんだよ」

「ひ、ひぃ!! 衛兵、衛兵はどうした!?」

「無駄だよ、全員眠ってもらった」


 俺とて罪のない人間を傷つけるつもりはない。コイツにアポを取ったときからこの展開に備えて、毎晩屋敷に忍び込んでは衛兵から使用人に至るまですべての人間に暗示をかけている。

俺の魔力を感じたら、意識を失うという暗示だ。

そして今、俺の魔力は屋敷全体を覆うほどの量が放出されている。


「どうした? 配下がいなきゃ俺一人殺せないのか?」

「くっ……ナメるなぁ!!」


 ようやく腰の剣を抜き、俺に切りかかってくる。

この時点で、俺には正当防衛の権利が与えられた。


「ありがとさん、単純な性格で助かったよ」

「なんっ……!?」


 とはいえ、ただ剣を抜いただけでは弱いので、一撃は食らっておく。

ラドーンの剣が左肩を斬り、骨で止まる。

……まぁ、予想はしてたがこの程度か。


「これで正当防衛成立だ、疾く死ね」

「がはっ……!?」


 居合のように紅椿を振るい、ラドーンの首を刎ねる。

驚愕の表情で宙を舞うラドーンの首に向けて親指を下に向け、言ってやる。


「さぁ、地獄を楽しみな」


 ……なんかセットで使うこと多いなぁこのセリフ。





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