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1-04

 そんなこんなで煩悩に耐えながら馬に揺られること1日と半分ほど。

俺たちはようやく盗賊たちのアジトがある山へとたどり着いた。


 ……いやぁ、煩悩は強敵でしたね。

馬上は当然揺れるから、馬が歩くたびにココのおっぱいが俺の腕に当たって……貧乳派の俺でこれなのだ。普通に巨乳好きだった耐えられなかったんじゃないかな。


「ご主人、疲れ切った顔してるけど大丈夫か?」

「ああ……問題ない……」

「問題しかない顔してるけど……まぁいいや。それで、どうやって盗賊を探すんだ?」


 ニーナの疑問は当然だろう。

馬というアドバンテージを使って素早くここまでたどり着いたが、アジトの捜索に時間をかけては元の木阿弥だ。

しかもこの山、かなりでかい。

普通に探したら一日や二日では足りないだろう。


 だが、ここで活躍するのが俺だ。

決してココの後ろに座って欲情してるだけの男ではないのだ。


「俺が匂いで探す。能力の大半は封じられたが、嗅覚なんかの感覚は元のままだからな」

「あー、サクヤさん匂いに敏感っすからねぇ」


 正確には人の匂いに敏感なのだ。

吸血鬼は人間を獲物にしていた都合上、人間相手には感覚が強く働く。

嗅覚などは代表的なものだろう。かつて多くの吸血鬼が匂いで獲物である人間を追い、吸血してきた。


 ……まぁ、その副産物として、さっきまでの二人乗りのようにいい匂いを感じてしまうと敏感に反応してしまうのだが……。


「今も盗賊らしき匂いは感じている。これを追えばアジトまで辿り着けるはずだ」


 正直野郎の臭いな上に水浴びも碌にしてないのかかなり不快な臭いなのだが……依頼を達成するためだ、我慢しよう。

……時々ココかニーナの匂いを嗅いで口直しならぬ鼻直しするかな。


「よし、行くぞ」


 そうして、俺たちは山の中に入っていった。











「意外とあっさり見つかったな」

「いや、あっさりって言えるような道のりじゃなかったんすけど……」


 まぁ、確かに普通なら厄介な……というか殺意高めの罠がいくつも仕掛けられていたが、引っ掛からなかったのだからあっさりで間違いなかろう。


 やつら、自分の臭いを消してないから罠にも臭いがついてた。

偽装はかなり上手かったが……俺の嗅覚によって、一つも引っ掛からずにここまで来れた。


 そうしてたどり着いた先には、そこそこ大きな洞窟を盗賊が出入りしている。

いくら罠があるとはいえ、不用心にも程がある。

まぁ、おかげでこうして発見しやすかったわけだが。


「で、どうすんだご主人? 仕掛けるのか?」

「……いや、満月の晩を待とう。クロードとやらも捕まえたい」


 いくら順調だったとは、流石に距離があったので既に日は暮れている。

夜闇に乗じて奇襲を仕掛けるにはうってつけだが……ここは待ちだな。


「クロードとやらが本当にこのあたりの盗賊の元締めなら相当慎重なはずだ。何らかの方法でこのアジトを監視している可能性もある」

「なるほど、クロードに怪しまれないよう、できる限り奴らには普段通り過ごしてほしいってわけっすね」

「そういうこったな。というわけで待ちだ」

「けど、奴らが村に来た連中が戻ってこないことを不審がったらどうすんだ?」

「その場合はアジトを変える前に叩く。クロードの確保はあくまで第二目標、第一目標は盗賊の撃退だからな」


 そんなわけで、俺たちは盗賊のアジトから少し離れたところに野営することにした。

え? そんな近くで野営してバレないのかって?

まぁ、普通ならバレるだろう。

だが、ウチには普通じゃ済まない腕の魔法使いがいる。


 そんなココが作ったテントがこちら。

ニーナの頭巾同様隠蔽魔法の術式が組み込まれ、さらに幻影魔法によって周囲の痕跡を悟らせない逸品だ。

こいつがあれば魔物避けも必要ないし、こうして隠密性を保ちながら野営することもできる。

ちなみに二人用と一人用の二つある。流石に男女で分けないわけにはいかんだろう。


 と、このような便利グッズであるが、やはり見張りを立てないわけには行かない。

俺たちへの襲撃の警戒はもちろんのこと、今回は盗賊も見張らないといけないのだ。

というわけで、俺たちは山菜などで腹を満たしつつ、盗賊のアジトを見張っていた。


「なぁご主人、そろそろ三日くらい経つけど、血飲まなくて大丈夫なのか?」


 食事の最中に、ニーナがそんなことを言った。


「え、あー、そうだな……まだ大丈夫だと思うが」


 ……俺は今能力を封印され、限りなく人間に近づいている。

しかし俺が吸血鬼であることは代わりない。

こうしてココが作ってくれた美味しいご飯も栄養にはなるが、やはり血液を摂取しなければ生きていけない。


 ……ニーナにはこう言ったが、実際結構ギリギリだ。

いくら食っても空腹感がおさまらないし、どんなに水を飲んでも喉の乾きは癒えない。

そろそろ血液を飲めと体が訴えてくるが……正直言って、飲みたくない。


「大丈夫じゃないでしょう。ニーナちゃんが心配するくらいサクヤさんの顔色悪いっすよ」

「ココ、見張りは?」


 と、そこで見張りをしていたココが話に入ってきた。


「連中、もう寝たんすよ。それよりサクヤさんのことっすよ。ほら、今から出すんで飲んでください」

「いや、その……ああ、わかった」


 ……たしかに、今飲まないといざというとき動けなくなってしまう。

飲まないという選択肢はない。


「っつ……」


 ココがナイフを使って、手首を切る。

溢れ出た血液をマグカップに注いでいく。

……血液操作が使えないから、こうして大きな傷を作らないと必要な量の血液が採取できなくなってしまった。

もちろん回復魔法で治るが……仲間の身体を深く傷つけなければ生きていけない自分が嫌になる。

そして……そうして搾り取られた血液を美味そうだと感じてしまう自分に、吐き気がする。


「……ふう。はい、サクヤさん」

「ああ……悪い」


 しかし、飲まないわけにはいかない。

受け取ったマグカップに口をつけ、ココの血を飲む。

ああ……美味いんだよなぁ……これ。

けど、そんなふうに感じる自分に、本当に嫌悪感を覚える。


 ……なんで、俺はこんな食事をしなきゃいけないんだろう。

傷つけて、血を飲んで……。

……そうまでして生きている意味って、あるのかな?

だって、俺は……。


「サクヤさん? 大丈夫っすか?」

「へっ? あ、ああ、大丈夫だ。血も飲んだしバッチリさ」

「それならいいんすけど……」


 ……いけない、心配をかけてしまった。

これはよくない。二人にはいつも通りでいてほしい。

そんな一心で、俺は心配するココとニーナを躱しつつ、吐き気を堪えながら残った血を飲んだ。











「ふう……」


 ようやく治った吐き気に安堵しながら、俺はぼんやりと盗賊のアジトを見張っていた。

完全に眠っているようで、見張り役以外動く気配がない。


 俺たちも盗賊同様、野営で寝る際は見張りを立てている。

大体ココ→俺→ニーナの順だ。

正直ニーナは子供だから寝てて欲しかったのだが……本人の強い意向もあってローテーションに組み込んである。

ニーナとココの順番はちょいちょい入れ替わるが、俺が真ん中なのは固定だ。

三人のローテーションで一番辛いのは真ん中だからな。

だって寝てるところを起こされて見張って再度寝るのだ。途中で起こされてずっと起きてるならともかく寝直さなければならないあたりが結構辛い。

かといって寝直さず起きてると余計辛いというね。

だからこそ俺が買って出たわけだが。女性陣にはやらせられないよ。


 そんなわけで眠い目を擦りつつ見張りをしていると、ガサゴソと女性陣のテントから音がした。


「ココ……眠れないのか?」


 出てきたのは、さっきまで見張りをしていたココだった。


「ええ、その……サクヤさんが心配で」

「俺? 俺の何が心配なのさ?」


 ぎくりとしながらも、俺はしらばっくれる。

だが、ココは確信を持った目で言った。


「サクヤさん……今、自分のことが嫌いになってますよね? 正確には……吸血鬼である自分が」


 ……まったく、こいつには敵わないな。





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