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それからギルドにて、村長が俺に指名依頼を出し、俺がそれを受けるという形で盗賊退治の依頼は受理された。
面倒だがこうやってギルドを介さないと規約違反になってしまう。一回二回なら口頭注意で済むが、三回目以降はランクダウンなどの重い処罰となる。
まぁ、ギルドは仲介料で儲けているわけだから当然といえば当然のルールだ、守れるときはしっかり守っておこう。
「では、報酬は小麦一袋と盗賊が蓄えてるであろうお宝全部ということで」
「あの、本当に我々からの報酬はよろしいのですか?」
依頼書を受け取った俺の言葉に、村長は改めて問い返す。
まぁ、当然の疑問だろう。
なんせ盗賊がお宝を蓄えているかなどわからないのだ。運が悪ければ全部使い終わったあとに攻め込んで、何もないなんてこともありうる。
しかし、かといってこの困窮した村に報酬を求めるのは酷だ。それこそ小麦一袋だって厳しいだろうに。
とはいえ無報酬で働くわけには行かない。これは俺たちだけではなく、冒険者全体の沽券に関わるものだ。
……たとえるなら、凄腕の職人が無報酬で何かを作ったとしよう。
すると同じ仕事をしている他の職人にも無報酬での依頼が入ってしまう。
あの人はやってくれた、なのになんであなた達は金を取るんだ、といった具合だ。
特例を認めてしまえばそれに漬け込む輩が必ずいる。だからこそ特例は基本的に認められないのだ。
今回も、もしも無報酬でやってしまえば、困っているなら冒険者はただで動いてくれると思われてしまう。
表面上はそう思わなくとも、深層心理で思い込んでしまうものだ。
そうなると同じことが起きたとき、同じように無報酬で頼ろうとしてしまう。
そしてその時頼られるのは俺たちではなく他の冒険者だ。
つまり、ここで無報酬で依頼を受けてしまえば他の冒険者に迷惑がかかってしまうわけだ。
そんなわけで俺たちは報酬をもらわないわけには行かないし、かといって村は困窮していて金が出せない。
そんなわけで今回の場合は、俺たちが倒した盗賊が持っていた金品すべてを一度村へ返還し、その後俺たちへ報酬として支払われるという形にした。
こうすれば俺たちは報酬がもらえて冒険者のメンツを守ることができて、村は無用な出費を抑えられる。
互いに角が立たず、丸く収まるいい方法だ。
……盗賊が金品を持っているかはわからないという点を除けば。
まぁ、最悪奴らの装備でも剥ぎ取って売ればそれなりの金になるだろう。盗賊にしてはいい装備持ってたし。
「まぁ、こちらは余裕がありますから。特別サービスってやつです」
「ありがたい……もはやここまでかと思っていましたが、まさかあなた方のような冒険者が現れるとは……神の思し召しですな……」
……神、ねぇ。
そういやこの世界の宗教ってどうなってんだろ? まぁ、そこまで興味もわかないが。
神様ってやつがいるなら、そいつはきっとかなり底意地が悪い。
だってそうだろ、でなきゃなんで品行方正に生きてきた俺が異世界まで来てこんなに苦労せにゃならんのだ。
おまけに力は暴走するしそのせいで能力は封印しなきゃだし……うごごご……なんか考えてたら腹が立ってきた。
もしもいるなら、そして会えたなら、俺は神様ってやつを一発殴る。いや一発じゃ足りねぇ、タコ殴りだ、オラオラだ。
「ふー、ふー……」
「おお、なんと闘志に満ちた表情……ご武運をお祈りしております」
ああ、神様相手に健闘する俺を祈っててくれ!
まぁ、神をぶん殴る前にまずは盗賊をぶん殴らなければならない。
しかし、村人も盗賊がやってくる大体の方角はわかるが、詳しいアジトは知らないという。
そりゃまぁ、武力を持たない人間が盗賊のアジトを見つけるなんて自殺行為に等しいからな。
さて、では俺たちはどうやって盗賊を潰しに行けばいいのか。
答えは単純明快、知ってるやつから聞き出せばいい。
誰が知ってるのかって? そりゃもちろん盗賊本人だ。
聞けば盗賊共は週に一度、武力を背景にこの村から金品と食料を巻き上げていく。
おとなしく出せば手出しはしないが、抵抗すれば容赦なく殺される。
これでもう五人は殺されたとか……南無三。
そんなわけで、俺たちは盗賊に渡す物資の影に紛れ、奴らがやってくるのを待った。
するとしばらくして、馬の蹄の音が響いてくる。
……やはりおかしい。馬は高級品だ、日本で言うところの車や高級バイクに等しい。
戦闘に使える馬ならなおさらだ。戦闘時に怯えないよう専門の調教が必要だし、維持にも金がかかる。
とてもじゃないが盗賊の手に負えるものじゃない。
「へへっ、ようやくおとなしく渡す気になったか」
「ああ、だから村人には手を出さないでくれ……」
どうやらリーダー格の男が馬から降りて村長に話しかけているようだ。
「ああ、おとなしくしてるならなにもしねぇさ。おい、運び出せ」
「へい」
そういって部下が荷物を運び出していく。
……仕掛け時だな。
ハンドシグナルで戦闘開始の合図を出す。
「フレイムボルト!」
「ふがっ!?」
先駆け一発、ココの炎の矢が荷物を持っていた盗賊の頭に直撃する。
……荷物に火がつかず、それでいて即死を狙える狙撃……相変わらずいい腕だ。
「シッ!!」
「がはっ……!?」
「かひゅっ……!?」
ニーナもまた建物の影をうまく使い、隠蔽魔法で盗賊たちを狩っていく。
「な、何だっ!?」
「おっと、お前の相手は俺だ」
「ぬぐっ!?」
紅椿を抜き、リーダー格の男に斬りかかる。
「コイツは生け捕りにする。ほかは殺ってよし!」
「了解っす、今宵のあたしは血に飢えてるっすよぉ」
「いや、お前の殺し方じゃ血ぃ出ないだろ。燃やしちゃうんだから」
ココとニーナはスイッチがはいったようだ。ああなると躊躇なく人を殺せる。
まぁ、かく言う俺もそのスイッチがはいってるんだが。
なんせ今の俺は弱っちい。殺す気でかかるくらいで程よく半殺しにできるだろう。
コツは相手を人間と思わず、人間型の魔物だと思うこと!
「ぬっ……ぐっ!? テメェら冒険者か!?」
「おうともよ! 依頼に従ってテメェらをぶっ潰す!」
そう言うと同時に準備していた氷雪魔法を発動。
ふっふっふ……今回は魔力を練り上げる時間がたっぷりあったからな、強烈なの行くぜ。
「氷雪魔法……氷雪波!!」
「なっ……体が、凍って……!?」
俺の手のひらから展開した魔法陣から、強烈な冷気と雹、そして雪が放出される。
これぞ現在の俺が扱える最強魔法、氷雪波。
大寒波を手のひらサイズに圧縮し、一気に放つ魔法だ。
その寒波は強烈で、人なら数秒で凍りつく。
さらに、たとえ凍結できずとも突風によって飛んでくる雹が弾丸となり、相手を蜂の巣にする凶悪魔法である。
ただ、欠点があって……。
「寒っ!! 寒いっすよサクヤさん!」
「ご主人、もう少し出力落としてくれ!」
……この寒波、当然対象の後ろまで貫通するので、今のように放つ位置取りを考えないと仲間まで巻き込んでしまう。
まぁ、二人は、というか俺もだが、ココ特製の火属性のお守りを持っているのでめっちゃ寒い程度で凍ることはないのだが。
で、当然そんな物を持たない盗賊のリーダーは、頭を残して全身が凍りついた。
加えて今は凍って傷がふさがっているが、雹で全身を貫かれているので長くは持たないだろう。
「さて、生け捕り完了。そっちはどうだ?」
「あと一人っすよー」
「いや、今片付いたぜ」
さすがココとニーナ、仕事が早い。
「さてと、それじゃあ洗いざらい吐いてもらいますかねぇ」
俺は目を光らせながら、凍えて声も出せない盗賊のリーダーを見つめた。