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おまたせしました、再開します。

今回から第二章となります。

 帝都を旅立ち、二週間が過ぎた。

今の俺達……というか俺はといえば。


「ぐっ……ぬううっ!」

「ヒャッハァ!! どうしたそんな剣じゃ俺を斬れないぜぇ!?」


 ……絶賛、盗賊に苦戦していた。

襲ってきた盗賊は十人ほど。すでにココとニーナがもう三人ずつ片付けている。

だというのに俺はといえば、この世紀末モヒカンみたいな盗賊相手に手こずりまくっていた。


「クッソ!!」

「ヒャア! ぬるい、ぬるいぜお坊ちゃん!! おとなしく金とその剣を置いてきゃ殺しはしないぜぇ!?」

「お断りだ!!」


 そういって剣を振るが……我ながら眠たくなるような剣筋だ。

とてもAランク冒険者が振る剣ではない。


「クソッ……封印さえなければ……」


 ……今の俺は素の能力はほぼ人間並、身体強化の倍率はおおよそ半分、血液操作を含む吸血鬼の能力は全て使えなくなっている。

実力はおおよそCランク上位からBランクに手が届くかと言ったところで、かなり弱体化している。

おかげで紅椿が重いこと重いこと……まぁ、これであの恐ろしいフェンリルフォームが抑えられるのなら文句はない。

文句はないが……やっぱり情けない。


 とはいえ、今まで積み重ねてきたものが全て失われたわけではない。

グラインさんとの修行があったからこそ、ここまで弱体化しても剣を振るえるわけだし、研鑽を重ねた魔法は、今でも使える。


「準備完了……凍れ!」

「ひゃっ!? 足が、凍って……!?」


 ……発動までここまで時間がかかってしまったが、それでも氷雪魔法は使えている。

氷血術ほどの自由度はないので氷血鎖のように鎖状に縛り付けることはできないが、行動を封じるだけなら足を凍らせるだけで十分。


「終わりだ!!」

「うわらばっ!?」


 ……足に気を取られている隙に、盗賊の首を刎ねる。

……人殺しは、もう慣れてきた。

なんてったってもう六回目の襲撃だ。最初は殺さないよう気をつけていたが、どうせ盗賊は死罪。生かしておいても飯代がかかるし人数が増えれば移動速度も落ちる。

そんなわけで、淡々と始末していった結果、随分と慣れてしまった。

……いや、そんな感傷はどうでもいい。


「ココ、ニーナ、他の盗賊は!?」

「もう片付いたっすよ」

「ご主人が始末したのが最後だ」

「あ、そ、そうっすか」


 ……これは、マジで封印された状態でも戦えるように鍛え直さないと。






「おお、ありがとうございます。おかげで助かりました」

「いえ、乗りかかった船……ではなく、乗りかかった馬車ですから」


 俺は、盗賊に襲われていた馬車の御者とそんな会話をした。

ていうか、俺たちはこの乗合馬車の客だ。

どうも俺の吸血鬼性が封印されたことに寄って馬が怯えることもなくなったので、馬車で移動しようと言う話になり……乗合馬車に乗って移動していたら盗賊に襲われ、応戦したというのが先程までの状況だ。


 まぁ、要するに自衛なので、お礼を言われるようなことはなにもない。


「にしてもこのあたりは盗賊が多いですね……騎士団は何やってるんですかね」

「どうにも厄介な盗賊がこのあたりを根城にしているようでして……騎士様も攻めあぐねているようです」


 ほーん、厄介な盗賊ねぇ。

確かに連中、盗賊にしては装備も良かったし栄養状態も悪くなさそうだった。

つまり装備を整えられて、食っていけるだけのなにかがあるってわけだ。


「……まぁ、俺には関係ないか」


 さしあたっての俺たちの目標は、帝国からの脱出だ。

早いとこ出ていかないと俺を狙う追手がやってきてしまう。

当面の目的地である獣王国は帝国と仲が悪いそうなので、そこまで行けば安全だという話だが……。

……ともあれ、盗賊にかまっている余裕はない。

襲ってくるなら返り討ちにするが、わざわざ潰しに行くようなことはしない。

どうせそのうち騎士団がやってくれるだろうしな。


「それじゃあ、出発しましょうか」

「ええ、お願いします」


 そんなわけで、俺たちは再度馬車に乗り込み、出発した。







「お、おお、貴方様方はAランク冒険者なのですか!? では、ぜひ盗賊の討伐依頼をお願いしたい!」


 知 っ て た。

うん、もう、ね。御者から話を聞いたあたりで察してたよ。

厄介な盗賊に悩まされる村にやってきたAランク冒険者。

そりゃ頼られない方がおかしい。


 いやね、俺たちも好きで身分明かしてるわけじゃないんだよ。

ただ村の入り口には衛兵がいて、入るには身分証が必要。

そして俺たちの身分証はギルドカードしかないわけで……まぁ、こうなるわけだ。

もうすごかったよ、カード見せた瞬間衛兵がものすごい勢いで村長を連れてきて、この状態となった。


「もちろん報酬は出します! 盗賊に奪われたせいで蓄えは少ないですが……言い値でお支払いいたします! 何年かかっても必ずお支払いいたします!」


 いや、その、めっちゃ重いんですけど……。

いいよ無理に支払わなくて。蓄えないって言ってんじゃん。

今冬だよ? 蓄えないのにAランク相応の金額支払ったら冬越せないよ?


 ……ていうかそれ以前の問題として。弱体化している今、こんな厄介な依頼受けたくないんですけど。

いや、ココとニーナがいればどんな盗賊だろうと問題ないだろうけどさぁ。

さすがに男としてこれ以上の醜態を晒すのは辛いものがあるというか……。


 ……とはいえ、なぁ。


「お願いします! どうか、どうか!」


 ……自分より遥かに高齢な村長にこうも頭をさげられると、断りづらいといいますか。


「……ココ、ニーナ。どうするよ?」

「アタシはご主人に従うぜ」

「うーん……今後もこの周辺で活動するなら後顧の憂いは断っといたほうがいいと思うんすよね。やったほうがいいかと」


 ……ココは乗り気、ニーナは俺に判断を任せた。

じゃあ、俺の結論は……。


「……はぁ、わかりました、お受けしましょう」

「ほ、本当ですか!? 良かった……よかった……」


 村長さんが安堵したように膝をつく。

あー、うん、こりゃ相当な被害を被っていたようだな。

実際俺らも六回も襲撃にあったわけだし、こうして村を抱えていたら被害もひとしおだろう。


「そ、それでは報酬として今ある金品全てと、特産品の小麦粉をご用意いたします!」

「ストップ、ストップです村長さん。我々は引き受けると言っただけで依頼を達成したわけじゃないんで報酬はまだいりません。それに村を飢えさせるわけにもいかないので、金額は要相談ということで」


 いかん、この人本気だ。

ちょうどいい落とし所を見つけないとマジで有り金全部渡してきかねない。

正直、金は十分すぎるほどあるのだ。見ず知らずの村とはいえ、飢えさせてまでほしいものではない。


 ……ああ、でも特産の小麦って気になるなぁ。

美味しいなら少しもらっておきたい。

やっぱり美味しいものは正義だよ。

旅の間は味気ない携帯食料ばっかだし、少しは潤いが欲しい。


「では、ギルドで詳しい話を伺いましょうか」

「ええ、ええ。こちらになります」


 俺たちは村長に案内されるまま、村の冒険者ギルドへと向かった。




第二章は短めの予定です。

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