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4-14

 嫌な夢を見ていた。

突然体が言うことを聞かなくなり、あの忌々しい吸血鬼狩りを八つ裂きにして…………奴の、肉を、貪る夢。


 そして、そのままココたちに襲いかかり、殺しそうになってしまう夢。


「うっ……うう……っはぁ!」

「あ、目が覚めたっすよニーナちゃん!」

「本当か!? ご主人……よかった」

「本当っすよ……このまま目覚めなかったらどうしようかと……」


 気がつくと、ココとニーナが抱きついてきた。

え、なにこれハーレム? ……いやそうではなくて。

俺が目覚めた場所は宿屋ではなく、吸血鬼狩りと戦っていた場所で……ココもニーナも、ボロボロだった。

決定的なのが、俺もまた服がボロ切れのようになっていること。


「なぁ、俺は……まさか、お前たちを襲ったのか?」

「……ご主人、覚えてねぇのか?」

「……ああ」


 ニーナの言葉が、決定的だった。

……マジ、か。

あの夢は……現実だった……?

仲間を……誰よりも大事な二人を、殺しそうになった?


「け、結果オーライって奴っすよ! 吸血鬼狩り以外誰も死んでないんすから、問題ないっす!」

「そうだぜご主人、あれがご主人の本意でないことくらいアタシらはわかってるから」

「でも、それでも、俺は……!」


 拳を地面に叩きつける。

すると、地面がひび割れた。

……また、吸血鬼としての力が上がっている。

あんな悍ましい力が、また……。


「サクヤさん、落ち着いてください」


 ココが、俺の手を取る。

……その温もりに一瞬落ち着くが、叩きつけた拳の傷があっという間に再生してしまうのを見て、また嫌悪感を感じる。


「サクヤさん、力は罪じゃありません。使い方さえ間違えなければいいんすよ」

「けど、俺は使い方を間違えた」

「でもあたしたちは生きてる。なら、もう間違えなければいいんす。学んで、次に活かしましょう」

「学んで次に活かす、か……」


 ……たしかに、どんなに嫌悪しても俺が吸血鬼である事実は変えようがない。

なら、いつまでもウジウジしてないで力の制御方法を探すべきだ。


「……よし、切り替えた」


 うん、そうだ。

いつまでも悩んでたってなにも変わらない。

またココとニーナを傷つけてしまわないよう、早急にあの姿……そうだな、便宜上フェンリルフォームとでも呼ぶか、あれを制御する方法を探さなければ。


「そうだサクヤさん、あの力について詳しそうな人一人知ってますよ」

「本当かココ」






 で。


「それで、私に聞きにきたってわけ?」


 俺たちは、気絶していたミエルをロープでぐるぐる巻にした上で起こして、そんな会話をしていた。

なお、ココとニーナによるボディチェックで全身くまなく調べており、凶器の類は持っていないことはわかっている。

魔法も、常にココが触れて魔力を乱しているので使えないだろうとのことだった。


 そんな状況だと言うのに、ミエルは不遜な態度で俺たちを見つめている。


「はん、なんで私が吸血鬼に情報をくれてやらなきゃならないのよ」

「命と引き換えなら、安いもんだと思うが?」

「なぁご主人、殺すよりこのまま飼って羽根売り捌いた方が良くね? 天使族の羽根って幸運のお守りとして高く売れるんだぜ?」

「へぇ、いいねそれ。翼が禿げ上がるまで毟るとしようか」

「ひっ、わかった。話す、話すから恐ろしい企みはやめなさい!!」

「あたし、お願いするなら口の利き方ってもんがあると思うんすよねぇ」

「お願いしますやめてください!」


 うーんこのガッカリ天使。見事なヘタレっぷりよ。

まぁ、話が早い分には文句はない。さっさと吐いてもらおう。


「で、でもその……私の知識にもないのよ、そんな暴走」

「……しらばっくれるなら羽根毟るか」

「ほ、本当に知らないのよ! 真名解放による意識の汚染で暴走する吸血鬼は見たことあるけど、血液の鎧を纏って意識が完全に飛んでしまう暴走なんて聞いたことない!」


 ……嘘を言っている様子はなさそうだな。

なら、俺のさっきまでの状態はなんなんだ? 吸血鬼狩りで、専門家であるはずのミエルでさえ知らないあの暴走……一体、俺になにが起こったんだ?


「一応、推測としては殺されかけた時に生存本能が働いて、潜在能力を全部引き出した結果、あまりの力に意識が飛んだというのがあるけど……意識が飛んだなら普通気絶するのよね。獣みたいな状態とはいえ、意識が飛んでるのに動き回るのはおかしい」

「まぁ、たしかに」


 俺の意識がないのに身体が勝手に動くなんて……まるで俺の中に全く別の意識があるみたいじゃないか。

……いや、つまり、そういうことなのか?

俺は今二重人格状態で、あの獣のようなやつが第二人格で、俺から身体の主導権を奪って暴れたと。


 ……いや、考えても仕方ない。

わからないものは仕方がない、とにかく今は原因の精査よりもあの暴走を二度と起こさないようにするのが先決だ。


「で、どうすれば俺は暴走せずに済む?」

「わからないわ……原因が掴めないんじゃ、対処のしようがない」


 ……まぁ、ごもっともだ。

やっぱり原因の精査は必要不可欠か……


「でも、ひとつだけ今すぐできて、確実に暴走を封じる方法が一つあるわ」

「……なに?」


 お前さっきできないって言ってたじゃん。


「あれはあくまで暴走だけを封印する方法がわからないって言っただけよ」

「……ん? 暴走だけ? ……ってことは、まさか」

「あら、察しが良くて助かるわ。……そう、あなたの暴走は吸血鬼の力によるもの、なら吸血鬼の力そのものを封印してしまえば、自ずと暴走も封印される」

「……なるほど」


 確かに道理だ。

ただ、問題がひとつ。


「ちょっ、そんなことしたらサクヤさんがどうなるかわからないじゃないっすか!?」


 これだ。

俺は生まれついての吸血鬼、その力を封印するとなると……よくて普通の人間に近い存在になり、最悪の場合は力ごと俺の存在が封印されかねない。


「大丈夫よ、私の封印ならある程度の吸血鬼の性質が残った人間に近い存在になるわ。例えば、傷の治りが早いとか、食事は血液じゃないとダメ、とかね」

「なるほど……それなら、まぁ悪くないな。よしやってくれ」

「ちょっ!? サクヤさん!?」

「ご主人! さすがに性急すぎだ! 封印の魔法と見せかけて陽光魔法撃ってくるかもしれねぇんだぞ!?」


 ううむ、そう言われてもなぁ。


「俺としては多少のリスクがあってもさっさと封印したいんだが」

「いやサクヤさん、これから旅に出るのに戦力激減させてどうすんすか!」

「そこはほら、お前たちがいるし」

「……私たち?」

「まぁ、情けないとは思うけどな、お前たちなら俺抜きでも戦えるだろ。だから守ってくれ」

「ほ、本当に情けないこと堂々と言いますね……」

「……けどまぁ、ここまで信頼されちゃ答えるしかねぇか」

「そういうわけだ。じゃあミエル、封印の魔法を――」

「わー! それは不意打ちの可能性があるので待ってください!!」


 で、結局俺たちは契約魔法のスクロールで契約を結び、不意打ちをさせないと言う方向で落ち着いた。


「さて、じゃあ行くわよ」

「よっしゃ来い」


 すると、ミエルから放たれた魔力が俺の足元で魔法陣として展開する。

それがゆっくりと俺の全身を包み込み……胸に集中する。

そして魔力が心臓付近で一気に収束し……全身が一気に重くなった。


「ぐうっ……! これが、力の封印か……」

「あら、意識を保っているなんてさすがね。これを食らった吸血鬼は大体気絶するのだけど」

「気合いと根性ってやつだよ……」


 言いながらも、立っているのがやっとだ。

これは……相当訓練しないとまともに動くのすら難しいぞ。

とはいえ……これでココたちを傷つけずに済むのなら安いものだ。


「じゃあ、あとは頼むぞ」

「はいはい、手紙の配達ね……まぁこのくらいはやってあげるわよ」


 そう、契約魔法にはもう一つの条件があった。

それが、俺の書いた手紙をグラインさんに届けてもらうこと。

本音を言えば面と向かって挨拶したかったんだが……吸血鬼狩りが全滅したと言うことを城の連中が知ったら、また追っ手がかかる。

その前に脱出しなければならない。

だから、俺たちはこれからすぐに旅立つ。

その挨拶として、手紙を書いた。



「それじゃあ頼んだ」

「ええ、そのうちまた会いましょう。今度こそあなたを殺すわ」

「二度とごめんだよ」


 そうして、俺はココたちの元に向かって歩く。

重く苦しい足取りが、まるで今の俺の心を示しているかのようだった。





これにて第一章は完結です。

このあと簡単なキャラ紹介をして一旦お休みをいただきたいと思います。

最長でも一週間後くらいで再開する予定です。

ブックマークしていただくと再開したらすぐわかるのでよろしければ。

ついでに評価もしていただけると励みになります。

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