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4-11


「ぬうん!!」

「んぎっ……らぁっ!!」


 とてつもない膂力で放たれた剣戟を何とか受け止め、押し返す。

まずい、マジで強い。

さっきまであったデカイ武器特有の隙の大きさを、腕力にものを言わせて消している。

しかも単純な体捌きも向上しているので付けいる隙がない。

普通、ただ身体能力をあげただけでは意識の方がついていかず、動きがメチャクチャになるはずなのに……コイツ、強化状態での体の動かし方を熟知している。


「なにが体がもたないだ……テメェ強化状態で散々訓練してんだろ!?」

「おや、分かりますか。しかし嘘ではありませんよ。単純に人体の強度の問題です。このまま戦えば、遠からず私の体は壊れてしまうでしょう」

「なら、それまで耐えきれば俺の勝ちだな」

「ええ、その通りです。……できるものならね」


 その言葉通り、奴の剣戟の速度が増していく。

落ち着け……真名解放を維持しつつ、ハイになったテンションをいつもの状態に戻せ。

記憶を戻したことで頭のネジが外れることは無くなったが、それでもテンションが上がっていつもより戦い方が雑になっている。

さっきの剣を受けた時もそうだ。いつもだったらあんな剣は真正面から受けずに受け流していたはず。


 いつもの思考回路を取り戻せ。

いやそれだけじゃダメだ、上がった力で思考能力も上げろ。

そうだ、今の俺の身体制御と魔力制御ならできるはずだ。

意識を研ぎ澄ませ、全身に神経を巡らせろ!


「……そこだ!!」

「ぬうっ!?」


 勝ちを確信している奴ほど油断して剣が甘くなる。

特にさっきまで優勢だったのなら尚更だ。

その一瞬の隙を突き、剣を滑り込ませて押さえ込む。

当然反発してくるが……。


「なに……なんだこの強化倍率は!?」

「あいにくだな……俺の強化率は変わってねぇよ!」


 ただ、状況に応じて強化部位を変えているだけだ。

……そう、身体強化技法の極意、あれだ。

今の全能力が強化された俺ならば、使いこなせる!


 剣を捕らえた状態で、俺はミドルキックの蓮撃を叩き込む。


「ぐっ……ぬ、おおおおお!」

「逃、が、す、かぁ!!」


 剣を引き抜こうとするゴレイヌを、ガッチリと捕らえる

十字架に腕が当たって白煙を上げる……が、構わない!

絶対に離さない、ここで仕留め切る!!


「うおらぁ!!」

「ぐはっ……!!」


 俺の蹴りが、ゴレイヌの身体を吹き飛ばし、奴が十字架剣を手放した。

……殺したくはない。だが殺さなければ勝てない。

魔剣の効果は手放したら消えるはず。

……やるしかない。奴を殺して、勝つ。


「はぁあああああああああ!!」


 裂帛の気合とともにゴレイヌに斬りかかり。


「勝ったと思いましたか?」

「なっ……!?」


 背後から声が聞こえたと思ったら、俺の右腕が宙を舞った。


「なん……で……」

「光闇複合属性、幻影魔法。相手に幻を見せる魔法です。剣を手放してからの私は全て幻……実際には剣を手放すことなく回り込み、あなたを斬ったわけです」


 ……幻影魔法。

そういえば、ココがニーナに教えていた。

けど、なんでこのタイミングで……? もっと効果的なタイミングはあったはずだ。


「この魔法は相手の気が緩まないと使えないんですよ。例えば……勝利を確信した瞬間など」


 ……勝ちを確信した奴ほど剣が甘くなる。

なるほど、見事にブーメランだったわけだ。


「終わりです」


 ああ、もうどうしようもない。

斬られた右腕は再生するどころか傷口が焼け焦げていってるし、何より剣が腕と一緒に吹っ飛んでいってしまった。


 氷血術は全て十字架剣の前には無意味。氷血晶も氷血界もノータイムで斬られて時間稼ぎにすらならないだろう。


 何より……真名解放の影響だろうか、身体がガタガタだ。

多分急速に上がった力に身体が耐えきれなかったのだ。

まさか、俺も奴と同じ欠点を抱えていたとは……笑えない。


 ああ、 剣が俺の首を刎ねんと迫る。

まるでスローモーションだ。

……ああ、死にたくないなぁ。

見たかったアニメだってあるし特撮ヒーローの続きが気になる。

予約していたゲームだってあった。新刊を楽しみにしていたラノベもある。

けど、なによりも……もっとココと、ニーナと一緒にいたかったなぁ。


 そんな俺の感情を無視して、刃は首に触れ……俺は意識を手放した。










「ぬっ……?」


 ゴレイヌの振るう十字架剣が、サクヤの首に触れた。

だが、そこから一切動かなかった。


「なんだ、この手応えは……?」


 首を刎ねるため全力で振るった。

だが、まったく動かない。

……いや、違う。

斬れてはいるのだ。

だが、あまりにも再生速度が速すぎて、結果として薄皮一枚しか斬れない。


「馬鹿な、十字架の剣だぞ……!」


 十字架はほぼ全て……それこそ真祖でもなければどんな吸血鬼でも効果がある吸血鬼の代表的な弱点だ。

その上この剣は聖王国の聖女の聖別を受けており、吸血鬼であれば再生を一切許さず問答無用で屠れる剣だ。

だというのに再生を許し、あまつさえ斬れないほどの再生速度など……ありえない。


「ウ……グ……ガ……」

「なにっ!?」


 さらに、その剣を斬り落としたはずの右手で握り込まれた。

そしてどこからか血液が溢れ出し、サクヤの全身を包み込んでいく。


「ア、アアア……」

「馬鹿な、これは……変身? いや、これは……」


 包み込んだ血液が、サクヤを全く別の姿へと変えていく。

全身が漆黒の体毛に覆われ、上半身が肥大化し、手足はまるで獣のそれ。

そして顔は……まるで、狼のようだった。

真っ赤な瞳には、先ほどまでの理性が全く感じられない。


 それは、変身と呼ぶにはあまりにも悍ましいものだった。


「これは……これは、なんだ……!?」


 吸血鬼狩りとしての長い経験においても、まったく経験のない事態に、ゴレイヌが混乱の極地に立たされる。

そんなゴレイヌに一瞥くれたサクヤだったものは、掴んだ剣ごとゴレイヌを投げ飛ばした。


「ぬっ……! ぐっ、がっ……!」


 吹き飛ぶゴレイヌ。


「グル……!」

「……ありえん」


 その圧倒的な速度に追従して、サクヤだったものがゴレイヌを追いかける。

ありえない、少なくともゴレイヌが戦った吸血鬼ではまずありえない速度だった。


「ガァアア!!」

「ぐっ……ああっ!?」


 そんなゴレイヌの思考を置き去りにして、サクヤだったものはその鋭い爪を振るう。

間一髪で十字架剣で防いだゴレイヌだったが、再度吹き飛び、地面に叩きつけられた。


「ぬっ……ぐっ……馬鹿な」


 身体の痛みに耐えながら剣を見れば、大きくひしゃげていた。

しかも身体強化も消えてしまっている。

つまり……完膚なきまでに、この剣は壊されてしまった。

たった一撃で、ゴレイヌが数々の修羅場をともにした剣は、あっさりと破壊されてしまった。


「ありえん……なんだ……お前はなんなのだ!?」


 返答は、爪による一撃だった。

頑強な剣すら破壊する一撃、強化も失った人体が耐えられるはずもない。


 ゴレイヌの身体は爪によって輪切りにされ、そのままバラバラに吹き飛んだ。


 勝利した喜びか、はたまた解放された力に対する歓喜か。

サクヤだったものは大きく息を吸い、遠吠えを上げた。





「アォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」





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