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4-10

 再度時は戻り、ココがまだニーナを抱えて逃げ回っていた頃。


「そらそらそらそいっさぁ!!」

「ぬっ……ぐうっ……なぜ、銀の剣が通じない……!?」


 俺が両手の氷血剣で連続で斬りかかるのを、ゴレイヌが銀の剣で防ぐ。

しかし……言われてみれば確かに氷血剣が砕ける気配はないし、時折襲ってくる銀の剣による剣戟にあまり危機感を覚えない。


 ……そういえば、昔聞いた話だが吸血鬼というのはその力が上がれば上がるほど、弱点を克服するものだという。

普通、吸血鬼の要素が強くなってしまえば弱点がより効くんじゃないかと思ってしまったのだが……どうも力が上がる=俺たち吸血鬼の祖である真祖様に近づくということらしい。

真祖様はすべての弱点を克服した完璧な吸血鬼であり、力を上げて真祖様に近づけば近づくほど、俺たち一般吸血鬼も弱点を克服していくという仕組みだとか。


 そういう意味では、真名開放によって力を増している今の俺は真祖様に一歩近づいており、弱点の一つくらい克服していてもおかしくはない。

その弱点が、敵のメイン武装である銀だったのは僥倖だ。


「そらそらどうした!? このままじゃ剣が持たねぇぞ!?」

「ぬうっ……!」


 銀とは柔らかい金属だ。ぶっちゃけ武器には向いてない。

銀製で実用性がある刃物など、精々がペーパーナイフや、フォークやナイフなどの食器くらいだろう。

だが、吸血鬼にとっては致命的な刃となる。

だからこそ奴は普通ではありえない銀でできた剣を使っていた。


 しかし、俺が銀を克服したことでその優位性は失われ、逆に弱みが露呈した。

現にゴレイヌの持つ剣は、俺の氷血剣との打ち合いですでに曲がり始めている。

このまま行けば、遠からず剣として使い物にならなくなるだろう。


「オラァッ!!」

「ぐっ……やむを得ませんね、まさかこれを使うことになるとは」


 俺の剣に奴は反撃することなく、勢いに任せて後ろへ後退し、距離をとった。

そして剣を鞘に収めるとそのまま収納袋へしまい……別の剣を取り出した。


 ……いや、剣なのか、あれは?

その剣はやけに大きくて鍔が非常に長く、切っ先が丸いどころか平らだ。

これではまるで十字架のよう…………いや待て、十字架?


「おや、気づいたようですね。そう、この剣は十字架剣。あなた方の代表的な弱点の一つ、十字架ですよ」

「やべぇやつじゃねぇか!!」


 やばい、何がヤバいって俺は十字架がかなり苦手なことだ。

中二病だった頃に十字架のネックレスを付けてみたのだが、肌に触れた瞬間火傷のような傷がついた。

シルバーだったのもよろしくなかったのだろう。一ヶ月ほど胸に十字架の跡が残ってしまった。

……アレからだな、アクセサリーが嫌いになったの。


 それはともかく、俺は克服していない弱点の中でおそらく十字架が一番苦手だ。

それが剣になって襲い来るとなると……。


「コイツは、ちっとまずいな」

「さぁ、今度はこちらの番です」


 ゴレイヌはそう宣言して、俺に斬りかかってくる。

そのスピードは、どういうわけか先ほどよりもずっと速い。


「くうっ……!」


 半ば捨てるつもりで氷血剣で防ぐと、案の定まったく抵抗を感じさせずに真っ二つになった。

その一瞬で離脱し、再度氷血剣を展開する。


「やっぱパリィは出来ないか……」


 なんせあの剣に触れた端からこっちの剣が斬れてしまうのだ。剣による防御は望むべくもない。


 となれば、俺にできることはたった一つ。


「オワタ式の完全回避……やってやろうじゃねぇか!」

「あなたにそれが出来ますかね?」


 言うとともに、奴が再び斬りかかってくる。

やはり速い……! この急な身体能力の増加はなんなんだ?

……っくっそ! 剣戟に隙が無さすぎて考えてる暇がねぇ!


「らぁっ!」

「ほう……」


 迫る剣を、無理やり蹴り飛ばして回避する。

しかし、十字架に触れた代償に足に焼け焦げるような痛みが走った。


「ちぃっ! 靴越しに触れてこれか!」

「足を潰していいんですか?」

「るっせぇ! このくらい許容範囲内だ!」


 痛みを堪えて地面を蹴る。

再生能力を切って人並みの痛覚になった状態で、何度グラインさんに投げ飛ばされ殴られたと思ってる。火傷程度の傷で俺は止まらない。


「吸血鬼とは痛みに弱いものですが……本当にあなたは変わっていますね」

「だったら剣を引くとか……」

「それは無理な相談です」

「ですよねぇ!」


 迫る剣をやむなく氷血剣を犠牲に回避。


「それは予測済みです」

「まずっ……!?」


 剣を手放すのが早すぎた。

野郎、氷血剣を完全に無視して迫ってきやがる……!


 どうする? この体勢じゃ避けきれない。どんなに頑張っても右腕が落とされる。

利き手を失うのはまずい。本当に反撃の糸口が掴めなくなる。

くっ……すまん武器屋のおっちゃん! 生きて帰れたらまた打ち直してくれ!


「クソッタレ!」


 やむなく、俺は紅椿を抜き、十字架剣を防ぐ。

この剣は俺の特性を色濃く受け継いでいる。十字架に触れたりしたら破損は必至。

だからこそここまで使わなかったのだが……命には変えられない。


 そうして、俺の紅椿と奴の十字架剣が交錯し……拮抗した。


「マジか!?」

「なんだと!?」


 両者驚きの声をあげてしまう。

いや、だって紅椿は俺の血液から作ったインゴットからできていて……いや待て、もう一つ素材があった。

そうだ、俺が冒険者稼業を始めた時からの付き合いだった、頑丈な剣がこの紅椿には混ざっている。


 頑丈な剣の特性はその名の通り頑丈さ。

どんな攻撃だろうと、万全であれば受け切れる。


 まさか、その特性が紅椿にも受け継がれているのか?

武器屋のおっちゃんは頑丈な剣の要素は俺の血液インゴットに飲まれたといっていたが……。


 だが、紅椿が十字架剣に耐えられたのはそれ以外説明がつかない。


 ……いや、理由はもうこの際どうでもいい。

奴の剣を防ぐ手立てができた。それだけで十分だ。


「だらぁ!!」

「くっ……その魔剣、なぜ私の剣が防げる!?」

「俺が知ったことか!」


 一転して攻勢に打って出る。

十字架剣はとにかくデカイ、先ほどまでのオワタ式ならそれは脅威だが、防げる今となっては隙の大きさという弱点が露呈する。


「そらそこだ!」

「ぐうっ……!?」


 ようやく、ようやく一太刀奴に浴びせることができた。

胸から腹にかけて、とても致命傷にはならないような浅い切り傷だが、ようやく見えた勝ちの目だ。

頑丈な剣の特性を受け継いでるとはいえ、やはり十字架剣と打ち合うのはきついのか少し刃こぼれしていた紅椿が、奴の血を吸って修復される。


「……なるほど、厄介な魔剣ですね。そして、純粋な剣技はあなたの方が上だ」

「わかったなら降参しろ。俺はできるだけ人を殺したくない」

「ふ、ふふふふ……本当に変わった吸血鬼だ」


 ゴレイヌが、不気味に笑う。

その笑顔は降参や、ましてや和解するような顔ではない。


「ですが、所詮あなたは吸血鬼。一皮剥けばただの化け物でしかない」

「言ってくれるな」

「真実ですから。そして私はそんな化け物を狩る人類の守り人。降参など死んでもありえない」


 そういうと、ゴレイヌは十字架剣を真横に構えた。


「本当は使いたくなかったのですが……やむを得ません。この剣の真の力をお見せしましょう」


 そういった瞬間、ゴレイヌから多大な魔力が十字架剣に送り込まれる。

同時に十字架剣から、爆発的な力がゴレイヌに送り込まれているのが感じ取れた。


「あなたも不思議だったでしょう、私がこの剣を手にしてから急に身体能力が上がったことを」

「……まさかその剣、魔剣か!?」

「その通り、効果は身体能力を上げるというシンプルなもの。ですがその倍率は非常に大きく、抜くだけでおよそ1.5倍の増加となる」


 抜くだけでそれって、じゃあ魔力を込めて力を発動させた今は……?


「そして、正式に能力を解放した現在は……およそ三倍。私でも肉体がついていけず、長時間の解放は不可能ですが……それまでにあなたを倒せばいいだけのこと」


 やばい。

さっきまでですら一太刀浴びせるのに苦労していたのだ。

だというのに、身体能力が三倍だと……?


「……こりゃ、かなりまずいな」


 ……割と絶望的だ。



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