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 俺の衝撃の正体告白に、ココは……。


「あー、道理で! なんか八重歯長いし魔力も変な感じだなぁって思ってたんっすよ!」


 ……なんか、納得していた。


「……え、そんな反応なの? なんか……もっとこう、ぎゃああああ吸血鬼ぃ!! とかならないの?」

「そういう反応してほしかったんすか?」

「いやそうじゃないけど……」


 薄い、あまりにも反応が薄い。

それともなんだ? 城での姫様やら騎士団の連中やらが過剰反応してただけで、世間一般的に吸血鬼ってこんなもんなのか?


「いやまぁ、いくらあたしでも普通の吸血鬼と遭遇したらぎゃああああ!! って反応するっすよ? でもサクヤさんっすし」

「俺は一体この短時間でどれだけお前の好感度を稼いだんだ?」

「いやそうではなく。普通の吸血鬼だったらこの部屋に入った瞬間襲ってきて噛み付くっすよ、なのにサクヤさんはわざわざ回りくどい、しかもあたしが眷属ならないよう気を使った方法で血を求めてきたっす。この時点で『ああ、この人はあたしに危害を加える気がないんだな』って思うっすよ」

「……だから怖がる必要はないって? お前を騙してるかもしれないんだぞ?」

「だから、普通の吸血鬼は騙す必要すらないんすよ。眷属化しちゃえば思うがままなんすから。なのにサクヤさんは眷属化しようとはしなかったっす」


 いや、だって俺の世界だと眷属って一生の伴侶だし……出会ったばっかでそれは流石にどうかと……。

……まぁ、こういう事考えてるから変わり者で安全な吸血鬼って認識されるんだろうな。実際そのとおりだけど。


「そもそも、普通の吸血鬼は血をもらうためにご飯奢ったりしないっすよ」

「ごもっとも」


 そりゃそうだわ。俺のじいちゃんが若かった頃はまだ普通に人を襲ってたらしいけど、そのときにも『飯を奢ってその対価として血をもらう』なんて手段は存在しないだろう。

 まぁ、なんにせよ無害判定されたならいいことだ。無駄に争いたくないしな。


「で、サクヤさん。あれっぽっちの血でいいんすか? なんならもうちょっと出してもいいっすけど」

「え? あー、じゃあお願いします」


 そんなわけで俺はココの血を飲みつつ、ココは造血作用のあるという薬草茶を飲みつつ会話を続ける。


「ところでサクヤさんはどっから来たんすか? どうもこの国には慣れてないっぽいすけど」

「俺? あー、異世界」

「はい?」


 毒を食らわば皿まで、ということで、どうせ口外できないのだしココにこれまでの経緯を全部説明していく。

勝手に召喚されて勝手に化け物扱いされて追いかけ回されて、腹いせに金品盗んで逃走……我ながらひどい経緯だ。


「いやぁ、変わり者の吸血鬼だとは思ってたっすけど、まさか異世界人とは……」

「え、そんなあっさり信じるの?」

「この世界で生きてたらありえないレベルの変わり者っすからね、サクヤさん。だったら別の世界で別の常識で生きてきたって言われたほうが信じられるっすよ」


 まぁ、サクヤさんの人柄のほうが重要なんで、異世界人だろうがホントはそうでなかろうが、あたしとしてはあんまり関係ないっすけど、と、ココは続けた。


「とはいえ……なかなか大変だったみたいっすね。しかし城の騎士とも渡り合える実力……ふむ」

「何考えてるか知らないけど渡り合えてはいないぞ。逃げ回ってただけだ」

「いやいや、それでもなかなかっすよ。城内勤務している彼らは騎士の中でもエリート中のエリートっす。そんな彼らに追われて逃げ切ったんすから大したもんっすよ」

「え、そ、そうかなぁ」


 なんかこんなに持ち上げられると照れちゃうね。実際は鎧でまごついてる隙を狙って鈍器で殴打していっただけなんだが。


「ふーむ……吸血鬼……血が必要……異世界人……騎士を相手にできるレベル……」

「おーい、ココー? 何考えてんだー?」

「おっと、失礼したっす。サクヤさん、異世界人ってことは行く当てないっすよね?」

「まぁ、そうだな」

「そして、食料の血を継続的に入手する手段もないっすよね?」

「……まぁ、そうだな」

「なんと今なら、その2つを解決できる策があるんすけど、聞きたいっすか?」

「……聞くだけ聞こうか」


「サクヤさん、あたしと冒険者として、コンビを組みませんか?」


「……コンビ?」

「そうっす。そしたら毎日新鮮な乙女の生き血が飲めますし、あたしが宿をとってあげるっす」

「いや、そりゃありがたいが……なんで俺?」

「だってサクヤさん、吸血鬼っすよね? 並の冒険者より遥かに頼りになるっすよ」

「いや、いやいやいや、さっきも言ったけど俺平和な世界出身だからね? 荒事とか一切経験してないからね?」

「そうはいっても騎士から逃げおおせたじゃないっすか。鍛えれば間違いなく強くなるっす。そしてこの世界は危険に満ちてるっすよ、強くならなきゃ生きてけないっす」


 ううむ……まぁ言わんとすることはわかる。

この世界が危険なのはもう召喚当初からわかっているし、強くなるに越したことはない。

ただ……なーんか怪しいんだよなぁ。


「ココ、怒らないしそれで話を蹴ったりしないから、正直に言え。なんで俺なんだ?」

「え、だからそれは――」

「腹に一物抱えてるやつに、俺は背中を預ける気はないぞ」

「う、そ、それは、その……」


 だって、ココは獣人とは言え人間だ。

俺みたいな怪しいやつ捕まえなくても、普通に人間とコンビを……なんならパーティを組めるだろう。

なのにわざわざ血と住処を提供してまで俺を捕まえようとする……怪しい。

 そんな疑念の目に観念したのか、ココはポツリと話し始めた。


「……あたし、この国の出身じゃないんす。東の方にある、獣人の国の出身なんす」

「まぁ、この街って獣人を殆ど見かけないから、なんとなく察しは付いてたが……それで?」

「あたし、生まれ故郷の中でも滅多にいないくらい、魔法が上手に扱えたんすよ」


 ココの話を要約するとこうだ。

 獣人の中でも魔法が得意な妖狐族、その中でも飛び抜けた才能を持ったココは神童と呼ばれ、周囲にちやほやされたことでプライドばかりが膨らんでしまった。

そして一族の期待を一身に受けたココは、帝都の魔法学校に入学した。

しかし、ココはそこで自分が井の中の蛙だったことを知ってしまう。

確かに妖狐族は強力な魔法使いだし、ココはその中でも飛び抜けた才能があった。

しかしココは努力をしなかった。才能に甘えて研鑽を怠った。

結果として、入試の順位は下から数えたほうが早く、さらに授業にもついていけなかった。


 ……要は挫折だ、ココは人生で初めて挫折を味わった。


 しかし、膨れ上がったココのプライドはその挫折を認められなかった。

努力なんか凡人がすること。才能のある自分は努力なんかしなくてもなんとかなる。

そう信じたココは……結果として、退学勧告されるまで成績が落ちた。


 そうしてさらなる挫折を味わい学校を退学したココは……生きていくため、冒険者としてお金を稼ぐことを決めた。

が、ここでもプライドが邪魔をする。

冒険者なんて荒くればかりで知性の欠片もない、と見下しまくっていたココは、そりゃあもうイキリにイキりまくった。結果――


「……後衛の魔法使いなのに、誰も組んでくれる人がいなくなった、と」

「…………面目次第もないっす」


 ……なんというか、プライドばかり膨れ上がるとろくなことにならないという見事な実例だ。

いや、プライドは大切だと思うよ。ないよりはあったほうがいい。

だがそれで人生失敗するなら、そんなもん捨てたほうがマシだろう。


「いや、反省はしてるんすよ。一回マジで死にかけたとき、見ず知らずの冒険者の方に助けられて、これからは謙虚に生きていくって決めたんすよ。けどそのときには……」

「イキりまくった悪評が広まってて、手のつけようがなかったと」

「はい…………」


 結果、ソロでもこなせる仕事で細々と食いついないでいたが、限界が来て今日ぶっ倒れたと。

……あるいは死にかけるまで折れなかったココの鼻っ柱は立派かもしれない。

まぁ、結果として死にかけたのだから……時既に遅し、後悔先に立たず。というべきか。


「なるほどね……だから俺か。血が必要で、行く宛がなくて、だけどある程度の強さが保証されてる」

「はい、お願いするっす! 血も頑張っていっぱい出すっす! なんならサクヤさんだけスイートルームでもいいっす! だからお願いっす、あたしとコンビを組んでほしいんっすよ!!」


 ココは俺に縋り付くように懇願してくる。

……まぁ、俺が断ったらマジでどん詰まりだからなぁ。

そして、俺はそんな少女の言葉を無視できるほど鬼畜(吸血『鬼』ではあるが)ではないので――


「――わかった。俺にもでかいメリットがあるしな」

「じゃ、じゃあ!!」

「ああ、組もうかコンビ。どうなっても俺は責任取れないけどな」

「大丈夫っす! 責任ならあたしが取るっすよ!!」


 ……これ、字面だけ見たら危なくない? 大丈夫?





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