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4-08


「ぬうん!!」

「ちょっ!?」


 一対一になった途端、吸血鬼狩りは私に拳で殴りかかってきた。

その拳には魔力が宿っており、見た目以上の破壊力なのは間違いない。


「あ、あんた魔法使いじゃないんすか!?」

「ぬ、そういえば名乗っていたなかったか。私はギーガ、修行僧……モンクというやつだ。普通の魔法使いのように戦うこともできるが……本職は拳による戦いだ」


 ……聞いたことがある。たしか魔法を極めるために修行をする一風変わった宗派の僧侶。

通常の魔法も扱えるが、その奥義は格闘戦にこそ宿るという。


「なるほど、厄介な相手っすね……」

「お前も魔法使いなら、距離を詰められたときの厄介さはわかるだろう。悪いことは言わん、引け。この拳は女子供を殴るためにあるのではない」

「そんな事言われて、はいそうですか、なんて言えないっすよ!」


 改めてフレイムジャベリン、今度は八連だ。

今回は掃射ではなく、一発ずつ狙って撃つ。


「そうか、残念だ」


 だが、ギーガと名乗った男はまるで流水のように避けていき、私に接近する。


「殺しはしない、しばらく眠れ」


 そう言って放たれる拳を――私は、腰から抜いた短杖で受け止めた。

魔力で強化した短杖は、ギーガの拳をしっかりと受け止めてくれた。


「ぬ、短杖だと!?」

「フレイムソード!」


 短杖の先端に炎の球が燃え上がり、そこから剣のように炎が伸びる。


「せぁっ!!」

「ぬうっ!?」


 そしてそれを振るい、ギーガの拳を焼き払った。


「……なるほど、なかなかの威力だ」


 ……が、あまり効果はないようだ。やはり纏っている魔力をなんとかしなければ拳を砕くことはできなさそうだ。

とはいえ……私もまた、近接戦という土俵に立てた。


「近接戦闘ができる魔法使いがモンクだけだと思ってもらっちゃ困りますね。こちとら一月くらいソロで戦ってたくらいには、近接戦闘ができますよ」


 そう、最近はサクヤさんとニーナちゃんという頼もしい前衛がいたからやることもなくなったのだが、かつての私は組んでくれる人がいなかったせいで、魔法使いなのにたった一人で戦わなければならなかった。

そんなときに編み出したのがこの魔法。

ファイアボールを変形させて、剣として扱う魔法だ。

問題は私自身そんなに剣術に精通していないというところだが……問題はない。


「さて、その拳であたしと戦いながら、魔法を躱せますかね?」

「……厄介だな。まるで二人と戦っているようだ」


 そう、私の本職は魔法使い。

剣はそこそこでいい、魔法を当てる隙さえ作れれば。


「さぁ、行くっすよ!」

「面白い、来い!!」


 ……私の中で剣術といえば、やはりサクヤさんの動きが一番頭に焼き付いている。

しかしあれは本人曰く未完成のものらしいし、何よりあれは吸血鬼用の剣術だ。

人間では不可能な反応速度と体捌き、特に時々やってる関節を曲げちゃいけない方向に曲げてる動きは常人には真似できない。

アレは関節を自在に外せる肉体制御と、それをすぐに治癒できる再生能力がなければできるはずもない。


「ぬう、その動きは……!」

「っつぁあああああああ!!」


 ならば、魔力による身体強化、その副次効果による肉体制御と、回復魔法による再生能力を持つ私でもできる。

反応速度は探知結界、体捌きは身体強化、必要な要素は全て揃っている。

あとは、人外の動きに伴う痛みに耐える根性だけ!!


「っだぁあああああああ!!」

「……ぐっ、その剣術……吸血鬼のものか!」

「ご明察……あたしはこれくらいしか剣の振り方を知らないんすよ!!」


 だが、それだけでは足りない。当然だ、私は剣の修行などしていない、見ていただけなのだ。

だからどうしてもできてしまう隙を、魔法で埋める!


「フレイムジャベリン……七連射!!」

「剣と並行しているせいか……? 射撃が単調だぞ!」

「んなことわかってるんすよ!」


 反撃、来る、サクヤさんなら――受け流す!

フレイムソードは実体がないので受け止めることができない。

だが、敵の攻撃は拳、刃物ではないので真正面から受けなければ、腕でも受け流して……。


「っつ、ああああああ!!」

「甘いな、我が腕はすべてが刃に勝る凶器、その細腕で受けきれると思うな」

「あぐっ……ええ……骨身に沁みたっすよ!」


 すぐさまフレイムジャベリンを打ち込んで距離を取る。

……右腕は完全に折れている。しかも複雑骨折。

これは治癒まで時間がかかる。


 ……脅威度を訂正、あの腕は受け流せない。

サクヤさんなら受け流せるだろうけど……たぶん彼も瞬間的な再生を使うことになると思う。

吸血鬼ほどの再生能力を持たない私では受け流せるはずがない。


「そも、攻撃の受け流しは高等技術だ。見取り稽古で習得できるほどたやすくはない」

「……そういや、サクヤさんもボコボコにされてようやく習得してましたね」


 初めてギルマスの攻撃を受け流せたってめっちゃ喜んでましたからね。

さすがにアレをコピーするのは無理があった。


「なら、完全回避するまでっすね」

「できるものならやってみろ」


 折れた右手から左手に短杖を持ち替え、フレイムソードを更に燃え上がらせる。

ギーガも両拳をぶつけ、魔力をたぎらせている。

……もう少し、がんばりますか!


「はぁあああああ!!」

「ぬおおおおおお!!」


 魔力を込めた拳がフレイムソードとぶつかる。

炎と拳、ぶつかるはずのない二つが衝突し、激しい魔力の奔流が迸る。

その反動を利用して回転、再度斬りかかる。

が、これは片腕で受け止められる……想定内!


 腕と剣が交錯する一瞬、私は魔法を解除した。


「ぬう!?」


 そして、腕をすり抜けた瞬間再度展開!


「その首……もらったぁ!!」


 すり抜けた炎の刃は、ギーガの首に届き――


「なっ……!?」

「……先程は我が腕と言ってしまったな、訂正しよう。正確には我が肉体、その全てが刃に勝る凶器よ」


 ――その首に焦げ目一つ付けられず、止まってしまった。

こいつ、両腕だけじゃなくて全身に魔力を――


「セアッ!!」

「がっ……は……!!」


 振り抜いて隙だらけの私を、ギーガが見逃すはずもない。

強烈すぎる掌底が私の腹を穿ち、私は吹き飛んだ。


「くっ……うっ……ゲホゲホッ!」


 咳き込めば血が混じっている、いや立派な吐血だ。

アレだけの攻撃を喰らえば、そりゃ内臓も傷つく。むしろ破裂しなかっただけありがたい。


「行動不能になる程度に加減して打った。もう力量差はわかっただろう。引け、これが最後通告だ」

「……引け、ませんね」


 腹の回復を済ませて、立ち上がる。

たしかにあのままだったら私は動けなかっただろう。だが、今の私ならどうにかなる。






「……あのミエルとかいう女、おそらく吸血鬼狩りだろうな」


 戦闘準備を整えると行ってミエルと離れたあと、サクヤさんはそういった。


「んで、お前らには安全のためにこれを渡しておく」


 そう言って渡されたのは、真っ赤な丸薬だ。


「コイツは俺の血液から、再生能力を抽出して作った丸薬だ。飲めば数分間だけ、吸血鬼並みの再生能力を得られる」


 効果時間が曖昧なのは勘弁してくれ、まだ実験できてないんだ。と言いつつ、サクヤさんは続ける。


「ただ、絶対に気軽に使うな。できることならこれ抜きで勝ってほしい。……コイツは俺の血液だ、吸血鬼の血液を取り込むということは、吸血鬼に近づくということ。この少量の丸薬であっても、どんな影響が出るかわからん」


 サクヤさんはピッと人差し指をたてると、私に向けてきた。


「特にココ、お前は後衛だ。もちろん俺もニーナもお前から離れる気はないが、奴が各個撃破を狙ってくる可能性もある。そうなったら、使うのはまずお前だろう」


 指を私の鼻にあて、サクヤさんは言葉を続ける。


「いいか、お前の目標は第一に自分の命だ。そのためなら使っても構わん。ただし、第二目標として、コイツは使うな。……難しいが、お前ならできるだろ?」






 ……すみませんサクヤさん、第二目標は達成できなかったっす。

奥歯に仕込んだ丸薬を噛み砕き、飲み込む。

すると一瞬で先程の掌底のダメージが消え、陰りを見せていた魔力が滾ってくる。


 ……危ないところだった。

せっかく仕込みは済んだというのに、私が行動不能になっては意味がない。


「やれやれ、無駄な努力だな。……ゴレイヌが相手している以上、あの吸血鬼の死は絶対だ。お前がこの場で頑張っても無意味だ」

「いいえ、あなたを倒してサクヤさんと合流すれば、その計画は破綻します。そして、そのための布石は打ち終わった」

「……なにを」

「あたしがただ魔法を打ち込んでただけだと思ってたんすか? 焦げた箇所、よく見るといいっすよ」

「……なに、これは、まさか……結界陣!?」

「ご明察……ブラストフィールド」


 私の合図とともに、私が刻んだ結界陣が起動する。

この結界は単純だ。空気の壁で指定した空間を隔離し――内部の空気を抜き、真空にする。

そしてこの魔法はブラスト級……風魔法最上位魔法。

打ち合った感じからして、彼の拳では破れない。


「悪く思わないでくださいね。あたしらのモットーはできる限り殺さない。……あなたは殺さず無力化できるほど弱くない」


 ……サクヤさんは気づいていなかったが、私はすでに人を殺したことがある。

この帝都に来るまでの道中、襲ってきた盗賊を殺した。

……あのときの感覚は本当に恐ろしくて、辛かった。

もう二度と人殺しなんかするものかと思っていた。

……けど、サクヤさんのためなら、罪悪感に押しつぶされようとも、私は迷うことなく人を殺す。


 バン、バンと拳を叩きつける音が聞こえる。

その顔を見れば、パンパンに腫れ上がって、目玉が飛び出している。

……そういえば、サクヤさんが言っていた。

この地上に生きるすべての生き物はつねに空気に押し付けられていて、その圧力とバランスが取れているから今の姿なのだと。

もし外からの圧力がなくなれば……最悪人体が破裂するとか。


「まぁ、頑強な肉体のようですし爆ぜることはなさそうっすね。……それでは、さようなら」


 私はギーガに別れを告げ、すぐさまサクヤさんの魔力感知を始めた。

それ自体はすぐに成功した。なんせ探るまでもなく、強大な、魔力が漂っているのだから。


「サクヤさん……一体何が!?」






「アォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」







「っつう……!?」


 その瞬間、耳をつんざくような狼に似た遠吠えが響いた。




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