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4-02

 その後、旅に必要なテントだったりの野営道具や毛布などの衣類や寝具、携帯食料やらあったら便利そうな魔道具を次々と買い漁ったところで、ふとあれが目についた。


「馬車か」


 旅をする上で、馬車があったほうが楽だろう。

歩くより遥かに楽だし、必要ない時は収納袋に仕舞えばいい。あのくらいのサイズなら普通に入るし。

お金に余裕もあるし、一台くらい買っちゃおうかなぁ。


「ご主人、馬車はやめとけ」


 そんな俺の考えを読んだのか、ニーナがそう言ってきた。


「え、なんで? あったら便利じゃん」

「まぁ、便利なのはそうだけど……馬車なんて乗ってたら金目のもの一杯積んでますって言ってるようなもんだ。盗賊がうじゃうじゃ寄ってくるぞ」

「あー、それは嫌だな……」

「まぁ、護衛と見せかけてアタシらが馬車のそば歩いてりゃ話は違うが……それじゃ意味ないだろ?」

「たしかに」


 人殺しは嫌だし、なにより面倒くさい。

戦わなくて済むなら戦わないのが俺の主義だ。

と、ココも会話に加わってきた。


「それに馬車ってものすごい揺れるっすよ。初めて乗った時なんかお尻が割れるかと思いましたもん」

「ああー……揺れなぁ……」


 思わずココの胸に目がいってしまうが、あいにくと俺は貧乳派なので特段変な気持ちにはならなかった。


 それよか揺れかぁ……痛いのは何とかなるとしても、俺乗り物酔いしやすいんだよなぁ……。

日本の自動車ですら酔ってた俺が、あれより遥かに簡素な作りの馬車の揺れに耐えられるとは思えない。


「馬車はやめとくか」

「あ、でもご主人、馬ならアリじゃねぇか? 揺れもそこまでひどくないし、馬に乗った旅人って一般的だからそこまで盗賊も寄ってこないだろうし」

「なるほど、馬車ではなく馬だけか……」


 悪くないな。

運転手は乗り物酔いしないっていうし、自分で手綱を引く馬なら大丈夫かもしれない。


「とりあえず試しに乗ってみたいな」

「じゃあギルドっすね。冒険者限定で馬の貸し出ししてるんすよ」

「へぇ、返す時はどうすんの?」

「現地のギルドに返却すれば大丈夫っす。ちなみに貸し出した履歴はギルドカードに残るんで、盗むと一発でバレて冒険者資格取り消しになるっす」

「そういや俺の世界でも似たような仕組みがあったな」


 あれは自転車だったか。

夏休みに友達の家でゲームやってたら、白熱しすぎて終電無くなって、帰るために借りたんだっけ。

あれは便利だったし助かった。


「たしか試し乗りもさせてもらえるんで、行ってみます?」

「そうだな。俺乗馬の経験ないし、どんなもんか体験しておこう」


 そんなわけでギルドに向かった……のだが。











「ぬおおおおおおおおお!! すとっぷ、すとーっぷ!!」

「ブルルル!! ヒヒィン!!」

「ぎゃああああああああ!! なんで俺だけロデオなんだよぉおおおおおおお!!」


 ココは、なんだかんだで割とあっさり乗りこなした。

ニーナもさすがの身のこなしと、ちょっと殺気を当てることでマウントを取り、言うことを聞かせていた。

で、二人ができたんだから俺もできるだろうと、一頭の馬に跨った瞬間……馬が半狂乱になってこの有様だ。


「ヒヒィン!!」

「ちょっ、やめっ! アッー!!」

「ブルァ!!」

「げふぅ!?」


 半狂乱になった馬に俺は振り落とされ、さらに後ろ足でキック食らった。

お、おおう……これ、普通の人だったら死んでもおかしくない威力だぞ……。


「さ、サクヤさん大丈夫っすか!? 今回復魔法を……」

「ブヒヒィン!!」

「っだぁー!! 危ねぇ!!」


 ココが心配して馬に乗ったまま駆け寄ってきたら、ココが乗る馬が俺の頭を踏み砕こうとしてきやがった。

すんでで避けられたが……こいつら俺に対して殺意高すぎない? 何で俺初対面の馬にこんなに嫌われてるの?


「す、すみませんサクヤ様!! こらダメだろうお前たち!」


 慌てて厩舎の人がやってきて、馬を宥めてくれた。


「はぁ……助かりました。……あの、でも様付けはちょっと」

「とんでもない! あの魔族を打ち倒し、ギルド登録から最短でAランクまで上がったあなたはもう伝説です! 様付けしないわけにはいきません!」


 誰か塗り替えてくれこんな伝説。

ああやりにくいなぁ、この人の態度然り、馬どもの言うことの聞かなさ然り。


「にしてもなんで俺だけいう事聞いてくれないんだ……?」

「申し訳ありません、普段はおとなしいいい子たちなんですけど……」


 とてもそうは思えない暴れっぷりだったけど、という言葉はぐっと飲み込んでおく。

実際俺が離れたら落ち着いた様子だし。解せぬ。


「あー……ご主人あれじゃね? ほら、種族」

「種族? あ、あー」


 馬から降りたニーナに言われて、思い当たった。

そうだ、俺吸血鬼だったわ。

動物はそういう気配に敏感だって言うし、俺が吸血鬼だからそれを怖がって暴れたのかも。


「ううむ、となると俺が乗馬は無理か……」

「だろうなぁ。後ろに乗せてもらうにしても、ご主人が近づいた瞬間暴れたから無理だろうし」


 犬猫ならすぐなつかせられるんだけどなぁ……ああ、でもあれは居住区で吸血鬼に慣れ親しんだ奴らだったか。

……ってことは、俺素だと動物に嫌われる体質なの?

うわぁ……いやだなぁ、動物好きなんだよ俺。

一番好きなのはわんこだけど、馬も結構好きなんだがなぁ……某擬人化ゲームもまっさきに飛びついたし。

ああなんだかゲームやりたくなってきた。でも電波届かないし……うごごご……。


「ご主人、ご主人。考えがそれてると思うぞ」

「おっといかん」


 しかし種族が問題となると……馬は諦めるほかないか。


「ああ、なら吸血鬼でもビビらない図太い馬なら大丈夫じゃないっすか?」

「図太い馬?」

「例えばほら、気性が荒くてなかなか言うことを聞かない馬なんかは、サクヤさんへの恐怖で程よく落ち着きそうじゃないっすか」

「……なるほど」


 随分雑な理論な気もするが、言わんとすることはわかる。

気性の荒さを俺への恐怖心で中和するわけだ。……なんかそんなヒーローいたな。ベルトの副作用で好戦的になるのを生来のヘタレさで中和してたの。ベルトに適合したから副作用なかった説もあったが。

まぁ、それはさておき、物は試しだ。やってみよう。


「というわけで、この厩舎で一番気性が荒い馬ってどれです?」

「ええ……いや、まぁ、お望みでしたら……こちらです」


 そう言われて案内された先にいたのは……某世紀末覇者が乗ってた馬かと見まごうほどの巨体の馬だった。


「ブルルル……」


 え、ええと……こいつ、他の馬と同じでサラブレッドだよね?

おかしくない? なんでこんなでかいの?

聞いてみたら体重六百キロだってさ。サラブレッドの平均体重って四百キロちょいだったと思うんだけど。

しかも気性が荒すぎてなかなか測れないらしくて、最後に計測できたのって三年前だってさ。今はどのくらい重いんだろうね。


 ……あかん、まかり間違ってこいつに蹴られでもしたら吹き飛ぶ。蹴られた部位が。


「だが、ちょうどいい……」


 俺を真正面に見据えても、この馬は半狂乱になっていないし、恐怖心も持っていない。

ならば、従わせることさえできれば、こいつに乗れるはずだ。


「快適な旅のためだ……やったらぁぁああああああ!!」

「ブヒヒイイイイイイン!!」


 そこからはもう死闘だった。

全力で身体強化をして、奴の突進を真っ向から受け止めて投げ飛ばし、時にはこちらがぶっ飛ばされ。

うっかり蹴りを受けたときは腕がちぎれかけたが、再生能力を全開で回してその足を持って投げ飛ばした。

動物虐待なんて言ってくれるな、これは互いの生存をかけた戦いだ。


 飼育員さんもココもニーナもドン引きしていたが、俺は必死だった。

なぜなら俺だけ馬に乗れないのが悔しいからだ。女性陣が乗れているのに俺だけ乗れないとか嫌すぎる。


 そんな俺の意地と、誰も背に乗せてやるかという馬の意地のぶつかり合いは……最終的に押し倒して首を押さえた俺の勝利となった。


「よっしゃあ!! 見たかオラァ!!」

「ブルルル……」


 馬は立ち上がり、すっとしゃがんでみせた。

言葉は通じないが、なんか「敗者は勝者に従うまでだ……乗れ」って言ってる気がする。

あの死闘は、種族の壁を超えてコミュニケーションを可能とした。


 俺は勝利を噛み締めながら、馬にまたがる。

すっと立ち上がった馬は、暴れず、俺を振り落とそうともしなかった。


「乗れた……乗れたよ俺!」

「あー、えーっと……お、おめでとうございます?」

「おめでとうご主人!」

「おめでとうサクヤ様!」

「いやぁ、はっはっは、くるしゅうないくるしゅうない」


 そのままパッカパッカと牧草地を一周する。

おお……これが馬上から見た景色か……死闘を経ただけあって実に感慨深い。


「あー、えーっと……サクヤさん?」

「おお、どうしたココ?」

「あの、楽しんでいるところ申し訳ないんすけど……旅をするなら、馬乗り換えますよね? どうするつもりっすか、その子」

「………………え? 返さなきゃダメ?」

「えと、その、旅路を考えると山岳地帯とか馬が通れない道も通りますし……返さないわけには行かないかと」

「…………ガッデム……!!」


 がっくりと項垂れる俺に、元気出せよとばかりに馬が顔を擦り寄せてくれた。






 ……協議の結局、徒歩で旅することになりました。

完全に時間の無駄じゃねぇかこのくだり!!




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