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 ……俺は、フードファイトの動画でも見せられているのだろうか?


「がつがつはむはむむしゃむしゃもぐもぐぐびぐび……っぷぁー!! サクヤさんおかわりいいっすか!?」


 ものすごい勢いでなくなった料理と、それでもまだなお衰えを見せぬ食欲。

この狐っ娘、やばいぐらい食う。


 いや、そりゃ倒れるくらい空腹だったのはわかるけどさぁ……ここまで食うか。その小さな体のどこに収まってんだ。

ちなみに所持金もものすごい勢いでなくなっている。

とはいえ毒を食らわば皿まで、約束を違えるのは主義に反する。


「ああいいよ……好きなだけ食えよもう……」

「あざっす! マスター、ここからここまで全部おねがいするっす!!」

「好きにしろとは言ったけどちったぁ遠慮しろや!!」





「マスター、次は――」

「……嬢ちゃん、悪いが店じまいだ。食材がもうない」

「あらら、残念っす……まだ腹八分目なんすけどねぇ……」


 こいつ……! 店の食材食い尽くしてまだ食えるだと……!!


「まぁいいや、ご馳走さまでした~。はー、三日ぶりにマトモな食事にありつけたっすよー。サクヤさんには感謝しかないっす」

「ああそうかい……そりゃよかったよ……」


 ああほんと……多めに金貨パクっといてよかったなぁ……それでも底が見え始めてるんだけど。

こりゃ人選ミスったかなぁ……。

まぁ、過去は変えられない。そして俺的にはここからが本番だ。


「じゃあ約束通り血をくれ。はよはよ。ハリーアップ」

「そんな急かさなくてもわかってるっすよー」


 こっちはお前の食事シーン見せられたせいで余計に腹減ってんだよ。

はよ血をくれ。


「じゃあ、どうぞっす」


 そういってココは、袖をまくって腕を差し出した。


「……え?」

「え?」


 えっと……ここからどうしろと? 噛んでいいの? いやだめだよ眷属化しちゃうよ。


「え、いやサクヤさん、実験のために血液が必要なんすよね? なら採血してもらわないと。ほら、道具あるっすよね?」

「さ、さいけつ」


 そういうのもあるのか。

じゃないわ! まずいぞ、俺採血用の道具なんか持ってないって!

どどどどうしよう道具も持ってないのに血がほしいとか完全におかしいやつでしかないぞコレ!


「……サクヤさん、ひょっとして実験目的とか嘘っすか?」


 ほらぁー! 疑われ始めちゃってるよー!!


「べべべべっつにぃ? ちょーっと道具忘れただけですしぃ? ちょっくらひとっ走りして取ってくればいいだけだから」

「サクヤさん、誤魔化すの下手すぎっす」

「はぁー? 一向に誤魔化してなんかいませんがぁー?」


 まずいやばいどうしよう。採血の道具ってどこで売ってんの? 病院、薬局? そもそも採血ってどうやんの血管に針刺すのはわかるけどどの血管だよ動脈? 静脈? いや静脈だよ動脈なんか刺したらプシューってなるわ。いやだいたいどれが静脈かなんて知識ないしそもそも血管自体見えないよどうしたらいいんだー!!


「あの、サクヤさん」

「ハイナンデショカー!?」


 いかん、不意打ちされて変な声出た。


「なにやら訳アリの様っすね?」

「えー、あー、うん。まぁそうだな。訳アリだ」


 吸血鬼という特大の訳アリだ。


「ひょっとして女性が流血する姿に興奮を覚える特殊性癖だったりするんすか?」

「そんなわけねぇだろ」


 そんなわけ……いやあるかもしれない?

いや別に女性が流血した姿というか、単純に流血シーンは吸血鬼みんな大好きだし……飯テロ的な感じで。

あ、ゾンビものはだめです。血液腐ってそうじゃんあれ。


「まぁ、なにはともあれここでは採血できないわけっすね?」

「……ううむ、そうだな。そうなる」

「ふむ、じゃああたしの部屋来ましょうか」

「ふぁっ!?」















 まぁ、部屋に行くといってもココが泊まってる宿の部屋だし、何よりこの宿、セキュリティがしっかりしてるようで、受付の背後に怖いお兄さんがいた。おそらく狼藉を働いたら彼らに袋叩きにされるのだろう。


「えっと……防音結界に遮光結界、透視妨害の術式も合わせてっと……うん、これでこの部屋のことは誰にもわからないっすよ」

「……え、初対面の俺のことそんなに信用して大丈夫かお前」


 こいつ自ら宿屋のセキュリティ切りおったわ。大丈夫なのかその防犯意識。


「大丈夫っすよ、信じてますから」

「ココ……」


 なんだよ、そんな事言われると何もできねぇじゃねぇか……(もとからする気はない)。


「それにほら、このスイッチ押せばブザーが鳴るんで。このブザー音だけは透過するように設定してあります」

「俺の感動返せこの野郎」

「まぁまぁ、信じてるのは本当っすから。そして極めつけに……」


 そういってココが取り出したのは、A4くらいの羊皮紙だった。

非常に細かい文字が刻まれていて、よく読み取れないが……契約とか、約束とか、束縛とか拘束とか書いてある。

そして真ん中と左下にスペースが空いている。記入欄……だろうか?


「契約魔法のマジックスクロールっす。コレに契約内容と契約者両名のサイン、そして血判を押すことで契約がかわされ、双方の同意がない限り絶対に破られることはないっす。これでこの部屋で知り得た情報は口外しない、と契約すれば、サクヤさんの秘密がバレることもないっす」

「なるほど……」


 試しに触れてみれば、たしかに羊皮紙から強い魔力を感じる。

断片的に読み取れた文字も契約に関するものだったし、ほぼ間違いないだろう。


「それじゃあ、契約魔法を交わしましょう」


 ココがペンを執るとスラスラと文字を書いていき、最後に署名をして渡してきた。

うん、内容も間違いないし俺もサインを…………あ。


「……すまんココ、俺この辺の文字が書けない」


 やべぇ俺って読めるだけで書けないじゃん。

なんだよ召喚特典、そういう細部まで気を使えよマジで。


「あ、大丈夫っすよ書ける文字で。大事なのは本名を差し出したことっすから」

「へぇ、そういうもんなのか」


 あれか、儀式的なあれそれなのかね?

ともあれ、そういうことなら普通に感じで……望 月 朔 夜 っと。


「へぇー、ヤマトの国の文字っぽいっすね」

「え、漢字使う国あんの!?」


 マジかよそれ絶対日本人が関わってるやつじゃん!

うわぁー、行きてぇ。絶対変える手がかりあるだろ。


 ……まぁ、それは先の目標だ。今は血をもらうために頑張ろう。


「それじゃあ五指すべての血判を押して契約完了っす。はいナイフ」

「おう」


 俺とココはともに親指を切って、流れた血を他の指につけ、血判を押した。


「うおっ!?」


 するとスクロールは燃え上がり、灰も残さず燃え尽きた。

しかし契約自体は完了したようで、集中すればココとの間に奇妙な魔力のつながりがある。


「契約完了っす。これであたしたちはこの部屋で知った情報を、口外できなくなりました」

「口外しようとしたらどうなる?」

「魔力で強制的に口を閉じさせられるんで、運が悪いと舌を噛み切るんじゃないっすかね?」

「え、なにそれこわい」


 まぁ、この部屋で知り得た情報だから、そこまで気にする必要はなさそうだが……。

ともあれ、契約は交わされた。

ならばあとは、血をいただくだけだ。


「じゃああとはあたしの血を出すだけなんすけど……」

「あー、じゃあコップある?」

「あるっすよ、はいこれ」


 そう言って出してきたのは陶器のマグカップだ。うん、まぁ問題なかろう。


「そしたら指出して、さっき切ったとこな」

「はいっす」


 おー結構深く切ってるなぁ。回復魔法があるから大丈夫ってことなのか?

ちなみに俺の傷はすでに治っている。むしろ血判を押すために傷を開いたままにするほうが神経使った。


 そんな治りきった親指で、ココの傷口から流れる血に軽く触れる。

流れてるってことは、血管の血液とつながってるってわけで、そこに魔力を通せば血液操作で操れる。

なのでそのまま血液を操り、マグカップに向けて血液を流し込んでいく。


「んおっ!? な、なんすかこの魔法! 血が、血が勝手に流れてくっす!!」

「あー、これは魔法じゃないんだ。俺の固有能力」

「血液を操る固有能力……って、まさか」


 おー、ちょうどいい感じに溜まったな。

俺はココの指から手を離し、血液の溜まったマグカップを持ち――


「じゃ、いただきます」


 ――そのまま一気に呷った。


「サクヤさん、あなたは……」

「……かぁー美味い!!」


 飲み干したカップを置き、ココを試すように見つめながら、答える


「ああそうだよ、俺は……吸血鬼だ」


 ココの反応は、果たして――




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