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3-15

 魔族が倒れ、ひとまず緊急任務が終わった。

俺たちもまた、冒険者ギルドに戻り――


「――なぁ、やっぱヤバいかな?」

「ヤバいっすよねぇ……」


 ――沙汰を待つ、犯罪者の気分を味わっていた。


 なぜかと問われれば、俺は魔族との戦いの際に吸血鬼としての力を全力で振るってしまったからだ。

おまけに真名開放などという禁断の術まで使ってしまい……結果として俺は黒髪黒目の姿に戻ってしまって……要するに、冒険者ほぼ全員に吸血鬼バレした。


「くっ……せめて髪の色だけでも維持できていれば……」

「いや、あんだけ派手に血液操作使ってたら意味なかったと思うぞ?」

「ですよねー」


 ……まぁ、結果として俺たちは冒険者ギルドまで連行され、ギルドカードをグラインさんに預け、こうして沙汰を待っている。

沙汰としては……よくて冒険者資格剥奪、最悪はこのまま城まで連行されることだろう。

そうなったら全力であがくが……魔族との戦いで消耗した今、これだけの数の冒険者に取り押さえられたら抵抗できない。


 ……そんな心臓に悪い時間をどれだけ過ごしただろうか。

やがて足音とともに、グラインさんがやってきた。


「ふむ、揃っておるようじゃの」


 そう言って、グラインさんは俺とココにギルドカードを返してきた。

……え、返してくれるの?


「よろしい、では本日を持って、お主ら二人はAランクに昇格じゃ!」

「え」

「ええ」

「ええええええええええええ!?」


 え、いや……待って、待ってくださいマジで!


「なんじゃ、不服か? とはいえ流石にSランクはのう……」

「いえそうではなく! 俺、俺! 俺こんなですけどいいんですか!?」

「なんじゃ髪のことか? どうやったかは知らんが、別に色を変えてはならんなどという規定はないぞ」

「そうではなく、吸け――」

「――なにか言ったかの?」


 俺の言葉を塞ぐように、グラインさんが俺の口に手を当てる。


「まぁ、お主らの疑問もわかる。じゃがお主らは儂らギルドに不利益を与えたかの?」

「いや、それは……」

「むしろワイバーンの素材売ったり高難易度の依頼こなしたり魔族を倒したり、利益ばっか上げてるな」

「お、おいニーナ!」

「いや、まったくもってそのとおりじゃ。たとえお主がどんな種族であれ、これほどの利益を上げてくれるのであれば、ギルドとしても全力で囲おうというものじゃ」


 えーっと、つまり、ギルドの利益になる限りは保護してくれる……ってことか?


「それに、一応他の主力冒険者達に採決を取ったがの、誰一人として今回の決定に反対はせんかった。お主が今まで努力しておったのを、みな知っておる。特に今回、お主はたった一人で魔族を引き受けた。その尽力こそが、種族の壁なんぞどうでもいいと思わせてくれたのじゃよ」

「そういうこった、胸張れ坊主」

「あ、瀕死になってたおっさん」

「ガラッゾだ! まったく……命の恩人じゃなかったら殴ってたぞ」


 そう言いつつも、おっさんは親指を立ててサムズアップしてくれた。


「……はは、そっか。みんな、俺の種族なんてどうでもいいって思ってくれてたのか」

「……よかったっすね、サクヤさん」

「まぁ、みんな意外と見てるってこった。だから胸張れよ、ご主人」


 ココとニーナの言葉に、思わず目頭が熱くなる。

……そっかぁ、みんな俺のこと、見ててくれたのか。


「……ああ、そうだな! よっしゃみんな飲むぞ! Aランク昇格祝だ! 俺のおごりだ!」

「バカ言え主賓に奢らせられっかよ! サクヤたちの分はみんなでカンパだ! というわけでさぁ飲めじゃんじゃん飲め!」

「げっ、クライス……いや俺は酒は飲まないって決めたんだ!」

「まぁまぁこんなときくらい飲もうじゃないか」

「ヴァルト!? やめろ、飲ませようとするんじゃない! やめろー!!」


 ……そんなふうに楽しげな時間が過ぎていく中、ふと思った。

あの吸血鬼狩りたちは、今どこにいるのだろう……?











☆☆☆


「ええ、間違いないかと。サクヤ・モチヅキ、奴こそ我らの探す吸血鬼でしょう」


 薄暗い宿の一室、白装束に身を包んだ男が、遠話の魔道具で何かを話し込んでいた。


「ええ、予定通り狩ります。冒険者たちの反発は予想されますが……そこはあなたの手腕に期待させていただきます。ルーミア殿下」


「ええ、すべての吸血鬼に死を。これこそが我らの正義。たとえ人間の味方をしようと、魔族から人々を守ろうと、関係ない」


「我らは吸血鬼であれば狩ります。人類の味方も、人々を守るものも、全て関係なく、吸血鬼であれば狩ります」


「なぜならば、吸血鬼は吸血鬼でしかないからです。人類の味方であることなどありえない。人々を守ったのも結果としてそう見えただけ」


「吸血鬼とはそういう生き物です。ですからこそ、我らのような狩人がいる」


「ええ、逃しません。必ず狩りますとも」


「我ら『暁の守り人』が、必ずやあの吸血鬼に正義の鉄槌を下します」


 そんな、聞くものが聞けば狂気を感じる会話が続く部屋……の隣の部屋。

壁に手を当て、魔法陣を広げる女がいた。

女は少女と女性の中間といった年の頃で、銀髪に金の瞳……そして普通の人間ではありえない、美しい純白の翼を持っていた。


 その女の手から広がる魔法陣は、見るものが見れば風魔法であり、更に詳しいものであれば空気の振動……すなわち音を読み取るものであることがわかるだろう。


 そんな盗聴魔法で『暁の守り人』を名乗る吸血鬼狩りの言葉を聞いた女は、美しい顔にそぐわぬ邪悪な笑みを浮かべていた。


「へぇ……狂信者集団がいるから何事かと思ったら……サクヤ・モチヅキ……ね」


 魔法陣を消し、収納袋から道具を取り出す女。

中身は銀の鏃、聖水、白木の杭、十字架、日光を蓄積できる蓄光の魔道具、エトセトラエトセトラ……。

おおよそ吸血鬼の弱点の言われているものが、大体揃っていた。


「その吸血鬼、私が先に狩らせてもらうわ。この『天使族』最強のヴァンパイアハンター、ミエル様がね」


 ……サクヤの新たな戦いは、すぐそこまで迫っていた。






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